短編 
FUSS:騒動(悪魔設定→メフィスト)

その日は、特に何かがある日ではなかった。


―FUSS:騒動―
(メフィスト視点)


「メフィスト」

突然、窓から入ってきた兄に、私は思わず目を丸くしてしまいました。

「…はい?」

この兄が物質界に来るなんて、珍しい事もあるものだ。
そう思いながらも返事をすれば、少しの沈黙の後、薄気味悪い笑みを浮かべた。
相変わらずこの人の笑顔は恐ろしい。

「燐が欲しい」

数秒、思考が停止した。

“燐が欲しい”?

燐?
奥村燐?

「…駄目に決まっているでしょう」

この兄は何を言い出すのか。

「ケチ」
「ケチって…」
ケチとかいう問題じゃないでしょう?
唇を尖らせてブーブー言っても、全く可愛くありません。
相変わらず目が笑ってませんし。

…しかし…

「急にどうしたというのです?
 少し前までは興味すらなかったというのに」
「今は欲しい」
「…あげられませんよ」

…どういう風の吹き回しだ?
この兄が何かを欲しがるなんて…

「父上が、燐が可愛いって」
「…」

…まさか…。

「可愛いんだろう?だったら、欲しい」

…やっぱり。

この兄…カインは、可愛いものに目がない。
恐ろしく冷たい瞳とは裏腹に、可愛いものには甘く。
冷徹な表情からは考えられないほど、可愛いものを溺愛している。

しかし。

「カイン、よろしいですか?
 可愛いというのは、父上の主観であって、一般的な可愛い、ではないのですよ」

「??」
「カインにとって、あれは可愛いという部類には入らないはずです。
 実物を見て幻滅しないうちに、お帰りになって下さい」

さぁ、早く虚無界に帰ってください。
カインが愛する“可愛い”は、ファンシーなキャラクターなのですから。
奥村燐にそれを期待しても無駄ですよ。

「そうなのか?」
「えぇ」
「んー…」

ぉぉ、考えていますね。

「分かった。諦める」

よし!

「分かっていただけて光栄です☆虚無界までお送りしますか?」
「いや。大丈夫」

そう言って、カインは窓に足をかけた。

「メフィスト。たまには虚無界に帰ってこいよ」
「えぇ。そのうちに」

窓から飛び降りたカインの背を見送り、メフィストは深々とため息を吐いた。

「一難、去りましたね…」

しかし…。
父上め、余計なことを。


***


それから数日後。
再び窓から現れた兄の姿に、再度、目を丸くすることになるとは…。

「メフィスト」

「…カイン…?それは…」
その腕に捕まえているのは…。

「クロだ」

あぁ、思い出した。
奥村燐の使い魔となった猫又…。

って…。

「なぜ、あなたがそれを?!」

「見つけた。可愛い」

そんな黒い笑みを浮かべないで下さい…!
ほら、猫又が泡を噴いて伸びているじゃないですか!

「それは他人のものでしょう?!」
「えー」

「クローッ!!」

あぁ…奥村君の声が近づいてきますね…。

ガラリと開け放たれた扉の先を見つめ、メフィストは頭を抱えてため息を吐いた。

「クロ!
 …てめぇっ!!クロを離しやがれ!」

「嫌だ」

……仕方ありませんね…。

「奥村君」
「あぁ?!…あ?…メフィスト…?」

今気づいたのですか…。

「カインは、あなたでは到底敵わない相手ですよ」
「だから何だ!クロを誘拐する奴なんて許せるかよ?!」
「少しは落ち着きなさい」

全く…。

「カイン。その猫又、返してあげて下さい」
「えー」

…おや?今の声のトーンは…。

「…奥村君。少しだけ、カインと遊んであげて下さい」
「はぁ?!」
あの声のトーンは、遊びたいだけでしょうから。

「カイン。少し遊んだら虚無界に帰って下さいね☆」
「ん。分かった」

これで万事解決ですね★

「遊ぶぞ。燐、クロ」
カインは片手にクロを、もう片手には燐を抱き上げた。

「は?!…うわぁぁー!…っ……!」

遠ざかる燐の声を聞き流しながら、メフィストはカインが出ていった窓を見つめていた。


一難…去りましたね。




その数日後、再び燐の元を訪れたカインが、しえみの緑男を捕まえ、騒動を起こすのはまた別の話…。



END...?




―あとがき―
長編で感覚が掴めなかったメフィストに関わりたかっただけなのですが…。

結局、感覚は掴めなかった。
という悲しい落ちに…。



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あきゅろす。
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