短編 
密着取材?(新聞部設定→雪男)

「あ。ゆっきー」
「紫煙君…。その呼び方、どうにかならないんですか?」


―密着取材?―



「良いじゃん。ゆっきーはゆっきーだし」
にっこり笑ってそう言えば、深々とため息を吐いて、諦めたように俺の顔を見た。
「で?何のようです?」
「えへへー。ゆっきーに会いに来たのですよ」
「じゃぁもう会いましたよね。僕はこれから用事かあるので」

ゆっきーが冷たい!
でも、ここは引き下がるわけにはいかないんだよ!

「ゆっきー。ゆっきーの後に付いていくからね」
「はい?」
「ゆっきーの密着取材です」
「は?」

だって俺は新聞部だよ?

「今回は『奥村雪男、密着24時!』という題目で、俺が取材担当に選ばれたんだー」

ま、企画持ち込みから取材編集まで、俺がやるって言ったら、部長が面白がってOKしてくれただけなんだけどねー。
企画持ち込みがバレたら、ゆっきーに頭割られそうだし…。

「その取材お断りします」
「ダメ。もう予告しちゃったから」
「え?」
「今月号見なかった?来月の目玉って予告しちゃった☆」

あ、あれ?ゆっきーの後ろに悪魔が見える…。

「紫煙君、覚悟出来てます?」
ガシっと俺の頭を掴んだゆっきーの手が頭に食い込む。
瞬間、ミシリ…と頭蓋骨が悲鳴を上げた。

「痛いー!!痛い痛い!!ゆっきー、頭割れる!砕けるー!!」

「砕けろ」

「鬼!悪魔!!」

「…」

…あれ?
手が止まった…?

パッと頭を離され、呆然としている俺を無視して、ゆっきーは背を向けた。

「あ!待って待って!」
このまま置いてかれるわけにはいかないんだよ!
何の収穫も無かったら、部長に殺される!!

「ゆっきー!ちょっとだけで良いから!24時ならぬ12時でも良いから!」
「お断りします」
「なんでー?!」
「詮索されるのは、嫌いなんです」
にっこりと、でも、黒いオーラを放つゆっきーは非常に怖いです。

「…っ!とりあえず、密着取材は決行するからな!」
「馬鹿も休み休みでお願いします」
「ゆっきーのあぽんたん!!」
「…。はぁ…」

何が何でも、ゆっきーの新しい一面を見出ださねば!!

て、言ってる傍からいないしー!!


***

結局ゆっきーは見つからず、様々な人間から話しを聞いたが、結果はほぼ同じ。

「んー。奥村雪男、裏の無い優等生。と」

でも。普通に考えて、そんな奴、いるか?

「やっぱり密着していかないとダメか」

でも、どうやって密着するかなぁ。
ゆっきー、かなりガード固いし…。

…はぁ…。

気がつけば夜も更け、辺りは夕闇に包まれていた。
そろそろ帰るかと、腰を上げた。


「雪男!そっち行ったぞ!」

え?

「分かっています!」

わお。飛んで火に入る夏の虫、ならぬ、飛んで火に入る奥村雪男!
俺ついてる!!

でも、何で、銃なんて持ってるんですか?!(思わず敬語)

思いっきり発砲してるし!
悪魔達が撃ち殺されてくー!
てか、それ銃刀法違反だよ?!

「…終わりましたよ。紫煙君」
「え?」

気がつけば、目の前にゆっきーがいた。
いつもと変わらない笑顔で。
いつもと違う、黒いコートを着て。

「ゆっきー?」
「はい。奥村雪男です」

ゆっきー、あんな一心不乱に銃をぶっ放すなんて。
そんなにストレスが…。

「嫌なことがあったら、俺が何でも聞くぞ?!」
「…。なら、僕の記事を書くことをやめてください」
「それは出来ねぇ相談だな」
「一回死にますか?」
「ごめんなさい」

ゆっきー、銃突き付けるのやめて。
俺死んじゃう。

「まぁ…。死ねっていうのは言いすぎました」

ゆっきーの記事を書くのは、俺の死に直面するって事だよなぁ。
どうするか…。

…あ。

「…ゆっきー」
「なんです?」
「記事、書かせてほしい」
「話、聞いてました?」
「いや、ゆっきーのじゃなくて、燐君の方!」
「は?兄さん?」

そう!
俺が思いついた解決策!
燐君の密着取材をすることで、ゆっきーの生活も丸分かりという!

