ウィザード
5
「おまたせ、ちょっとみんなそこのソファに座ってもらえるかな」
戻ってきたベルガ先生は小脇に妙な機械のようなものを抱えていた。
それをソファとセットになっているローテーブルの真ん中に置くと、かちゃかちゃとなにやらセッティングをはじめる。
それを眺めつつ言われたとおりにソファに並んで座ると、おれたちに見たことのあるわっかがそれぞれ手渡された。
これ、入試のときにかぶせられたやつだ。
わっかからはコードのようなものが延び、先生の正面にある小さなモニターに繋がっている。
「いまから、君たちの属性を調べるよ。指示にしたがってね」
先生はてきぱきと何かを始めようとしたが、思わずそれを止めてしまった。
「あ、いや、すいません、作業をさえぎってしまって」
「いいよ、別に急がなきゃいけないわけじゃないんだ。僕は、モルフェスにしてはせっかちでさ。なんだい?」
「入試のときも同じようなことをしましたけど、これ何してるんですか?」
さすがに変なデンパとか出てたら怖い。
「ああ、そっか。知らないと不安だよね、ごめんね」
先生は目を丸くして、ぺこっと勢い良く頭を下げた。
なんだかいちいち動作がかわいい。
「入試のときはね、あれは魔力を測っていたんだよ」
「まりょく?好きな食べ物で魔力がわかるんですか?」
幸仁が少し身を乗り出して聞いた。
「フフ、それは違うよ。好きな食べ物が何かであるより、それを頭の中にどれだけリアルに思い浮かべることができるかが大切なんだ。魔力というのはね、君たちの世界で言う、想像力、なんだよ」
なるほど、想像力か……
え、じゃあ何で、
「ただ、君たちの世界には属性分子がないからね、魔力があってもなにも起きない」
浮かんだ疑問にはすぐに答えが返ってきた。
なんか、おれらって損してたのかな。
二次元のキャラを嫁と公言して30まで童貞を貫いた男たちのことを魔法使いになれる、なんていうことがあるけれど、こっちの世界ならほんとに魔法使いになれてしまうらしい。
「このリングを頭にはめると、君たちの脳波からその魔力を感じ取ってここに表示してくれる。今日は属性を計りたいから、質問を変えるよ」
そこまでを説明して、先生は下から覗き込むようにおれたちを見つめた。
「大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です。やっと納得できました」
おれが頷くと、安心したように笑ってモニターを操作する。
「じゃあ、頭にはめてもらっていい?はじめるよ」
それからいくつか質問され、入試のときと同じように頭にイメージを思い浮かべる。
モニターには三人分の情報が表示されているらしく、先生は忙しくメモを取っていた。
なんだか、お医者さんに診察されてる気分になってくる。
一人一人違った質問されたり同じ質問を何回かされたり、相当やり取りをしてようやく先生がペンを置いた。
「よし、こんなものかな。もうリングとってもいいよ」
先生は最後にメモのワードにいくつか丸をつけて、おれたちに次の指示をした。
「さて、いまからいよいよお楽しみの属性発表なんだけど、個人情報が含まれる話だから本人以外は退室してもらうよ」
メモを見比べた先生はまず幸仁に残るように言った。
ちょっと不安げな幸仁を残して、廊下に出る。
やることもないし、暇つぶしに制服のポケットがどこにあるかを確認したりしていた。
すると、急に天王寺が声をあげた。
廊下の向こうから、二人の人間が歩いてきている。
どっちも遠目から見てもわかるようなイケメンで、まとっているオーラまでが常人とは思えないほど美しい。
片方は深みのある紅の髪を後ろに流した男っぽい美形で、鋭く切れ長の瞳は熟年の俳優も顔負けの迫力があった。
長い足で廊下を闊歩する様子はまるで王様みたいに堂々としていて、思わずひれ伏したくなるほどかっこいい。
もう片方はこれまた正反対の美形で、人間とは思えない明るい黄緑の髪を肩まで伸ばしている。
顔は絵画のように美しくて、幻でも見ているかのようだ。
長いまつげが彩る瞳は一級品のエメラルドの色で、どこかはかなげに揺らめいていた。
距離が縮まってから気づいたけど、緑の人は耳が尖っていた。
もしかして、エルフってやつなのかな。
うん、小人がいるくらいだからいるに違いない。
「あ!マルア!朝は案内してくれてありがとうな!」
天王寺が廊下の真ん中にもかかわらずでかい声で呼びかけた。
もしかしてとは思ったけど、やっぱりこいつらが生徒会か!
俺の勘からして副会長は緑!
「ああ、あなたは今朝の、」
ビンゴ!
緑の人が天王寺に気付きそれはもう美しく微笑んだ。
中世的な顔立ちにおれまでドキドキしそうだ。
「これがお前の言ってたやつか?」
赤い髪の男前が高圧的に天王寺を見下ろしつつ言った。
この感じ、もしかして会長か?
「レオにそんな態度をとらないでください、会長」
これもビンゴ!
副会長は天王寺をかばっているように見える。
おそらく、最初のイベントはもうクリア済みではなかろうか。
おまえ、そのうそっぽい笑い方やめろよな!
どうしてわかったんです……!?
ってな。
「マルアが気にするほどの生徒が………こんな汚らしい、餓鬼だと?」
会長はすっかり期待を裏切られた様子で、蔑んだ目を天王寺に向けている。
そうそう、この唯我独尊な感じ。
まさに俺様会長というやつだ。
おれはすっかり蚊帳の外なので、好き勝手に観察させてもらった。
「おい!そんな風に人を馬鹿にするのはよくないぞ!悲しむやつもいるんだ!」
お!天王寺が会長に噛み付いた!
会長の顔が見る見る険しくなってゆくぅ!
「……なん、だと?」
「人を馬鹿にするな!おれはお前なんかに何言われたって悲しくないけど、泣くやつだっているんだぞ!」
副会長の顔色にも焦りが見えてきた!
これはどうなるのかぁ!
「……おれに、指図するつもりか………おもしろい…!!」
ここで会長がにやりと笑ったーー!
これは、会長とのイベントもクリアかーーっ!?
おれは脳内で実況しながら、その様子をつぶさに見ていた。
鼻息荒く食って掛かる天王寺の胸倉をぐいと強引につかみ上げた会長が、これまた男らしくワイルドに天王寺の唇を、
う、奪ったーーー!
イベントクリアです!
「なっ会長!?」
副会長がうろたえる中、天王寺が会長を突き飛ばしたせいでキスは中断された。
「な、なにすんだよお前!!」
「覚えておけ、おれはお前ではない。レクス・フランマ、お前を屈服させる男の名だ!」
低くて凄みのある声で宣言する。
女の子なら一瞬で崩れ落ちそうなかっこよさだ。
天王寺もさすがに棒のように突っ立っている。
会長と副会長はそのまま颯爽と立ち去り、廊下には呆然としている天王寺とおれが残された。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!