長編 
45-帰ろう

帰ろう。
シルバの待つ、あの家に。


Euphorbia milii
ー帰ろうー


“門までお送りします”
そう言われて、ゼブロと一緒に家を出た。

「どこまで気づいています?」

道すがらそう訪ねれば、ゼブロは笑顔を変えずに“そうですねぇ”と呑気に頭を掻いた。
「あなたがゾルディック家に通ずる者、というくらいは」

やっぱり。

「いつ、気づきました?」
「あなたが帰ってきた時に」

…帰ってきた時?

「…どうして?」
「数週間前…1ヶ月くらい前でしたか?
 あなたがあの門から出てきたのを見ていたんです」

出ていった時、見られてたのか…。
別に気にしてなかったな…。

「わずかな時間を除いて、門を見ているのは私とシークアントなんです」

あ、シークアントはさっき外にいた彼です。
と付け加え、ゼブロは続ける。

「敷地内に入ったのを、私もシークアントも見ていない。
 しかし、あなたは敷地内から出てきました。
 初めは執事の誰かかと思いましたが、どうも違うように見える。
 となると、残りはゾルディック家の誰か。ということになりますから。
 まぁ、年寄りのずぼらな勘ですけど」

ゼブロはそう言うと軽く笑った。

全く。
年の功というか。
勘が鋭いなぁ。

ふふ、とカインは笑う。

「大当たりだよ。ゼブロ。
 俺の名はカイン=ゾルディック。
 シルバの、双子の兄」
「双子…?」

「ちょっと不可思議なんだが、30年の時を越えてしまってね。
 俺は16のままで、シルバは46歳。でも、双子なんだ。紛れもなく」

ゼブロは何度も瞬きを繰り返していたが、少しすると深々と頷いた。

「…なるほど。そう言われれば、どこか面影があるように見えますね」
「そうかな?」
「えぇ」




おや。
なかなか良いタイミングで来たな。

近づいてくる気配に、笑みを深めた。

「ゼブロ。
 3人の特訓、請け負ってくれてありがとう。
 凄く助かった。
 …俺は一度帰るけど、3人に俺のことは話さないでね。
 俺がゾルディックだということは、特に」

「…えぇ。任してください」

よかった。
本当に、良い人に巡り合えて。





「カイン様。お迎えに上がりました」



森の中から少ししわがれた声が響き、その後、黒い執事服が静かに姿を現した。
そこには、執事服を着た老婆が深々とお辞儀をしている。

さて、この人は誰なんだろうか。
新しく入った執事?
それとも…。

「…カイン様、お久しゅうございます。
 ツボネのことを覚えていらっしゃいますか?」

そう言って少し涙ぐむ老婆は、カインにとってよく知る人物の名を口にした。

「ツボネ…?」

ツボネって、あの?
俺とシルバについてくれてた執事。
幼い頃からよく面倒を見てくれた…。

あのツボネ?

「…そうか…、30年って凄いな…」

「年を取りましたからねぇ」
そう言って微笑むツボネに、少し遅れてカインも微笑む。

「ツボネ、迎えありがとう。シルバのところに行こうか」
「はい」

おっと、行く前に。

「ゼブロ。3人のこと、よろしく頼む」
「…はい」

ゼブロがゆっくり一礼するのを確認して、カインはツボネと共に森へと消えた。


***


「ツボネ」
「はい」
「元気そうで良かった」

これは、素直な感想だ。

「カイン様もお元気そうで。
 旦那様からカイン様がお目覚めになられたと聞いた時は、本当に長生きするものだと…」
「ふふ。
 ツボネ、俺がいなくなった後、シルバは元気にやってた?」

俺の知らない30年。
一体とんな風に生きてきたんだろう…?

「カイン様がいなくなった後は、酷く落ち込んでおられました。
 生きているのが辛いと、漏らされたこともあります。
 しかし…今は、立派な御当主になられましたよ」

「そうか…」

その言葉に、少しだけホッとする。
生きるのが辛くなるほど、俺がシルバの生きる糧だったことに。

そして、 何よりも。
シルバが生きていてくれたことに。

「奥様と5人の御子息にも恵まれ、本当にご立派に…」

ツボネ、涙腺が緩くなったのかな?
さっきから涙ぐむ事が多い気がするけど…。

「旦那様は、カイン様がお帰りになることを、心待ちにしておられましたよ」
「…うん」


俺も待ち遠しいよ。

シルバ。





Dear シルバ
あと少しだ。

…なぁ、シルバ。
俺も、何か変わったのかな?

シルバには、俺がどう見えるだろう?




ーあとがきー
あと一歩!!
ツボネさんは結構好きなキャラですww
シルバ直属で、昔からいるのかな?と思ったために知り合い設定に。

ツボネさんの若い頃は、凄い美人だと信じてます。









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