長編 
5-霧の中

「ヌメーレ湿原。通称"詐欺師のねぐら"。二次試験会場へはここを通らなくてはなりません」
サトツさんの説明を片手に、カインは辺りを見回す。

来るのは初めてだけど、なかなか楽しそうな場所だね。
にしても、「詐欺師」ペテン師…か。
仁王とかその辺にいないかなぁー…。

「だまされると死にますよ」

「ウソだ!!そいつはウソをついている!!」


Euphorbia milii
―霧の中―


お?誰だ?こいつ…。
ぱっと見は人間だけど…。

「コイツを見ろ!ヌメーレ湿原に生息する人面猿!」

ワオ、サトツさんにそっくりだネ。

「ソイツはハンター試験に集まった受験生を一網打尽にする気だぞ!」

ふふ。
馬鹿な猿だ。
念も使えない奴が、試験官などやるものか。
それに、ここまで走り…うん、歩き続けたサトツさんが、そんな貧弱な猿のわけがない。

つ・ま・り。


ザシュ…


「くっく、なるほどなるほど◆これで決定。そっちがホンモノだね」
トランプを弄びながら、ヒソカが笑う。
顔面直前にトランプを掴んだサトツさんと、トランプに刺し殺された偽試験官。
場の空気が一瞬にして氷ついた。

「試験官はライセンスを持つハンターが無償で就くもの。あの程度の攻撃がかわせないワケないよね★」
「褒め言葉として受け取っておきます。ですが。次、攻撃してきたら失格にしますよ」
ヒソカの発言を冷静に対処し、サトツさんは集団の先頭に立った。

「それではまいりましょうか。二次試験会場へ」

へ?また走るの?!

今までのやりとりをぼんやりと見ていたカインは現実に引き戻され、小さくうなだれた。



「霧が出てきたね」
ゴンの言葉に、カインも一つ頷く。

霧だけじゃない。殺気も…。

「ゴン、カイン、もっと前に行こうぜ」
カインと同じく殺気に気づいたキルアが、そう声をかけた。
「うん、試験官を見失うといけないもんね」
「それもあるけど、なるべくヒソカから離れたほうがいい」
キルアの言葉にゴンは首を傾げる。
「ヒソカがどうしたの?」
「…アイツ殺したくてウズウズしてるみたいだからな」

うん、どんどん殺気が増してるから

「霧に乗じてかなり殺るぜ」

ヒソカ…あのピエロの名前、か。
快楽殺人者って面倒だねぇ。
零崎くらい無節操でもアレだけど、

「何で分かるんだって顔してるね。それはオレもアイツと同類だからさ。ニオイで分かる」
「キルアが?見えないよ」
「それはオレが猫かぶってるからだよ。そのうちわかる」
んー?
キルアは快楽殺人者の部類じゃないと思うけど…

「伝えた方が良いよね」
「「ん?」」
キルアとカインは首を傾げた。
「レオリオ―!!クラピカ―!!キルアが前に来たほうがいいってさ―!!」

え!こっから叫ぶの?!
どこぞの麦わら海賊みたいに自由だねぇ、ゴンは。

「どアホ―!行けるならとっくに行っとるわい!」
「そこをなんとか頑張ってきてよ―!」
「むりだっちゅ―の!」

ふふ。面白いなぁ。
相手の声は、さっきのオッサンかな?

「緊張感ないやつらだなぁ、も―」
「ホント。でも、良いな」
「何が?」
「ああいう微笑ましいやりとり。俺もやってみたい」
ふふふ、と笑うカインにキルアは意味が分からない、と肩を竦めた。

それにしても、霧が濃いな…

「ぎゃあああああ!」
「ひいいいいいい!」
後ろから聞こえる悲鳴に、ゴンは何度も振り返る。
「おいゴン!ぼーっとしてんなよ。他人の心配してる場合じゃねーだろ」
キルアがゴンに声をかけるも、ゴンは心配そうにまた後ろを振り向いた。
「見ろよこの霧、前を走ってるヤツが霞んでるぜ。はぐれたらアウトだよ」
「キルアの言う通りだよ、ゴン。今は自分の身を優先しな」

俺は円を使えるから、はぐれても全く問題ないけど…。
念を使えない奴は、はぐれたら終わりだからね。

「せいぜい友達の悲鳴が聞こえないことを祈るんだな」

キルアの言い方は悪いけど、ホントその通りだ。

ゴン、自分の身は自分で守るんだよ?
誰も助けちゃくれないんだから。


「いってぇー!!」
「!!」
響いた声にゴンは勢いよく踵を返し、来た道を走り出した。
「ゴンッ!」
キルアの制止の声も聞かず、ゴンの姿はすぐに霧に紛れて見えなくなった。

「あのバカ…」
「…キルア、行こう。俺達まで付き合う事はないよ」
「…あぁ」

バイバイ、だね。ゴン…。
君は面白かったけど、お別れだ。

「…ちょっと以外だったな」
「ん?」
キルアが呟いた一言に、カインはキョトンと首を傾げた。
「カインはゴンと一緒に行く気がしたから」
「どうして?」
「ゴンのこと、気に入ってるみたいだったから」
あぁ、気に入っていたよ。
でも。
「去っていくのなら、俺は追わない」
「…変わってんな」
「ふふ、それが俺だから」

俺は普通じゃないから。

「あ。そだ。さっきの話」
「?」
「キルアがあのピエロ…ヒソカと同類って話。あれさ、間違ってると思う」
「は?」
「キルアは違うだろ?人を殺すことを喜びとは感じないだろ?」
「まぁ、そうだけど…」
「だったら、違う。な?」
「ん…」

よしよし。
これで言いたい事は言ったぞ。




「おや…着いたみたいだね」
カインの言葉に同調するように、集団は止まり、明けた場所に出た。

「お疲れ様でした。ここが第二次試験会場でございます。定時になるまで、暫しお待ちください」

サトツさんはそう言うと、その場から消えた。

「き、消えた…」
「…すげぇ…」
何も知らない受験者達は、口々に驚きを現すが、カインはすっと背後の木を見上げた。
サトツと目が合い、小さく会釈した。

お疲れ様です、サトツさん。


「カイン、会場見に行ってみようぜ」
「あ、うん」




Dear ゴン
今までありがとうね、ゴン。
でも、何でかな?
君とはまた会える気がするよ。
ふふ。
生きてろよ。ゴン。







―あとがき―
ついに、宛名がシルバ以外に。
今までシルバにしか興味がなかったカインが、変わってきた証拠です。


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