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ウィザード


おれは今、驚いたことにジア魔法(笑)学校の入学式に出席しています。

まじでどうしてこうなった……!!
ノーと言えない日本人がにくい!にくいぞ!

そしてさらに驚いたことに、目の前は南国の鳥たちも真っ青な極彩色で、目がちかちかしてきました。
みんなの髪の色、鮮やか過ぎないか?
おれに署名を迫った女の子みたいな髪色の人が講堂の中に詰め込まれている。
赤といわず、青も黄色も緑も。
マジで虹色なんだけど。
なぜか女子はおらず男子ばかりなので、かなり気合の入った不良高校に見えないこともない。
壇上に立って話をしている人間はとりあえず日本語を話しているみたいだけど、やっぱり言葉の半分も理解できない。
しかも今気づいたけど、前の席に座ってる人、髪が青い上に耳がとがってるんだけど。
まじで?
ファンタジーの住人の後ろに座ってるのおれ?
理解できないことが多すぎて頭がくらくらし始めた。
巻き込まれる形でここにいる俺の友人も、さっきから上半身がふらふらと揺れている。

超絶ビビリなお前にとってこの異常事態はつらいだろうが、耐えてくれ!
おれもがんばるから!

その思考がわれながら健気過ぎて涙が出てきた。
ほんとに、誰かおれたちを助けて……!

現実逃避もかねて回想モードに移ることにする。

数週間前強引に誓約書に署名を書かされたおれらはとりあえずその日は解放された。
夢かと思ったくらいあっさりと家に帰れた。
でもまあ、そのあとの対応の早さには目を見張るものがあった。

続々と家に届いたジア魔法学校とやらの資料。
思いっきり怪しい学校なのでさすがに親が抗議の電話をかけると見事な話術で親を言いくるめ、最終的にはおれを学校の寮で生活させるところまで決まってしまった。
こうなるともう逃れようがなく、おれは仕方なく資料に目を通した。
が、5分で断念した。
だめだった、本気で頭おかしいとしか思えない内容が書いてあった。
入学の手引きはまるきりファンタジー小説だった。
だれかにダイア○ン横丁にでも連れて行ってもらわなきゃ!と自暴自棄になったくらいだ。

そして今日の朝という日はやってきてしまい、おれは指定された場所に友人とともに向かう。
某有名ファンタジーみたいに、ホームとホームの間に隠された線路があるんじゃないかと思ったけど、何のことはない、説明会のときのビルのあるドアをくぐるとそこはすでに学校の中らしかった。
どこでもドアだ!とはしゃぐだけの元気は今のおれにはない。
残念ながら。

おれは考えすぎでぼーっとしてきた頭でぼんやりと思う。
これは、いわゆる異世界トリップというやつか?
お前はトリップ界の星になるんだ……と親指を立てるおれの姉が講堂の天井に見える。
それを隣の友人に報告したら、おれをおいていかないで!と涙ぐまれた。
どうやらもとの世界には自由に帰れるようなので、そこは安心だが、とりあえずここは異世界だ。
みんなの頭の色とかを除けば普通の学校っぽいけど、今にものすごいのが出てくるに違いない。

おれの内心の警戒もむなしく、入学式は普通に終わった。
では魔法の鍛錬に励むように、という言葉で締めくくられたことを普通と称していいのかどうかはわからないけど。

とにかく、人の流れに流されるまま指示に従って教室に到着する。

教室も特に変わった様子はなく、普通に現代の日本風だ。
でもそこでがやがやしてるのは人種もわからない極彩色の同級生たち。
ファンタジーなのか普通なのかどっちかにしろよ!
余計頭がこんがらがるだろ!
理不尽なツッコミに忙しく気づかなかったが、おれたちは割と注目されていたらしい。
制服を作るのが間に合わなくて、二人だけ、いや同じクラスにモップ頭くんもいたから三人か、学ランだったからというのもあるだろう。
なにより、髪の色が地味だったからか。

半ば放心状態で席に座っていると、ようやく教室に教師が現れた。
これまた目を見張るような薄紫の髪がゆるいウェーブを描いて顔に影を作る。
わずかに下がった目じりがなんとも色っぽい、ホストみたいな若い教師が教壇に立つ。
髪を気障な手つきでかきあげると、教室のそこかしこから悲鳴が上がった。
なんだろう、女子はいないはずだけど。
いや、女子にこんな野太い悲鳴をあげてほしくはないか。

「えー、と、留学生が三人いるな、ちょっと前に出てきて」

教師が名簿を見ながら名前を読み上げる。

「一人目、と、……椎葉緑(シイバロク)」

唐突に名前を呼ばれて肩が跳ね上がった。

「っはい」

「前に出て、自己紹介してくれるか?」

「うぇ!?」

あまりの驚きで妙な声が出てしまった。
とたんに笑いが起こり、なぜだかおれはそれに安心した。
とんでもない世界に来てしまったようだけど、人がいて、心があることには変わりないようだ。
そう思うと、心が一気に軽くなる。

そうだ、あの女の子が言ってたように、一年浪人で過ごすより、よっぽどレアな一年を過ごせる。
いやになったら、来年からは戻れるんだし。

「あー、えーと。椎葉緑です。緑と書いてロクと読みます。よろしくお願いします」

頭を下げるとまばらだけど拍手もあがった。
なんだ、いいクラスじゃないか。





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