長編 
46-ただいま

一番奥の部屋に案内すると、ツボネはドアノブに手をかけた。
ゆっくりと開く扉を見ながら、カインは微笑む。

あぁ、ようやくだ。


Euphorbia milii
ーただいまー


部屋の中はシックな家具や調度品で揃えられていた。
暖炉の火がゆらゆらと揺れ、家具などを優しく照らしている。

シルバもこういうものが好きだったな…。

そんなことを思い出しながら、部屋の中央に待ち構える人物に視線を向けた。

そこには、やはり…自分のよく知る弟はいない。

けれど。
佇む銀髪の男性を目にすると、無性に暖かい気持ちになった。

大丈夫。
もう分かってる。

君が、シルバだ。



「シルバ、ただいま」

「おかえり、カイン」



その言葉を皮切りに、あの頃のように思いきり抱きついた。
シルバもカインを受け止め、お互いを分かり合うように、きつく抱き締める。

この暖かさも、匂いも、やっぱりシルバだ。
ふふ。
変わってない。

少しして、お互いに自然と力が緩まり、今度はちゃんとシルバの顔を見つめる。

「帰ってきたよ。今度はちゃんと」
「あぁ。ずっと待っていた。カインの帰りを」

あの日から、本当に長い時が経った。
俺の体内時計だと、たかだか少し前の出来事だけど…。
それでも。
シルバに寂しい思いをさせたことには変わりないから。

「ごめんね。
 本当に、長い間待たせてしまった…。

 シルバ。
 シルバの30年を、聞かせてほしい。
 どんな月日だった?
 楽しことや、悲しいこと、辛いこと、嬉しいこと…何でもいい。
 シルバの話が聞きたい」

なぁ、シルバ。

どんな人生を歩んで来たんだ?




シルバは1つ頷いて、カインの瞳をじっと見つめた。
「…カイン。話したいことが沢山ある。
 いろんな事があった。どれから話したらいいか、分からないくらいに」

「全部教えてくれ。
 時間はたっぷりあるから」

カインは緩く微笑み、シルバもつられて微笑んだ。

「座って話そう」

シルバの部屋にあるソファーに腰掛け、二人は向かい合った。

こうやって話すのも久しぶりだ。
昔は毎日、眠りにつくまで話していたのに。

「そうだな、カインがいなくなったところから話そうか…。
 あの後、中々帰ってこないカインを探しに、屋敷に入ったんだ。
 一家は全員死んでいて、主人らしき死体の側に、水晶のようなものが転がっていた」
「うん…。その中に、俺がいた」
「あぁ。丸まって、寝ているようにも見えた」

この話は目覚めた時にも少しだけ聞いた。
でも、シルバも俺もあの時は気が動転してたし、親父もいたからな。

「眠ってしまったカインを元に戻そうと、必死にいろんな除念師を捜し出した。
 だが…全員に、“解けない”と言われた…。
 本当に、絶望した…」

もしも、俺がシルバの立場だったら…きっと、この世にはいない。
俺はシルバほど、体裁も根性も無いから。
シルバ以外の人間と歩んでいけるとは、決して思わない。

「あの時、俺は死のうと思った。
 カインがいない世界で、1人生きていくのは、あまりにも辛い。
 …終わりにしようと、思った」

同じ…思い。
でも。

「…それでも、シルバは生きてくれた」

「…あぁ。
 あの日…親父に“カインはまだ生きている”と、言われてな」

その言葉に俺は目を見開いた。

「“カインが目覚めた時、お前はカインを1人にするのか”
 そう言われた…」

親父…。
シルバのこと、引き留めてくれたんだ…。

「その時に思った。
 カインを1人にするくらいなら、俺が1人で生きて、カインを待ち続ける。

 そう決心したから、1人でも生きてこれた」

拳を握り、それを感慨深げに見つめるシルバを見て、カインは込み上げる想いを噛み締めていた。


…あぁ、どうしよう。



「カイン、なに笑ってるんだ?」
「…うん……嬉しくて。
 シルバがそうやって考えてくれたこと…。

 生きていて、こうやって話せることが…」


嬉しくて、涙が出そうだ。


「ありがとう、シルバ。
 生きていてくれて。本当に、感謝してる…」

帰ってきて、本当に良かった…。
シルバと双子で本当に良かった。


ありがとう。
ありがとう。

シルバが生きていて、本当に良かった。


「シルバ。もっと聞かせてくれ。
 シルバの話を」






ーあとがきー
ただいま!
おかえり!

帰ってきたよー!シルバのところに!(歓喜)














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