短編
生徒会長の学園祭企画(青エク)
「あ…君!」
「え?」
―生徒会長の学園祭企画―
「君、奥村燐君かな?」
「…そうだけど」
不審そうな顔で俺を警戒しているこの少年が、奥村燐君。
目的の人物だ。
「良かった。君を探していたんだ」
「あんた…誰?」
おっと。
俺としたことが、自己紹介を忘れるなんてな。
「失礼した。俺は紫煙カイン。この学園の生徒会長だ」
「生徒会長…」
おや。
そんな物珍しげに見上げられるとは…。
「生徒会長というのは、物珍しいかな?」
「え?あ…いや…。すいません…」
慌てて、うろたえて、萎れて…。
ははっ。
この子は表情がコロコロ変わって面白いなぁ。
「はははっ。俺の方こそ急にすまないね。驚かせてしまったようで」
「別に、どうって事ねーけど」
「で。燐君。唐突ながら、頼みがあるんだ。聞いてくれるか?」
「へ?」
表情が固まり、俺をまじまじと見つめてくるその瞳が、余りにも純粋で。
うーむ。
少し気が引けるが…。
…まぁ、良いだろう。
「燐君」
ガッと両肩を掴み、燐君の退路を絶つ。
「女装してもらいたい」
「はぁ…?」
「あぁ、失礼。先走ってしまったね」
いかんいかん。
この機を逃すわけにはいかないのだ。
しっかりせねば。
「燐君。うちの学園祭では、毎年ミス&ミスターNo.1コンテストがあるのは知っているかな?」
「あ、あぁ…。一応」
ならば話は早い!
「実はこの企画には欠点があってね。
ミスコンは、出場する女性と男性陣は盛り上がるが、女性陣の受けが悪い。
逆もまた然りだ」
「はぁ…」
「だから、今年はもう一つ!
どちらにも受けるコンテストを開催しようと思っているんだ」
そう、それは。
「女装・男装コンテストだよ!」
「…は?」
おや。
またそんな呆けた顔をして。
本当に…何も知らない子犬みたいだな…。
しかし、この機を逃すわけには…。
燐君。すまないな。
「それでだね。…燐君。
君に女装コンテストに出てもらいたい」
「…。はぁ?!!」
ははっ、良い反応だ。
燐君の肩に手を置いたまま、にっこりと笑顔を作る。
「燐君。この企画は、まだ正式に決まったわけでは無くてね…」
そう。
この企画は、ある場所で足止めを喰らっている。
「理事長がOKを出してくれないのだ」
「メフィストが…?」
ん?
メフィスト?
理事長の名はヨハン・ファウストだが…。
愛称か何かか?
…まぁ、良い。
「この企画を受理するには、確実に盛り上がる参加者が必要だと理事長はおっしゃられてな。
話題性のある人間を出場させられるなら企画を受理する、と…」
まさかあんな条件を叩きつけられるとは、俺自身、予想外だったが。
「理事長の指名は…、燐君と、弟の雪男君だよ」
「は…?いやいや!無理だろ?!普通に考えて!!」
慌てふためく燐君の肩に置いた手に力を込める。
「すまない…。燐君へ飛び火になってしまっているのは分かっている。
…しかし、俺はこの企画を成功させて、去年以上の素晴らしい学園祭をやりたい。
俺にとって、最後の学園祭なんだ」
顔を歪めてそう言えば、燐君は気まずそうに視線を落とした。
「…燐君。俺のために…なんて、傲慢なのは分かっている…。
それでも…。少しでも俺の我が儘を聞いてくれる気があるのなら…
この企画に参加してもらえないだろうか?」
燐君の視線はうろうろとさ迷い、どうしようかと思案しているのが分かる。
ふむ…。
「やはり…無理かな?」
「え、あ…!」
肩から手を離し視線を反らせば、燐君が焦っているのが、手にとるように分かった。
あと一押しか。
「…良いんだ。
これは俺の我が儘なのだから。気にしないでくれ。
学園祭がいつも通りになるだけさ」
背を向けて、肩を落とす。
「あ…会長…!」
よし、掛かった…!
「…ん?」
肩越しに燐君を見やり、優しく微笑む。
「お、俺でよければ…協力、します…」
「ほ、本当かい?!
ありがとう!!ありがとう!燐君!!」
「あ、はははっ」
手を握って飛び上がる俺の喜びように、燐君も笑顔を向けてくれた。
「あ、そうだ!理事長からの承諾をもらうために、ここに署名が必要なんだ」
「おう。書く書く!」
名前を書かれた書類を受け取り、俺はにんまりと笑った。
「ありがとう!燐君!
必ず学園祭を最高のものにするからな!」
これは約束だ。
絶対に成功させるさ!
「おう!
…まぁ、俺は学園祭とか初めてだから、良く分かんねーけど」
「そうなのか?
…なら、なおさら最高のものにしないと、だね」
更に気合いを入れようか!
「よし、じゃぁ、俺は行くよ。
次は雪男君に承諾を得なくてはいけないからね」
「あー、雪男の奴か…。ちょっと気難しい奴だから、頑張ってな」
気難しい、ね。
大丈夫。熟知しているよ。
「忠告ありがとう。じゃ、また!」
「おう!またな」
手を振って別れ、廊下の角を曲がったところで足を止めた。
「第1関門突破…だね」
俺はにやりと笑った。
―あとがき―
あれ…?
ただ一般人と関わらせたかっただけなのに。
生徒会長、キャラが強すぎだ…。
学園祭のミスコンとか、理事長の許可とか、捏造なので悪しからず。
短編なのに、もう1話続きます。
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!