長編 
30-さよならとただいま
「イルミは俺のこと、どこまで知っている?」

俺の問いにシルバは少し沈黙した。


Euphorbia milii
―さよならとただいま―


『…何も、知らない』
「何も?」
『あぁ。イルミには話していない。カインは何者かと聞かれたがな』

聞かれた、か。
なるほど。
だから、シルバは俺の動向を知ってたんだな。

「で?なんて答えたんだ?」
『“帰ってきたら教える”』
つまり、ハンター試験が終わるまで、イルミは俺のことを知らない。ってことか。


『カイン、試験は面白いか?』
「ん?…うん、まぁまぁね」

そう答えると、シルバはまた沈黙した。

「シルバ?」
『カイン、試験が終わったら、一度戻ってくるか?』

うーん…。
戻るつもり、あんまり無いんだけど。

「分からない。試験が終わって…それから決めようと思ってたから」



『そう…か…』



「あ…、…っ…」

消沈した声に、少し慌てた。

シルバにはこれ以上、悲しい思いはさせたくない。
30年も一人にして、俺は逃げるように家を出て…。



…。

…そう、だった…。

30年も俺は…。
シルバを一人にした…。
今も…またシルバを一人にしてる。


「シルバ、ごめん…。
 俺、まだ現実から逃げてる。
 でも、もう少しで、もう少しで受け入れられると思う。
 だから…!」


『カイン。

 …いつでも帰って来い』

「…っ。…うん…」


そうだった。

シルバの音色は、いつだって…俺を受け入れていた。


「シルバ…俺達はいつでも一緒だ。
 どんなに違う時間を過ごしても。どんなに離れていても。
 いつだって、俺はシルバの幸せを願ってる。
 置いて行ってしまったあの時だって、シルバの幸せだけを祈ってた。
 だから…。
 必ず、帰るから」

『カイン』

「必ず、帰る、から…」

視界が歪む。


…シルバ。
シルバに会いたい。

でも、きっと…まだ早い…。
俺はまだ、今のシルバを受け入れられない。

もう少し。
もう少しなんだ。


「ごめん…シルバ…。愛してる」

『…俺もだ。カイン』



俺はボロボロと泣いた。

寂しい…というのは少し違うかもしれないけれど。
涙が、止まらなかった。

シルバは30年も待っててくれたんだ。
俺はもう、前に進まないといけない…。


なら…。


『カイン?』


俺の心の中にはまだ、30年前の…あの頃のシルバがいる。
柔らかく微笑んだまま。

俺は…ゆっくりと、手を振った。



さようなら…シルバ。

そして…







ただいま。








「…シルバ。やっぱり、一度帰るよ。
 試験が終わったら…シルバに会いに帰る。
 …待っていてくれるか?」

『…あぁ…!待ってる。いつでも帰ってこい』


「…ありがとう…。シルバ…」


ずっと待っていてくれて。

「…じゃぁ、またな」
『あぁ』


ぷつりと切った電話の音は、どこか明るい気がした。






―あとがき―
ついに30年という月日を受け入れたE主。

本当はイルミの件だけを聞こうとしたんですが…。
このブラコン兄弟め(笑)


さぁ、試験に戻ろうか。







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あきゅろす。
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