長編
32-勝敗
Euphorbia milii
―勝敗―
「自己満足か…。確かに、そうかもしれないな」
クラピカはそう言って、微かに笑った。
「だが。それでも、私の思いは変わらない」
緋色の燃える様な瞳が、俺を見ている。
なるほど、変わらないか…。
ふふ。
意志が強そうだ。
こんな風に正々堂々と、真っ正面から敵と対峙するなんて何年ぶりだろう?
あぁ…ダメだな。
俺はいつも、うまく伝えられない。
戦うしか道は無い、か。
「クラピカ、死ぬなよ?」
そう一言断りを入れ、足に力を込めた。
「っ?!」
目前に突然現れたカインの姿に、クラピカの目が見開かれる。
瞬時に、腕で体をガードした。
「よっ」
カインの軽い掛け声とは裏腹に、払われた腕の衝撃は重く、骨の軋む感覚がクラピカの体をギシギシと揺らす。
どうにか転がりはしなかったものの、クラピカは会場の端まで飛ばされてしまった。
「うん、なかなか良い反射神経だ。…でも、まだまだ未熟」
そう言うと、カインは腕を組んだ。
「さぁ、クラピカ。どう反撃する?」
カインの目は、背筋が凍る様な冷たい色を含んでいた。
***
「すげぇ…」
レオリオの呟きは受験生の殆どが思っていることだった。
クラピカの攻撃の全てを、手だけで薙ぎ払っていくカイン。
二人の体格など殆ど無いはずなのに、カインは鼻歌でも歌いそうなほど軽やかで。
クラピカの疲労が溜まっていく様は、目に見えて分かった。
「まいったと、言わないか?」
「…」
カインの呼び掛けに、クラピカは下を向いたままだ。
「拷問は、やりたくないんだけど。
でも、今以上に力を込めたら…クラピカ、死んじゃうし」
力の差、分かっただろう?
「…クラピカ、俺はまだ弱い方だよ」
力も抑えてるし。元の力すら、まだまだ発展途上だからな。
「そんな状態で、復讐なんてどうやってやるんだ?」
「…」
やっぱり…説得とか、俺は向いてないな…。
何を言えば止められるのかが分からない。
これが、人と関わってこなかった代償、か。
「…クラピカ。
頼むから、命を無駄にだけはするな。
せっかく…助かった命だろ?」
命を奪ってきた俺が言う台詞じゃないけど。
「無駄死になんてしない。私は必ず奴らを…!」
あぁ…もう…。
俺って、いつからこんなに甘くなったっけ?
「…クラピカの意思の強さは分かった。
でも。そういうことを言うなら、俺を倒してからにしろ」
クモは多分、俺より強いから。
「…っ」
殺気をちらつかせれば、クラピカは構えの姿勢をとる。
「それから。力量も分からず、退く勇気も無いなら…」
ぶわりと殺気を放つ。
もちろん加減はしてだけど。
「復讐なんて、ふざけたことぬかすな」
「…!」
睨みあって数十秒。
視線を下げたのはクラピカだった。
「まいった。私の負けだ」
その言葉を聞き、俺も殺気を収める。
「勝者、カイン!」
即座に審判の声が響き、全員がホッと息を吐いた。
歩き始めたクラピカの背中に、俺はどう声をかけるべきか迷う。
「…クラピカ」
もしかしたら、俺は取り返しのつかないことをしたかもしれない。
せっかく出来た友人なのに…。
「…カイン、ありがとう」
「!」
え?
今、お礼を言われた…?
「カインが私の身を案じているのはよく分かった。
少し考えてみようと思う。これからのことを」
…良かった。
そんな風に晴れた笑顔をみせてもらえるなら…意味があったのかな。
「俺の方こそ…ありがとう。クラピカ」
自分勝手に物事を言った俺を、拒否しないでくれて。
ありがとう。
―あとがき―
サクッと合格しちゃいました。
クラピカの今後にこれって変化をもたらすのかしら?←おい
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