奥村兄弟密着24時だ!

「…ダメです」
「えぇ?!何で?!」
「兄さんだって、プライベートがありますから」
露骨に嫌な顔をするゆっきーに、シュンと頭を垂れる。

どうしよう。
俺、部長に殺される…。

「はぁ…」
「ゆっきー?」
「必要最低限に抑えた記事を書くなら、協力します」
「本当?!」
「ただし、載せる前に僕に見せる事。良いですね」
「はい!!」

やったー!!
これで命は繋がったー!!



***



『奥村兄弟密着24時!!』
奥村燐(兄)奥村雪男(弟)
この二人は正反対にいるようで、実はお互いを支えあっている兄弟である!


この始まりで、燐君とゆっきーの一日の行動を記した記事を書き上げた。
驚いたのは、燐君が相当な料理上手だったという事実。
少し食べさせてもらったが、美味しかった。
毎日食べてるゆっきーが羨ましい。

その記事が出た数週間は、燐君がいろんな人に話し掛けられるのを目撃した。
元々、人懐っこい性格だったためか、友達も増えたようだ。


でも、ゆっきーが銃を持ってた事実は明るみには出来なかった。
祓魔師を知らない多くの人間に分かるような記事は、書き起こせなかったから。

「ゆっきー!」
「紫煙君…。もう取材は終わったでしょう?」
「うん。今日はありがとうを言いにきたんだ」

ゆっきーは、俺の友達だからね。

「取材のことですか?」
「うん!ゆっきーは優しい人だって、分かったから」
「?」

「我等の末の弟。幸せになりなさい」

「え…?」

「じゃーな」
「え?紫煙君?!」


猛ダッシュして、その場を離れる。
言いたい事は言った!


校舎裏で、壁に寄り掛かったままため息を吐く。
「もう虚無界に帰るかなぁ…」

「まさかあなたが、物質界に来ているとは思いませんでしたよ」
目の前に現れた白い服の男に、自然と笑みがでる。
「メフィスト」
「父上の相談係が、何をしに来たんですか?」
ジトリと見てくるメフィストに、ポケットに入っていた封筒の中身を見せる。
中身は燐君とゆっきーの写真だ。

「それは?」
「父上から頼まれた」
「は?」
「『燐と雪男の成長が知りたい』って、だから、写真を撮るために、この子の体借りた」
新聞部なら、カメラを持っていても怪しまれないからな。

「メフィスト。あの二人。よろしくな」
「え?」

俺はにっこり笑って、虚無界に降りた。


***


「もっどりましたよー、父上」
「お、帰ったか!」
「はい。写真」
メフィストにも見せた写真を差し出せば、父上、もとい、サタンは嬉々と写真を見つめている。
「ぉおー!あの時は一瞬しか見れなかったが、成長したなぁ〜!俺様の息子は〜!」
「デレデレの父上、キモいですよ」
「うるせー!物質界に簡単に行けるお前とは、感慨深さが違うんだよ!」
「なら、嫌われることしなけりゃ良いのに」
俺が言ってるのは、あの二人の親代わりになった祓魔師の事だ。

父上が取り付いて、殺してしまった。

「あいつばっかり父親面されるの、ムカつくじゃねーか」
「いつになっても、子供ですねぇ」

こんな父上の相談係になって随分経つが、自分の子供にここまで興味津々なのは初めてだ。

「二人とも、いい子に育ってましたよ」
物質界で、上手くやってる。
「だから、二人がここにたどり着くまで、待っていてあげましょうね。父上」

その時はきっと、父上を殺しに来る時だけど。
それでも、弟達の成長を喜ばずにはいられないだろう。


「今度は燐を連れてこいよー、お前」

「俺の話し聞いてました?」





―あとがき―
急展開の幕引き。
普通の新聞部の子だと落ちが付けられなかった文才のない管理人です。





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