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ウィザード
入学のご案内
ジア魔法学校入試説明会のご案内

これは何なのか。
何かの冗談か、それとも性質の悪いパロディなのか。
まともな思考をしていれば、そんなものに行こうなんて思わなかっただろう。
なんかカタカナとか入ってるし、こんな時期に突然入試説明会とか怪しすぎだし、
そもそも、魔法学校(笑)とか。

でも、そんなものにも頼りたくなるほどおれは追い詰められていたんだ。

おれはおれと同じく運に見放されて行き場を失っていたおれの友人とともに手紙に書かれていた場所に向かった。
説明会会場はごく普通のビルの会議室で、おれは少しほっとしたものだった。
おれたち以外にも数十人も集まっているし、どうやら本当に入試説明会らしい。

良かった、なんか魔法とかなんとか書いてあったけど、あれは個性的な名前にしようと思ってわざとそんなふうにしたんだ。
通ってみれば案外普通の学校かもしれない。

とか思ったおれの馬鹿!
一緒に学校滑り落ちて途方に暮れていた友人一人と一緒に、さっさとその場から逃げ出していれば良かったんだ。

やがて始まった説明は聞けば聞くほど意味がわからず、不安になってきた。
なんか大人の人が糞真面目に魔法とかほざいているし、挙げ句の果てには今から入試テストを行います、だとか!

たちの悪い詐欺に引っかかっているのかも知れない。

いよいよ気味が悪くなってきたから逃げ出そうとしたけど、何人もスタッフらしい人間がうろついている中では立ち上がることもできなかった。
何とでもいえよ!
おれは自他共に認める小心者だよ!

でもそのスタッフがまた不気味だったんだよ。
みんなして深くフードをかぶっていて、表情どころか輪郭さえわからないような有様だった。

流されるままにいすに座り続けていたらあれよあれよという間に入試とやらが始まってしまった。
入試というか、おれにはよくわからないけど検査みたいなことをされた。
頭に変なわっかをはめさせられて(あとで強引に買わされたりするんじゃないかとおもった)、それで頭の中に一番好きな食べ物を思い浮かべてください、とか言われて。
言われるまま頭にお好み焼きを思い浮かべる。
まあ、庶民だからねっ、B級グルメとかマジ神!
わっかにつながったモニターを見ていたスタッフさんがおお、と驚いた。

「数値高いですね、竜にも匹敵するmpですよ」

何を言っているのかワカリマセン。
続いてわっかをはめた友人もビビリつつも言われたとおりにしてこれまた、ふむふむ、と満足げな顔をされる。

その一連の入試(検査?)が終わった後、その場はあっさりと解散になった。

あれ?
詐欺じゃなかったのか?
これから俺たちは、あなたの脳に異常が見つかったのでこのわっかを買いなさい、なんていわれるんじゃないのか?
二人でびくびくしてたけど、ぜんぜんそんなことはなくて正直拍子抜けだった。

まあよくわかんなかったけど帰れるみたいだし帰ろ。
ちょっと怪しすぎて入学する気にはなれないけど、まあ、珍しい経験ができたと思って忘れよう。

結局今年は浪人するしかなさそうだね、と友人と笑いあっていると、スタッフの人に声をかけられた。

「ねえ、おふたりさんっ」

「へっぅあ、はい!」

「おもしろいお返事ありがとう。話したいことがあるのでちょっとだけいいかな?」

その人もほかの人と同じく目深にフードをかぶっていて顔は見えなかったけど、鈴の転がるような明るい女の子の声だったから思わずうなずいてしまっていた。
いろいろと警戒心も緩みまくってたから仕方がない。
ないったらない。

別室に移動したおれたちのほかに、部屋にはもう一人先にいた。
モップみたいなもっさりした黒髪がこっちをガバッと振り向く。
ちょっと会釈すると、すぐにモップ頭くんは前を向いた。
なんだよ、ちょっとぐらい会釈し返してくれてもいいじゃないか。

「さて、これで全員なのでお話を始めます」

おれたちを案内したスタッフさんがいすに腰掛ける。
それにならっておれたちも腰掛けると、女の子がおもむろにフードを取った。
おれは思わずちょっとのけぞってしまった。

すごく、すごーく鮮烈な赤色が目に飛び込んできたからだ。
女の子は確かに女の子で、でもまるで燃えているかのような紅い髪と鮮やかな赤い瞳。
でもぜんぜん不自然に見えないのは彼女がとてもきれいな顔立ちをしているからだろう。
友人も驚いたように彼女に見入っている。

「キミタチに、提案があります」

女の子はそのあからさまな視線を嫌がる風もなく話し始めた。
おれたちはなし崩しにその声に聞き入ることになる。

「さっき説明はされたと思うけど、まあ、意味わかんなかったよね」

たしかに。

「だからね、私たちがキミタチに説明したいことを、見てほしいと思うの。ヒャクブンハイッケンニシカズ、っていうでしょ」

見て理解できることなら、それが一番いいさ。

「端的に言うと、とりあえずジアに入学してほしい。それでキミタチの目で見て、理解したうえでジアに在籍し続けるのか、こっちのセカイに戻ってくるのか、決めて」

その、こっちのセカイ、というのがどう意味なのかよくよく説明してもらいたいところだ。

「どっちにしろ、キミタチは一年暇でしょ?そういう人たちに限定してお手紙おくったから。だったらさ、なにもしないで一年浪人として過ごすより、レアな体験したいと思うよね」

通りで都合のよすぎるタイミングで来たものだ。

「ね、そう思うでしょ?」

おれはいろいろ回想に忙しくて、正直女の子の言葉の半分も聞いてやいなかった。
だから急に話を振られて、あわてて、

「あ、はい」

なんていってしまったんだ。
そのときの女の子の表情はよく覚えている。

にぃっこりと、すっごくいい笑顔。

「だよね、じゃ、書類にサインしてもらえる?」

ずい、とおれたちの目の前に差し出された書類。

「あの、これって、」

「誓約書。名前はここね、あと日付は今日でいいから」

有無を言わさぬ口調というのは、こういう口調のことを言うんだろう。
でもやっぱりこんな怪しい話に乗るわけにはいかない。
だってこれがもし請求書とかになって家に送られたりしてきたらおれは我が家の女王様から半殺しの目にあうだろう。

「あ、あの、おれは、」

「はい、このボールペン使っていいよ」

むぎゅ、と無理やり手のひらにペンを握らせられる。
助けを求めるように隣を見ると、まったく同じ顔をした友人と目が合った。
やべーよ、気が合いすぎだよおれら!
わらにもすがる思いでそのまた隣のモップ頭くんを見ると、彼は何の迷いもなく紙に署名していた。

だめかもしれない。

目の前には笑顔のまま徐々に距離を縮めてくる赤い女の子。
隣には陥落寸前の友人。

もちろんおれは………





署名したよ。

負け犬とでもヘタレとでも言うがいいさ!

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