長編 
34-兄弟


イルミは語りだす。
白々しくも冷静に。


Euphorbia milii
―兄弟―


やぁ、久しぶりだね。
そう親しげに始められた言葉には、感情は籠っていなかった。

軽く流す程度に家の状態を告げられる。
母親と兄弟を刺してキルアが家を出たこと、母親は喜んでいたこと。
その言葉全てが、キルアにのしかかる。

自分は普通ではない。

暗に、それを公言されているのだ。
キルアの冷や汗は止まらない。


「お前はハンターに向かないよ」
イルミの言葉が会場に響く。

「お前の天職は殺し屋なんだから」

カインは思案する。

殺し屋が天職だと言った自分と、キルアは違いすぎる。
そして、今なら、他の道もあると断言できる、と。

「お前が唯一歓びを抱くのは、人の死に触れたとき。

 お前は親父とオレにそう育てられた」

それは、教育方針ってやつなんだろうけど。
でも、だからって…

「そのレールの上を、絶対に走らないと行けないのか?」

口を挟んだカインに全員が視線を向けた。
この冷たい空気の中で言葉を発したカインの声は、多少震えていたものの、それが恐怖から来るものではないと、目を見れば分かった。

「カイン…?」

キルア、なんて顔してんだよ。
そんな泣きそうな顔…する必要すらない。

「道なんて沢山ある。
 育てたというなら、見送ってやれよ」

それは自らの思い。
同じ兄であるからこそ、弟の人生を踏み潰すなど、許せない。
カインの瞳は強い意思を孕んでいた。

「…勝手に口を挟むの止めてくれる?」

イルミの張り付くような殺気に、ごくりと息を呑んだ。

本当に…
強く育ったもんだね、俺の甥っ子は。

「悪いが挟ませてもらう。
 これはキルアの人生だ、好きに生きて良いんだよ。
 イルミになんて、文句は言わせない」

「言ってくれるね」

じとりと汗が首を伝う。
嫌な殺気だな…。

「これは俺達家族の問題なんだよ。
 カインが口出しする権利なんてない」

家族、か。
確かにイルミからしたら、俺はまだ家族じゃない。
家族じゃないなら口を挟むな、か。

「…。確かにそうかもしれない…」
「!カインッ!」

レオリオ、安心してくれ。

「それでも。
 キルアは、俺の友達だ。

 だから、守るよ」

ゴンも、キルアも、クラピカも、レオリオも。
俺に出来た、初めての友達だから。

「…友達?」
「あぁ」

キルア、認めてくれるか?

「キル、そうなの?」

話を振られたキルアは酷く狼狽えていた。
数秒思案したのち、下を向いて、ポツリポツリと話し出した。

「…。…俺は、友達になりたい。
 ゴンとカインと、普通に友達になりたい。
 殺しなんてうんざりだ。
 普通に友達になって、普通に遊びたい」

“なりたい”か。
キルア、それは違う。
俺達はもう、友達なんだよ。

「無理だね。お前に友達なんて出来っこないよ。
 お前は人というものを、殺せるか殺せないかでしか判断できない」

そんなことない。
そうなるなら、それはただの人形だ。

「今のお前にはゴンやカインがまぶしすぎて測りきれないでいるだけだ。
 友達になりたいわけじゃない」
「違う…」
「側にいれば、いつかお前は彼を殺したくなるよ。
 殺せるか殺せないか、試したくなる
 なぜなら、お前は根っからの人殺しだから」

あぁ、もう…!
聞いてられない!

「馬鹿なこと言うな!
 キルアは快楽殺人者でも、人形でもない!」

「カインの言う通りだ!!
 キルア!!お前の兄貴か何だか知らねェが言わせてもらうぜ!!

 そいつはバカ野朗でクソ野朗だ!聞く耳もつな!!」

レオリオ、君は本当にいい人だ…。

「それに『友達になりたい』だと?
 寝ぼけんな!
 お前ら、とっくにダチ同士だろうが!!」

レオリオの言葉にうなずいたカインを、キルアが驚いた表情で見ていた。

キルア、俺はキルアと友達宣言してるんだから、受け入れろよ。
ゴンだってそう思ってる。

「え?そうなの?」
「たりめーだろ!バーカ!!」
「そうか、まいったな。もう友達のつもりなのか」

つもりって…いや、まさか…。

イルミはそう言うと、顎に手を当てて考え込んだ。

「…よし、まずはゴンを殺そう」

やっぱり、危険因子の排除か…。
思わず舌打ちしてしまった。

「殺し屋に友達なんていらない。邪魔なだけだから。彼はどこにいるの?」

どうしてなんだ?

俺にとっての兄弟はシルバだけだ。
シルバが何かしたいと家を出るなら、俺はそれを見送るだろう。
幸せになってくれ、そう送り出す。
もしもダメなら、また戻っておいで、と。

似たような環境の中の兄弟なのに、どうしてこうも違う?

シルバ。
俺は…君の息子にも幸せになってほしい。

でも、その幸せが、同じ兄弟に奪われるなんて…。


そんなこと、許せないんだ。



―あとがき―
兄弟なのに、こんなにも違う。
何かが変わりそうで変わらない。
もどかしいですね。


…実はこの場面は結構好きです。
イルミの弟への執着が、直接的に描かれている場面ですし。
暗殺者として、イルミがどう生きてきたのかを知る場面でもあります。

イルミも、小さい頃は友人を作ったりしようとしたのかな?と妄想を掻き立てられます。
でも、最後は殺せるかどうかで判断してしまう自分に絶望したとか。
今後出てくるシルバとキルアの約束が「裏切るな」っていうのも、これに関連するのかな、とか。

妄想は楽しいですね。←





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