長編
48-はじめまして
イルミとシルバの奥さんは、突然現れたカインに酷く驚いていたが、すぐに平静を取り戻した。
「…何でカインがここにいるの?しかも親父の部屋に」
Euphorbia milii
ーはじめましてー
イルミの問いかけに、カインは笑顔を崩さずに考える。
うーん。どこから話したら良いのかな?
「俺がシルバの部屋にいるのは、仲良しだから。かな?」
「…」
無表情に、されど、警戒心を強めたイルミを見て、カインは穏やかに微笑んだ。
「信じてないな。まぁ、そりゃそうか」
イルミの心の中が凄いことになってそうだなー。
「カイン、俺が話すか?」
「いや、自分のことだし。自分で話すよ」
シルバの気遣いに感謝しつつ、もう一度、目前の二人を交互に見やる。
うん。二人とも念を覚えてるし。
説明は楽そうだな。
どう説明しようか考えながら、シルバの隣に腰を下ろす。
そういえば、初めてか。
新しい家族にこうやって会うのは。
「自己紹介から始めよう。
初めまして。俺の名前はカイン=ゾルディック。
シルバの双子の兄だ。
シルバとの年齢が違いすぎるのは、仕事で失敗して、30年間念に閉じ込められていたから。
ハンター試験が始まる少し前に目覚めて、今はこうしてここにいる。
何か質問はあるかい?」
俺の説明に一瞬の時が止まるが、すぐに奥さんは言葉を紡いだ。
「双子のお兄様?…本当なの?!あなた!」
「あぁ。間違いない」
シルバの反応に、奥さんは少し戸惑った様子を見せたが、すぐに何事かをぶつぶつと呟いて、思考の世界に入ってしまった。
激しい人だなぁ。
寛容なシルバには丁度良いのかもしれないけど。
「…ふーん…カインが親父の兄、ね…。
親戚なのかな、くらいにしか考えてなかった。
うん、ビックリ」
完璧なる無表情と棒読みで言われたら、説得力の欠片もない。
「イルミ、本当は驚いてないだろ」
「え?こんなに驚いてるじゃない」
…俺の目が悪いのか?
ちらちとシルバを見上げれば、いつものことだと言うように、無表情にイルミを見ていた。
「あなた、こんな大切なことを何故黙っていたの!」
急に声を上げた奥さんに、びくりと肩を揺らす。
次いで、「支度をしないといけないわ!」という言葉と共に彼女は部屋を出ていった。
もちろん、去り際に「ごきげんよう」と優雅に微笑んでから。
「なんか、怒られちゃったな…」
「キキョウの気性が荒いのはいつものことだ。気にする必要はない」
そういうものか。
それにしても、支度って何の事だろう?
「でさ、カインはどうするの?
殺し屋として働く気、無いんでしょ?」
イルミの一言に、一瞬にして場が凍る。
シルバからの視線を痛いほどに感じつつ、カインは苦笑いを禁じ得なかった。
「…。まぁ…当分は放浪するつもり。
ハンターライセンスもゲットしたし、世界を見て回るのもいいと思ってる」
「カイン…」
心配そうにこちらを見るシルバに、カインは眉尻を下げた。
「…シルバ、ごめん…。
俺は、当主のことも、今の現状も、甘えてしまってるな」
殺し屋でなくなる、外の世界を見に行く、自由に羽ばたいてしまう。
それは、全てシルバが当主になったからだ。
俺がミスをして、シルバに全てを押し付けたから。
本当なら、俺は殺し屋として最後まで尽くすべきなのだろう…。
「でも」
シルバは、怒るだろうか?
「外の世界に行ってみたいんだ」
俺の我が儘に。
ーあとがきー
思いの外にイルミが冷静だったのですが(笑)
もう少し何かを期待したんだけどなぁ。
脳内で、あっさりと「あ、そうなんだ」と、言われてしまいました…。
順応力ありすぎです。
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