長編 
16-正反対

待ち人が、来ない。


Euphorbia milii
―正反対―


『残り時間一分』

…ゴン、キルア、クラピカ、レオリオ。
なんで、来ない?

いくらなんでも、一人くらいは来れるだろう?!
特にゴンとか!無駄に運強そうだし!
キルアだって…実力はあるはずだろ?

悶々と悩むカインの半径10mは無人になっている。
カインから多少の殺気が漏れ出しているために。
その事に気づかないまま、カインは手に持つ懐中時計を睨みつけていた。

早く、来い。
そんな簡単にやられるような君達じゃないだろ?
…なぁ。


ギギギギ…


扉の開く音を聞き、カインは顔を上げた。

「ギリギリだったね」
「あぁ」
「ケツ痛ぇー」

見知った三人の顔に、カインの表情がパッと明るくなる。

「ゴン、クラピカ、キルア!」
「カイン!」
「三人一緒だったんだな」

あ。ということは、レオリオは…もしかして…

「俺もいるぜ」
「レオリオ!良かった…」

満遍の笑顔を見せるカインに、4人は少し驚いたようにカインを見た。
カインは今まで表面上の笑顔しか見せて来なかった。
本人は気づいていないが、今回のは心からの笑顔。

少し顔を赤くしながら、クラピカは咳ばらいを一つし、口を開く。
「…カインは、早かったのだな」
「うん。簡単なルートだったからな」
「なにー?!俺達はギリギリまで走り回ったのにか?!」
「ふふ、お疲れ様。
 いつまでたっても来ないから心配したよ。でも、本当に良かった」

ホッとしたカインの表情に、キルアは少し目を逸らし、頭をかいた。

「(なんか、恥ずかしい…)」


3次試験終了。
26名通過(うち1名死亡)


***


「3次試験合格おめでとう。次の試験は後ろに見えるゼビル島で行う。まずはこの中からカードを引いてもらおう」

この中と指差した箱から、受験者は一人ずつカードを引いていく。

「300番」
「はーい」

引いた番号は…

「(80…?)」

そうして全員が引き終わると、リッポーは口を開いた。

「4次試験は、狩るものと狩られるもの」
狩るものと狩られるもの。
あぁ、なるほど…。
この番号は、自分が狩る人間の番号か。

って、誰だよ?これ…。

周りを見渡せも、すでに札を隠した人間ばかりで、誰がどの番号かも分からない。

みんな、狡い…。

…まぁ、でも。
札を付けたままの人間は、絶対に狩られないと自信のある者だけだろう。
実力が伴う伴わないに関わらず。

俺は…良いか。
ここにいての要注意人物はヒソカとイルミだけだ。
二人には番号割れてるし。
他は取るに足らない。


さてと。
説明も終わったし、船に戻りますかね。

腕を上げてうーんと背伸びをした瞬間、肩に激痛が走り、一瞬固まった。
周りに気づかれないように、ゆっくりと肩を下ろす。

…痛い…。
我慢は出来るけど、痛い…。
なんだろう…?この感じだと…凍傷かなぁ…。
ヒソカの念を剥がした時の後遺症?
まさか…いや、そんなはず…。

「カイン、どうした?」
「ふあ?!」
変な奇声を上げたカインの顔を覗きこんでいたのは、レオリオだった。

「なんだよ?どうした?」
「…あ、いや、なんでもない」
思いっきり首を振って、作り笑いを浮かべるも、レオリオの目は完全にカインを疑っていた。

「…。何か肩を気にしてるようだったが?」

…ばれてた…。

「…。何で分かった?」

「俺は医者志望だからな。人の不調には敏感なんだよ」

…凄いな。
純粋にそう思う。
俺が気にしたそぶりを見せたのは一秒程だろう。
それに気づくなんて。

「船に乗ったら見せろよ。治療してやるから」
「あ、うん…」

そうして、船に乗ったカインは個室でレオリオから治療を受けていた。

「どうやったらこんな酷い凍傷になるんだ?」
カインの横で肩の治療を行っているレオリオは、傷を見て顔を歪めていた。

肩の痛みは、やはりというべきか、ヒソカの念を凍らせた時に負ったものだった。

「簡単な道とか言っておいても、やっぱり危険な目に遇ってたんだな」
ため息を吐きながら語るレオリオは、いつもとは違い、紳士に見える。

「なぁ?レオリオ」
「なんだ?」
「レオリオは何でハンター試験を受けてるんだ?」

ずっと不思議だった。
受験生の中で、最も一般人に近いのは…多分レオリオだ。
ゴンは野性児で一般人とは言い難いし、キルアは暗殺一家の人間。クラピカは戦闘部族のクルタ族で復讐者だと言っていた。
武力が重要なハンター試験に、なぜ一般人のレオリオが受験しているのか。

「なぜだ?」
「…。俺の目的は、金さ」
「金?」
「そうさ。金さえあれば何だって買えるからな」

違う。
レオリオはけして、そんな人間じゃない。
金のために命を投げ出すような人間でも、金のために誰かを売る人間でもない。

「レオリオ」
咎めるように名を呼べば、レオリオは少し戸惑った様子を見せたあと、仕方なしといった様子で口を開いた。

「…昔の話だ。俺の友達はなんの前触れもなく病気になった。それが厄介な病気でよ。治せるには治せるが、そのためには莫大な金が必要だった。貧乏だった俺達にはどうする事も出来なかったわけだ…」
「…亡くなったのか」
「あぁ。俺は馬鹿だからな。医者になろうと思ったぜ。医者になって、友達と同じ病気の子供を治して『金はいらない』って言うのが夢になった」

レオリオらしい夢だと思う。

「だけどな。その医者になるためには、更に見たこともない金が必要なんだと。
ハンターになれば、その高額な受験料が免除される」
「だから、ハンター試験に?」
「おうよ。笑ってくれても良いぜ」
笑うわけない。
「レオリオは、本当にいい人だね」
「…。俺は別に…。ほら、終わったぜ」

頭をポンと叩かれ肩を見れば、丁寧に巻かれた包帯が目に入った。

「うん、ありがとう」
救急用具を片付けているレオリオを横目に、カインは脱いでいた服を羽織った。

「カインはどうなんだ?」
「え?」
レオリオからの問いに、首を傾げる。
「ハンター試験を何で受けたんだよ?」
「俺は…」

何で?
会長が言ったから。
でも、それだけ?本当に?

「…おーい?カインー?」
「はっ。……あぁ。何でかな?人に言われたから来たんだけど。でも、何か違った気もする…」
「はぁ…」
よく分からないカインの回答に、レオリオも首を傾げる。

「ごめん。俺、そんなに考えないで試験受けてた…」
「ん?まぁ、今からやりたいこと見つけるのも良いんじゃないか?お前の人生なんだからよ」
「…そうだね、ありがとう」

レオリオはやっぱり優しいと思う。

「レオリオ」
「ん?」
「良いお医者さんになってね」
「おうよ」




Dear シルバ
ハンター試験で知り合った人は、医者になりたいんだって。
…人を助ける仕事。
俺達とは正反対の生き方だね。
でも、分かり合うことが出来た。
俺が人殺しだと、知らないからだけど。
それでも、一緒にいる…不思議だね。




―あとがき―
レオリオの回でした。
無駄にいい人だよ、レオリオは。




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