短編 
白い世界に一点の青(盲目設定→燐)

「カイン。大丈夫か?」
その声に、いつも救われていた。













「もう、あいつらいないぞ」
頭上から降る優しげな声に、顔をあげる。
きっと、彼は笑顔で俺のことを見ているのだろう。
彼…奥村燐は、俺の中の光だ。

俺は物心つく前に眼から光を失った。
だから、燐の顔を見ることは出来ない。
それでも、燐は優しい人だと、俺は知っている。

「カイン?どっか痛むか?」
「あ、いや…。ありがとう、大丈夫だよ」
眼が見えないからか、俺をイジメの対象に選ぶクラスメイトもいる。
そんな人達に、いつも燐は怒ってくれる。
でも、それが逆に…燐に問題児というレッテルを貼り、孤立させている要因になっている…。

燐はこんなに優しいのに。
誰も俺の言葉は信じてくれないんだ。

「燐、なんだか良い匂いがする…。あ、これ肉じゃが?」
「おう。カイン好きだろ?」
「うん!…まぁ、肉じゃが以外でも、燐の料理なら大好きだけどね」
「…照れるじゃねーか」
「事実だからな」

燐の料理は好き。
美味しいから。
優しい味がするから。大好き。

「カインも明日だっけ?寮に行くの」
肉じゃがとか燐が持ってきてくれた弁当を突きながら、燐の問い掛けに、ん、と頷く。

「うん。明日…行くよ。雪男もだろ?」
燐の弟の雪男も俺と同じ高校に行く予定だ。
正十字学園。
完全寮制の名門校。

「あぁ、うん…」

燐の歯切れの悪い言葉は、どこか薄暗いように感じた。

「燐、何かあった?」
「え?何が?」

「燐が、苦しんでるように見える」

一人で、もがいて、どこにも辿り着けない。

「…目、見えないだろ?」
「うん、見えないよ。心の目ってやつだね」
「なんだよ、それ…」

目が見えないから、人の感情には敏感なんだよ。
燐もそれは知ってるだろう?

「で?何があった?」
「…夢を、見た。
 みんなが消えていく夢…」
「みんな?」
「雪男、親父、修道院のみんな、それから…カイン」
燐の全てを作ってる人間ってことか…。
俺も入っているのは、どうにも嬉しい。

けど…。
人が消える夢は、不吉だ。
人と人との関係が切れる兆し。

俺は切るつもりなんて、毛頭ないけど。

「燐。俺は、ここにいるよ」
俺は、燐との関係を絶つつもりはない。
燐に何が起こるのかは分からないけど、その先に光があることを祈っている。

「必ず、燐の傍にいる。雪男も、修道院のみんなも」
「カイン…」
「燐、俺に出来ることなら手伝う。俺なんかができることなんて、たかが知れてるけど…。それでも、俺は燐の力になりたい」
「…サンキューな。……明日かぁ…。寂しくなるな」

…明日…。
燐の傍にいられなくなる…。

今生の別れではないけれど、当分、会えなくなる。
俺が燐と出会ってから…初めてだ…。

「燐…」

何もない世界は…燐がいたから、色づいたんだよ?


***


世界には何もなかった。

あの日まで…俺の世界には、何も無かったんだ。


『紫煙カインです。目は見えていません』

6年前のあの日、俺は転校生として燐の学校を訪れた。
目の見えない俺にみんな戸惑っているのを感じとり、少し不安だった。
どう扱って良いのか、先生でさえ考えあぐねているようだったし。

目が見えないから、人にぶつかってしまったり、迷惑をかけたり…俺を避ける子もいた。
遠巻きに見てる子もいた。

…俺に意地悪をする子もいた。

『やめて、それは目の代わりなんだ…!』
『ちょっとくらい大丈夫だろ?』

下校途中、同学年の子に白杖を奪われそうになって、俺は半分パニックに陥っていた。
彼らにとっては軽い気持ちだったのかもしれない。
けれど、白杖が無くなれば、俺は目を奪われた事になる。
どこに誰がいて、何があって、危険はあるのかないのか…全てが分からない。

不安と恐怖で泣きべそを掻きながら、必死に白杖を握りしめていた。


『おい!お前ら何やってんだよ!』

『!』

声のする方に視線を上げれば、世界に1つ…光が揺らいでいた。

『(青い…?)』

それが、燐との出会い。

『あ…あいつ、悪魔…』
『逃げろ逃げろ!』

途端に逃げていった彼らを不思議に思いながらも、俺は白杖が手元にあることに安堵していた。

『お前、大丈夫か?』
聞こえた声は、助けてくれた少年の声。
パッと顔を上げると、またあの青い炎が見えた。

どうして見えているこれが…青い炎と思ったのかは自分でもよく分からない。
色の識別能力のない俺は、それが青という色なのかも分からないし、目が見えていないから、炎を見たこともないのに…。

それでも…
それは青い炎だと、確信していた。

『おーい、大丈夫か?』
『…うん…。あ、ありがとう…』
小さく頷けば、彼は…多分笑った。

『あの、君は…誰?』
『ん?俺は……奥村、燐』

少し戸惑うように口にした彼の名を、頭の中で反芻する。
けして、忘れてはいけない名だと思った。

だって、燐は…

『俺は…紫煙カイン。
 …燐君、俺と友達になってください』
『…へ?』

燐は、俺の初めての色だったから。

燐と出会ってから、世界が色を持ったんだ。

燐は
世界は白、
人は灰色
植物は
食べ物は

これは何色?
そう問えば、燐は答えてくれる。
な?だから、燐。


***


「燐、未来は、何色かな?」
「え?」
「未来は何色だと思う?」
「んー…虹色?」

…おっと…

「また分からない色が出てきた…!」

「あははは!良いじゃねーか。未来なんて、分かんねーんだからよ」
「…、…うん。そうだね」


離れていても、燐と一緒に歩けるだろうか…。

虹色の未来を。


「じゃ、またな。カイン。明日、見送りには行くから」
「うん。また明日。燐」


燐が帰路に着くのを、俺はぼんやりと眺めていた。


今見えるのは、
















―あとがき―
か…書き切れた!(ホッ)
結構長いこと格闘した作品になりました…。
紆余曲折…燐が途中で帰ったり、半年前だったり、アスタロトが出てきたり…出てこなかったり(笑)

『白い世界に一点の青』という題名が、頭から離れなかったが故に書いたのですが…やっぱり題名から書くと難しい…っ!←


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