短編
1万Hit記念(青灰)
1万Hit記念企画。フリーです。
お持ち帰りはご自由に。
[青と灰]本編より少し過去のお話。
青と灰
Part*雪と雪だるま
今日は日曜だから学校はないというのに、あまりの寒さに目が覚めた。
この刺すような寒さには身に覚えがある。
予想が正しければと窓際に行き、思い切りカーテンを開けた。
やっぱり。
「(サタン!雪だ雪!)」
外は一面の雪だった。
真っ白な雪の絨毯と雲一つ無い青空に朝もやがかかり、なんとも美しい情景を作り出している。
『あぁ…そうだな』
いつもとは違う雰囲気のサタンに首を傾げる。
「(サタン?どうかした?)」
『いや。ユリとの思い出が…』
「(あ、惚気はいらないです)」
結構マジで。
人の惚気を聞いて、喜ぶ馬鹿はいないだろう。
特に彼女がいない俺にとっては!!
『ちょっとは語らせろよー』
「(ヤダ。主に俺が虚しくなる)」
サタンと会話しながら、そそくさと着替えを済ます。
『…ユリと出会ったのは、雪深い山奥で…』
「(聞いてないから)」
勝手に語りはじめたサタンを軽く叱責し、分厚めのコートを羽織る。
『あ?どこ行くんだ?』
「(もちろん…外に決まってる!)」
雪が降ったら雪だるまを作るのは常套だろう!
あ、雪うさぎでも良いな。
***
「すげー…」
誰一人もいない、静寂に包まれた公園はただただ神秘を秘めていて、圧倒されてしまう。
「よーし!雪だるま作るぞー!」
叫び声を上げた俺に、サタンは首を捻った。
『雪だるま…?』
その訝しげな声に、雪だるまも知らないのだと分かる。
雪深い山でユリさんと会ったって言ってたのに…。
ユリさんに夢中過ぎて、そこまで意識が行かなかったのかなー。
「(雪玉を二つ作って、重ねるんだ)」
人の顔くらいの雪玉を重ね合わせ、安定させる。
「(で、目と口と鼻をつけて…ほら、完成!)」
自分的には相当力作な雪だるまを、にんまりと眺めた。
『あ?なんか、あいつに似てんな』
「(あいつ?)」
『スノーマン』
…。
……?
「(スノーマン?)」
それは雪男(ゆきおとこ)という、架空の生物?であって、現実なわけじゃないよなぁ…。
『知らないのか?』
「(サタン…これは雪だるまだって)」
『いや、だから、似てんだよ。悪魔のスノーマンに』
…あ。
「(悪魔の話しか…!)」
『あぁ?それ以外にあるのかよ』
「(あるよ!日本語で言うと雪男(ゆきおとこ)!雪山に住んでる怪物!)」
俺の叫びに、サタンは深々とため息を吐いた。
『俺が人間のこと知ってるわけねーだろうが。つーか…そのゆきおとこはスノーマンの事を指してんじゃねーのか?』
「(…?
…悪魔だから近づかないように、怪物としてでっちあげたってことか?)」
『あぁ。結構いるぜ?そんな奴ら』
そうなのか…。
「(見てみたいなぁ…)」
スノーマンとかいう、悪魔。
『ククク…』
「(ん?何?サタン)」
気持ち悪い笑い方して…。
『自分の特性、分かってねーだろ』
特性?
首を傾げた瞬間、作り上げた雪だるまが、プルプルと奮えだした。
「(は?え、何?!)」
驚いて尻餅を着いた俺の目の前で、雪だるまは生き物のように形を変えた。
「(…。………か、可愛い…)」
なんだか、気が抜けた。
『ぎゃはははっ。可愛い?こいつはカインが呼び寄せた悪魔なんだぜ?』
「(は?)」
『こいつが、スノーマンだ』
「(!)」
この可愛いのが!!
全然、怪物じゃないー!
