長編 
31-対極

もう少しだけ泣いて。
顔を洗って。

俺は会場に戻った。


Euphorbia milii
―対極―


中は大変な惨事になってるだろうな。

「…」

ゆっくりと扉を開けば、血生臭い匂いが充満していた。

やっぱり、こうなったか。

扉を閉めて、ゴンを目視する。

「まいった。俺の負けだ」

ハンゾーの声が部屋中に響き、俺は目を見開いた。

ハンゾーが折れた…。
てことは、ゴンにまいったと言わせるすべが無かったのか?
いや、でも…ハンゾーの実力なら…。

カインがもんもんと思考しているうちに、ゴンは気持ち良く勝たせろと宣い、ハンゾーはゴンにアッパーを食らわせ、ノックアウトさせた。


こちらに歩いてくるハンゾーに視線を向けていると、目があった。
「お疲れ様…で、負けてあげたのか?」
「…。…まぁな。気に入っちまったんだ。あいつのこと」

ゴンはハンゾーの拷問に耐えて、そして…何かがあったらしい。
ハンゾーが気に入る、何かが。

ちょっとだけ、見ればよかったかな。
なんて…。

「それより、カイン。大丈夫か?」
「?何が?」

「なんか、ぼんやりしてるからよ」

…ぼんやり…。

「ふふ。うん、大丈夫」

さよならとただいまを、噛み締めてるだけだから。



***


会場が血みどろの状態なのを綺麗にするために、少しの時間がもうけられた。

隣で、腕を組んでいるクラピカは精神を集中させているようだ。

「…クラピカ」
「何だ?」

いつもと同じ調子、か。
ポーカーフェイスは流石だな。

だけど。
俺が気にしてるのはそこじゃない。

「クラピカは、復讐の果てに何を望む?」
「…?カイン?」
「ただ復讐するだけなら…俺は、可能性の1つを潰すために、君を倒すよ」

俺はシルバの幸せを願った。

俺と同じように、大切な一人を置いて逝ってしまったクラピカの一族。

彼らは…復讐なんて望んでいない。
俺と同じように、幸せを望んでるはずだ。

だから。

「なぁ、クラピカ。

 彼らは、本当に復讐なんて望んでいるのか?」

カインの言葉に、クラピカはカッと目を見開いた。
その色は美しい緋色で…。

「カイン…。私は、奴らに復讐する。
 それが、仲間達への手向けになると確信しているから」

「…そう、か…」

なら。
俺は、君の可能性の1つを潰す。

この試合で勝って、ハンターになる可能性を一つ阻止する。


君に与えられたハンターになるための5回の挑戦券。
その一つを潰す。

もしも君が合格しなければ…そうしたら、君は“来年”、もう一度、試験を受けに来るだろう?

クラピカがこちらの道に踏み込まない事を願って…

俺は、君を倒す。




第二試合、クラピカVSカイン


「カイン。私は全力で行く」
「あぁ。本気でかかってこい」

クラピカ。
君は俺には勝てない。

「始めっ!」


先に動いたのはクラピカだった。
真っ直ぐに突き出された木の刀が、カインの腹を目掛けて進んで来る。

刀に向け、カインは手の平を向けた。

「なっ」

レオリオの声を片耳に、カインは刀を手の平で受け止め、一歩も動かずに、軽くその刀を振り落とした。

カラカラと転がる対の刀に、一同は目を見開いた。

「…な、何が起こってんだ…?」
「見えなかった…」

レオリオやハンゾーの声が響いて、カインは“一般人には見えないのか”と、ぼんやりと考えていた。

「クラピカ。俺は置いてった側の人間だ」
「…?」

距離を取ったクラピカの眉間にシワがよった。

「弟を置いて、何年も眠り続けた」

30年も…。

「眠りにつく前に願ったことは、弟の幸せだ。置いて行ってしまう贖罪の心も強かったけどな」

“置いていってごめん。
どうか、俺がいなくても、シルバが幸せでありますように…”

願いは、声にも思想にも、何も残せなかったけど。

けして、復讐なんて望まなかった。

相手が死んでたからとか、そんなんじゃない。
死に際に願う事なんて、酷く単純だ。

「死に逝くものは、1番大切なもののために祈るものだ。けして、復讐なんて望まない」

もしもその人が復讐を望むなら…。
それは、自身が1番大切なのだろう。

「カイン…」

「復讐なんてものは、残された者の自己満足に過ぎない」

俺は、そう信じてる。


…クラピカ。

復讐なんて、そんなものに呑まれるな。




―あとがき―
“復讐”への思想はE主のものです。
私の考えは少し違うので、もやもやしました…(笑)










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あきゅろす。
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