長編 
26-光の中

島全体に試験終了の合図が響き渡った。
これで、4次試験も終わり。


Euphorbia milii
―光の中―


「おぉー、みんないるー」

レオリオまでいるし!奇跡に近いね!

「カイン、お前また失礼なこと考えてただろ」
「いやー」
うーむ?俺って顔に出やすいのかなー?
…俺、一応暗殺者の端くれなんだけど…。
「でも、みんな無事だったんだね!」
ゴンの言葉にキルアはニッと笑う。
「ゴンの方こそ!ヒソカのプレート取れたんじゃん」

“ヒソカ”

その言葉に少し表情を曇らせたゴンに、俺は少し首を傾げる。

…何か、あったのか?

「カインはキルアと一緒だったのだな」
急なクラピカの問い掛けに、あ、うん、と軽く頷く。
「途中でキルアと会ってね、一緒に行動してた。会ってからは本当に一人も会わなかったけどな!」
「そうか」
「クラピカは?」
「私はレオリオと、それから、ゴンも途中から一緒だ」
「へぇ」

なんだ、結局みんな一緒に行動してたんじゃん。
やっぱり、心配する必要もなかったかな。

軽く頭をかいたカインは、ほっと息を吐いた。

「お。やっぱ生き残ったか」
背後からかけられた言葉に、カインは肩越しに相手を見やる。

「あ、ハゲゾー」

「ハンゾー!!」

「冗談冗談」

ふふ、からかうと面白いな、こいつ。

「ハンゾーもやっぱり残ったんだね」
「まぁ、そりゃぁな」
ま、あれで落ちてたらかなり格好悪いしな。
あ。そだ。

「なぁ、一つ良いか?」
「なんだ?」

「ハンゾーは何でハンターに?」
俺の問い掛けにハンゾーは目を見開いた。

ハンター試験は様々な人が受けるから、理由は十人十色だ。

ゴンは父親がハンターだったから。
キルアは面白そうだから。
クラピカは復讐のために。
レオリオは医者になるために。
イルミは仕事で必要だから。
ヒソカはいつかの自分のために。
ハンゾーは?

「俺は、ある巻物が欲しいんだが。そこはライセンスが無いと入れない国でな」
「じゃぁ、その巻物のため?」
「あぁ、まぁな。仕事で使えるってのもあるが、それが1番だ」
「そうか…」

彼もまた、目的を胸にこの試験を受けている。

「カインは?なんで試験を受けた?」
「俺は…新しい一歩のために」
「そう、か。…それが、お前にとって良い道だと良いな」
「ふふ。ありがとう」

ハンゾーは、優しい。
いや、ゴンもキルアもクラピカもレオリオもみんな優しい。

外の世界はこんなにも、光で満ち溢れて…。

俺には、少し息苦しい。

でも、嫌い…では、ないな。
笑ってしまうほど、心地好く感じてる。
だけど…。

「お互い、合格出来るように頑張ろうな。カイン」
「うん」

ハンゾーと別れ、振り返る。

「って、誰もいないし!!」
か、悲しい。
置いてかれた…。

がっくりとうなだれ、カインはため息を吐いた。
顔を上げ、窓の外に視線を移す。
太陽がこちらを見つめていて、カインは目を細めた。

闇は光の下に出来るもの。
光の中にある闇は掻き消されてしまう。

ここは表舞台の光の中で。
みんなが夢を見る場所で。

俺が…

闇の住人の俺なんかが、ここにいても良いのか…?



あの太陽に、掻き消されそうだ。



PiPiPiPiPiPi…!

「うっ?!」

突如として鳴り出した自身の携帯に、カインはビクリと飛び上がった。
すっかり存在を忘れ去られていたそれは、けたたましく鳴り響いている。
焦りを隠しきれぬまま、カインは通話ボタンを押し、携帯を耳に当てた。

「えーと、もしもし?」
『カイン。俺だ』

「!!…。…シルバ?」

不安と安堵が入り混じった、気の抜けた声が思わず出ていた。
『どうした?そんな情けない声を出して』

「え?あぁ、いや。なんでもない」

『…』

振り切るように言い切ったが、シルバの沈黙が、カインの心を揺さぶる。
一つ息を吐き、カインはゆっくりと口を開いた。

「…やっぱ、ある」
『…あぁ、そんな気がした』

目の前にいたら、シルバはきっと微笑んでいる。
そう思え、カインは穏やかな笑みを浮かべた。

「でも。シルバの声を聞いたら、なんか安心した」
本心からの言葉だった。

シルバはいつだって…

『そうか?何かあれば帰ってこい。カインの家はここにあるのだから』

シルバはいつだって、俺の“帰る場所”でいてくれる。
俺が光に掻き消されても、シルバだけは俺を捜しだして、俺の手を取ってくれる。

歳が変わっても、シルバはシルバだ。
俺のたった一人の兄弟。

「ありがとう。シルバ」

俺の一番。

『カインが元気なら、それで十分だ』

いつだって一緒だ。
どんなに離れていようと。
俺とシルバは、ずっと隣にいる。


「…あ。そういえば。シルバ、何か用事があったんじゃないのか?」
『ん?あぁ…。
 俺の息子、お前にとっては甥が、ハンター試験に出ている』
「…そう」
キルアの事か。

…あれ?

「俺がハンター試験に出てる事、言ったっけ?」
とある試験を受けるとは言ったけど、心配しそうだから内容は伏せてたはず…。
『いや。息子から聞いた』

キルアが?

…ありえないだろ。
だって、俺に対する態度は変わらない。
身内に見せる態度じゃない。

じゃぁ、知らずに報告した?

それも、ありえない。
キルアは家出して試験に臨んでる。

じゃぁ…

「キルアの他にも、いるんだね」

ゾルディックが。

『さぁな』
「ぶー」
頬を膨らませて抗議してみても、シルバはくつくつと笑うだけだった。
でも、やっぱりいるんだろうな。

『カイン。キルの事はお前に任せる』
「!…分かった。なら、俺らしくやらせてもらう」
『あぁ。頼む』
もう一人のゾルディックではなく、俺に任すのは、外に出たキルアのためか。
それとも、家に執着させるためか。
まぁ、どちらにしても。
これは好機だ。
キルアにはいろんな世界を見せてあげられる。
世界は広いことを、伝えられる。

俺では、力不足かもしれないけど。

『用件はそれだけだ。カイン、頑張れよ』
「うん。ありがとう。シルバ」

電話を切り、携帯をポケットにしまう。


シルバ、やっぱり大人になったなぁ。
子供とか出来ると、やっぱり変わるものだな。
…俺に甘いのは、変わらないみたいだけど。

俺も、早く追いつきたい。


その背中を、一つの影が見ていたとも知らずに、カインは静かに微笑んだ。




―あとがき―
…あれ?なんか予期せぬ方向へ…。
シルバ、何で電話かけて来てるの?!←
ゴンとクラピカの友情シーンを書こうとしたのに!!





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