長編 
24(総集編)

私の名はアスタロト。

青と灰
Part24


紫煙カインと面識は無い。
ただ、サタン様が6年間も一緒にいるために、彼の情報は逐一知ることになった。

サタン様と共にいるようになって、その存在を知った私は、彼に惹かれていった。
悪魔が皆、カインに惹かれるように、私もそうなっていたのだろう。

カインを見ているうちに、私は彼の思想が垣間見えてしまった。

カインは、悪魔も人間も、愛している。

これは間違いなく、その通りだろう。
しかし、カインがそれを体言することは殆ど無い。

人間は弱く、簡単に死ぬ。
悪魔は強く、人間を殺す。

その方程式はカインの中で根付き、膨らみ続けている。
それが故に、人との接触を極力避けて、悪魔とばかり関わりを持った。

それが…。


いつの頃からか、緩やかに変わり始めた。


人間と接触しないとはいえ、興味が無いわけではない。
気になるものや、気に入っているものもある。

そう…カインは何も知らずに、若君と邂逅した。
スーパーとやらで、何度も会っていた。
もちろん話すことはないが、確かに気にしていた。
若君の悪魔の力が、目覚めたと分かる程度には。

その事をカインはサタン様に問い掛けたが、サタン様はただ笑った。

“後の楽しみにとっておきな”

サタン様は面白がっていた。
カインの能力は、元々“魔障を受けないこと”“悪魔を引き付けること”これだけだ。
それなのに、悪魔の力をカインが感じとった事を。


サタン様は若君を虚無界にお連れするために、一度カインの元を離れた。

その間。
本人は気づいていないが、カインは相当不安だったようだ。
新しい環境、新しい出会い、新しい全てが。
だからこそ。
サタン様が戻った時には、あれ程に喜んだ。

…しかし、それによって。
置いていかれるいつかの恐怖を、少なからず思い出し始めていたのだろう。

“サタンと俺と悪魔達と。それだけが良い”
“愛は、痛いだけだ”

カインは不変を求めた。
何一つ変わらぬ未来を求めた。

けれど、サタン様が言った言葉により、それも砕かれる。

“お前はユリとは違うな”
“愛せば愛すだけ、面白くなるだろうが”

サタン様が、カインの心情に気づいていたかは分からない。
だが。
その言葉によって、カインの心は確実に揺さぶられたはずだ。

悪魔達もサタン様も、人間と同じように、いつか消えるかもしれない。

おそらく無意識に、カインはその悪夢に蓋をした。

カインは、幸せを夢見ていたかったのだろう。
けれど、覗いてしまった悪夢はドロドロと溢れ出す。

消えるかもしれない。
置いていかれるかもしれない。
両親と同じように、いなくなってしまうかもしれない。

思い出すことを拒絶していた事すら、溢れ出してくる。

訓練生共と一緒にバリヨンを乗せられた時に、何か深く考えを巡らせていたのも、それに関する事柄だろう。
落ちていく思考を浮上させるのは、やはりサタン様だ。

“笑ってろよ!いつもみたいに!”

カインにとって、それはある種の救いだったのだろう。
いつもの調子を取り戻したカインは、ひょうひょうと人間達と会話していた。

会話をするも、悪魔達は来ない。
いつもとは違う光景に、カインは少しだけ疑問に思っていた。
サタン様は“悪魔は律儀じゃない”とおっしゃったが…本当は違う。

カインは勘違いしている。
悪魔と自分の関係を。

だが、サタン様は面白がって教えない。
それに気づいた時、カインはどうするのか…。
いや、考える必要はないか…。


その後…カインの能力が進化している事を、ここで再び知ることになる。

“何かいる。…人と悪魔。悪魔は人型だな”

カインは悪魔や人の気配を、“見れる”ようになっていた。
ただ違和感を感じるだけだったのが、急激な進化を遂げはじめている。

これにはサタン様も驚いておられた。
そして、何故か…少し寂しそうであったように思う。


部屋に現れた屍は、訓練生などには出来すぎた相手であり、死んでもおかしくない。

そんな中で、カインは悪魔を呼んだ。
窮地を更に窮地へとおとしめ、自分を悪者にする。
無意識か、意識的かは計りかねるが。
カインが人間と離れようとしているのは、目に見えて分かった。

今一度、言っておこう。
カインは、悪魔も人間も愛している。

だからこそ、人間とは離れる。
いつもの事。
それが顕著に出ただけの話。

けれど。
カインは、それをどこか物悲しく思っていたのかもしれない。

…人間を、助けた。

“…ただの、気まぐれだよ…”

そう言おうとも、助けようとした事実に変わりはない。
無意識ならば、なおのこと…それはカインの望む姿だ。

…望む姿に、必ずなれるとは限らないが…。

カインは再び傍観に戻り、何かを納得していたようだ。
それが何なのかは、私には分かりかねるが…。

騒動は終わり、メフィストの話を聞き流しながら、カインはサタン様と話していた。

“サタンがここにいること、知ってるのか?”
メフィストの事を聞くカインに、他意はないだろう。
しかし、メフィストがサタン様の居場所を知っていれば、カインに近づきすらしないはずだ。


それから。
カインは悪魔だけでなく、人間も引き付けるらしい。

“わいは、志摩廉造”

“よろしゅう”

ピンク色の頭をした人間は、カインの手を握ってそう微笑んだ。

その事にカインはあからさまに驚き、目を見開いた。
サタン様がカインに声をかけなければ、静止の声は遅れ、人間は死んでいただろう。

…サタン様もカインには相当甘い。

人間等どうなろうが一向に構わないが、人間が死ねば、カインが悲しむ。
だから、声をかけたのだろう。
サタン様も悪魔だから、仕方ないと言えばそうなのだろう。


あぁ、そうだ。
最後に、人間が余計な事を言ったんだった。

“…ありがとうな”

カインは酷く不安定だ。
故に、カインはこの言葉に酷く揺さぶられていた。

この6年間、おそらく一度たりとも言われなかった言葉。



それでも…。

カイン、お前は悪魔達から逃げることなど出来ない。




「アスタロト」

意識を目の前に戻し、サタン様の呼び掛けに「はい」と答える。

「カインは、面白いだろ?」
「…えぇ。サタン様、それで、カインは今…?」

「寝てる。まぁ、疲れたんだろうよ。人間は脆いからな」

時折、お戻りになられるサタン様から、起きた様々な出来事を聞き、カインの様子を教えていただく。
学園にはメフィストの張った結界が邪魔をし、中を垣間見ることが出来ないために。

「それでな…」


カインの事を話す時、サタン様はとても楽しげで…。

人間の一生など簡単に過ぎ去る。
だが、この時間が長く続けば良いと、ほんの少し願ってしまった。






―あとがき―
総集編でした。
そして、まさかのアスタロト視点。
アッスの名前が出てきたので、語らせてみましたww

青主の思想やら心の変化などのアッス解釈になります。
なので、実は間違っているところもあります。

軽い裏話も含めて、ここまでが第一章という感じでしょうか。

↓管理人のアスタロト像。
常識人の苦労人。
仕事は早く、優秀である。
サタンには忠誠を誓っている。
そして、カインの事も気に入っている。
父親、もしくは先生みたいな感情で接しているみたい。








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