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ウィザード


最初に実技を行うのは出席番号順で幸仁だ。
幸仁は箱から自分用の杖を取り出し、丁寧に黒く美しい黒曜石の宝珠をセットする。
集中力を高めるようにして深く息を吸って、幸仁はベルガ先生にうなずいた。

「準備はいい?闇属性、オシノユキヒトくんの合格条件は、この教室の明るさを100ルクス以上暗くする下級支配魔法の発動。自分のタイミングで発動していいよ」

幸仁はもう一度うなずき呪歌の詠唱を始めた。
闇の属性文字の発音は知らないからなにを言っているのかはわからないけど、発動範囲や強さをしていしているのだろう。
真剣な表情で詠唱し終わった幸仁の杖の先に、闇の属性分子が集まっていくのがおれの目にも見て取れた。
黒いもやのようなそれが脈動するように収束し、それから幸仁の声を合図に一気に教室に拡散する。
教室が薄暗くなり、ベルガ先生が満足げにうなずいた。
幸仁は数秒その状態を維持して、それから魔法解除の合図を出すと教室は元の明るさに戻る。

ベルガ先生が小さい手ながらも大きな拍手を鳴らした。

「よくできたね、完璧だよ!暗さの制御もきちんとできてるし、呪歌の構成にも無駄がなかった。合格だよ!」

幸仁はほっと肩をなでおろし、おれを振り返ると小さくガッツポーズをとった。

「すごいじゃん!ユキ!さすがおれの親友だな!」

明るく快活な天王寺の祝福にも幸仁は照れくさそうにはにかんだ。

「ありがとう、みんなのおかげだね」

おれはわざと重々しくうなずいてみせると、幸仁は緊張が緩んだ癒し系の笑顔を見せてくれた。

「さ、次はシイバ君の番だよ。準備をはじめて?」

ベルガ先生はてきぱきと次のテストの採点準備を始めている。
少し離れた机に的となるプリントを半分に折って立て、おれの立ち位置に目印を置いた。
おれも慌てて箱から自分の杖を取り出すと、宝珠をはめ込んだ。
淡いグリーンに輝く宝珠に、緊張した自分の顔が映る。

大丈夫、おれなら大丈夫。
練習ではちゃんと成功したし、きっとやれる。

目印の位置に立って、ベルガ先生に目配せする。

「はじめていいかな?風属性、シイバロクくんの合格条件は、1m以上はなれた場所に3ノット以上の風を起こす下級支配魔法の発動。いいかな?」

おれは頷き、杖を両手で握り前に構えた。
息を大きく吸い込んで、覚えた呪歌を詠唱する。

“発動場所、自分を起点とした1m前方。発動内容、3ノットの至軽風”

風の属性を持った発音は宝珠に集まりつつあった風の属性分子に絡みつき意味を持っていなかったエネルギーに方向性を与える。

“発動まで、3、2、1、”

カウントを取りながら頭に風が起こる様子を思い描いた。
最近になってようやく自覚できるようになった魔力が自分の体からあふれ出し、属性分子を集めていく。
集まった属性分子は杖の先で明るく透明感のある緑色の燐光を放って渦巻いた。

“発動”

おれの声と共に属性分子が指示した方向にエネルギーを生む。
机の上に立てていたプリントが音もなくあっさりと倒れた。
その風の余波がおれの髪をかすかに揺らして、おれは杖をおろした。

ぱちぱちと、元気のいい拍手の音が聞こえる。

「君も合格!よくできたね!でもやっぱりちょっと魔力を使いすぎているかもね、絶対量が多いから難しいけど、これからもがんばっていこうね」

ベルガ先生はにこにことうれしそうに笑っている。
ちょっとした小言ももらってしまったけど、とりあえずは合格できたみたいだ。

「よかったね、緑!」

珍しくはしゃいだ幸仁がおれの手をつかむとぶんぶん振り回す。
そこでようやく安堵した。

「やった、何とかできたぜ、はあ〜緊張した!」

おれは思いっきり手を上に伸ばして伸びをした。
よかった、なんとかおれもウィザードになることができたみたいだ。
じわじわ実感がわいてきて、なぜかわからないけどなきたくなってくる。
一人、ちょっと感慨にふけっているとベルが先生が天王寺のテストも始めてしまっていた。

「火属性、テンノウジレオくんの合格条件は、1000℃以上の親指大の炎を発生させる下級発生魔法の発動。オーケー?」

天王寺は落ち着いた様子で頷くと、少し呪歌に手間取りながらも手のひらの上にろうそくの火のような炎を起こした。
それを見届けたベルガ先生は軽く頷き、天王寺にも合格のサインを出した。

「オッケーだよ。呪歌がもっと綺麗にまとまるともっといいけど、慣れれば大丈夫!がんばったねみんな、全員合格だよ!」

「よっしゃ!!」

天王寺は男らしく拳を振り上げて喜んだ。
そのあとベルガ先生がにこにことハイタッチを要求してきたので、一人ずつハイタッチした。
無邪気に笑っている先生はその小ささもあいまってすごくかわいい。
アホ毛がピヨピヨしてるのがたまらない。

こうして無事テストを終えたおれたちはこの日は久しぶりにお昼過ぎには自室にもどり、テスト勉強の疲れを癒したのだった。

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あきゅろす。
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