「おいで。スノーマン」
両手を広げて、待ち構えてる俺の顔は緩みきってると思う。
だって、チトチトと歩いてくるスノーマンが可愛いかったから、仕方ない。
「やばいー!可愛いぃぃ…!!」
『気持ち悪い』
「(うるさい。サタンは可愛くないから、黙っていろ)」
軽く睨みつけると、サタンはうっと黙った。
尻に敷かれるタイプだよな、サタンって。
「スノーマン、何しようか?」
俺が首を傾げると、同じようにスノーマンも首を傾げる。
うん、可愛い。
「じゃぁ、雪だるま、いっぱい作ろうか」
俺がにっこり笑えば、スノーマンはピョコピョコ跳んで、雪玉を作り始めた。
「(サタンー、サタンも雪だるまに入って一緒に遊べないのか?)」
サタンの雪だるま姿とか、なんかウケる。
『俺様が入ったら、すぐに崩壊するぜ?その雪玉』
「(まじでか。壊されたら悲しくなるわー)」
沢山作ったのに壊されるのは勘弁だ。
「壊されたくないよなー、スノーマン?」
って…。
「うわぁ…」
俺の目の前には、あまり信じたくない現実が広がっていた。
『…ぶっ、ぎゃははは!作った全部に憑依してやんの!』
雪だるまだったものがスノーマンに代わり、公園を埋め尽くしていた。
「(この短時間に凄い数を…!)」
『ネズミ講だな』
あぁ、一匹から二匹、二匹から四匹って、あれね…。
「(サタン、一つ質問良いか?)」
『あ?なんだ』
「(これ、治めることって出来る?)」
『さぁな』
ですよねー。
「(この数は…流石に抱き着かれたら死ぬなぁ…)」
スノーマン冷たいもん。凍死するよ。
「(よーし。じゃぁ、逃げるか)」
『逃げる?!ムリだろ、どう考えても』
「(甘いな、サタン。人間、やってみなきゃ分からないよ)」
『…』
あ、信じてない。
「(…見てろよ…)」
俺はクラウチングスタートを切り、公園から脱出する。
後ろは振り返らずに、そのまま走り続けた。
目指すはコンビニ!
「(よし!見っけ!)」
『…』
サタンの無言が少し気になったが、今は逃げる事が先決!
「(ゴール!)」
「いらっしゃいま…」
ドアを開け、一気に奥まで走り込む。
しかし、店員に凄い目で見られた。
いや、けして怪しいものではないのですが…。
「(スノーマン達、着いてきてない?)」
『…あぁ、最初からな』
…最初から?
「(え、それって…)」
俺、走り損?
「(もっと早く言えよー。サタンの馬鹿ー)」
コンビニ入っちゃったし…おでんでも買ってくか…。
「あ、すいません。おでんのロールキャベツ一つとこんにゃくをお願いします」
『定番の大根は買わないのか?!』
「(俺の中の定番はこんにゃくです。ロールキャベツは食べたかったからです。
ていうか、なんで物質界のおでん事情知ってるのさ…?)」
『サタン様だからな』
「(馬鹿?)」
『お前…そこはスルーするとこだろうが』
難しいな、サタンのボケ…。←
***
「さてと、いただきます!」
部屋に着いて早々に手を合わせ、ロールキャベツを頬張る。
うん、美味い。
『お前、緊張感ねーな』
「(え?なんの?)」
『スノーマン、襲撃してくるぞ』
「…うっそぉ…」
バッと背後の窓を反射的に見れば、大量のスノーマンが張り付いた窓が見えた。
「ぎゃあぁぁぁぁ!!」
PS.
次の日の朝にはスノーマンは部屋の中で全て溶けて雨漏りを引き起こした。
大家さんにめちゃめちゃ怒られた。
雪だるまじゃなく、雪うさぎにすればよかった…。
『いや、代わんねーから』
―あとがき―
一万記念に何かしたくて、奮闘した結果がこれです。
お持ち帰りはご自由にどうぞ。
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