ウィザード
2
いつもより少し遅めの朝ごはんを食べながら、今日は何をしようとアキトと話した。
そろそろこっちの生活にも慣れてきたし、どうやら魔法学校から追手が来るということもなさそうなので出かけようという話になった。
とはいえ、おれも頭の色変になってきたし、アキトも銀髪やら尖った耳は目立つだろう。
なによりアキトはすごく男前だから。
あんまり女の人にキャーキャー言われるアキトが見たくないってエゴもおれの中にはある。
「あんまり人混みに出くわしたくないし、山の方に行かない?バスでちょっと移動したところに、自然公園があるんだ。地元の子供とかが遊びに来てるかもしれないけど、川もあるし遊歩道もあるし、静かでいいところだよ」
おれがそう提案すると、アキトはうんと頷いた。
「今日も暑くなりそうだし、良さそうだな。故郷の森には子供の頃によく遊びに行ったんだ……懐かしい」
穏やかな表情でアキトは目を細める。
「火花を散らす蝉はいないかもしれないけどね」
おれがそう付け加えると、アキトはふっと微笑みをこぼした。
「そりゃあ平和で何よりだ」
「じゃあ今日はそこに行こう。虫よけスプレーまだあったっけなぁ」
「遊びに行くの?虫よけと日焼け止めなら薬箱の中にまだあったと思うわよ」
母さんが皿を片付けながらそう答えてくれる。
「でも、あんまり山奥には行っちゃだめよ?あの辺、最近子供がマムシに噛まれたとかいって救急車沙汰になってたから」
「気をつけるよ、大丈夫!」
母さんはおれを訝しげに見たあと、アキトに真剣な顔で向き直った。
「緑のお守りは大変だと思うけど、お願いね、アキトくん」
「はい」
アキトも真剣な面持ちで答えたけど、おれは子供じゃねぇって!
「おもりなんてされなくてもおれは大丈夫だよ!もー、早く準備して行こうぜ!」
おれはアキトを急かして準備を始めた。
虫除けスプレーと母さんに持たされた日焼け止め、財布と携帯とタオルだけをかばんに詰め込んで家を出る。
外はやかましいくらいのセミの大合唱で、空気が熱気でゆらゆらと揺れていた。
きっとまだまだ暑くなるんだろう。
おれは引っ張るようにアキトの手を握り、バス停へと歩き始める。
アキトがその手をそっと握り返してくれたのでおれはそれだけで舞い上がってしまいそうなほど嬉しかった。
こんなに暑くて、幸せな夏は初めてだ。
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