長編 
13
「雪男!特売日がいかに家計を助けるのか、分かったか?!」
「うん…兄さん、もういいよ」
「なんだ、その言い方!これは重大な話なんだよ!」


青と灰
Part13


奥村燐が新入生代表くんを説得し始めて数分。
なんだか申し訳なくなってきた。

『なんだぁ?この状況』
「(おわっ!!サタン?!)」
『おー。俺様だ』
いつも通り過ぎるサタンに、ホッと息を吐く。
「(…どこ行ってたのさ!!)」
『どこにも行かねーよ。お前がどっか行ったんだろうが』
「(え…あ…。すいません)」

そっか。俺が体取られたから、か。

『で?なんだ、この寸劇は』
寸劇って…!

「(奥村燐が俺を庇ってくれてる状態?)」
『何で疑問系なんだよ』
「(いや、なんか卵の安売りの件を口走ったら、庇ってくれた)」

言い合ってる双子を見やれば、今度は弟が兄を説得していた。

「兄さん、そういう問題じゃないんだよ。兄さんも授業受けるでしょ?紫煙君も受けないといけないんだ」
「でも、紫煙は塾に入ってないんだろ?」
「いや、だから捺印が…」

…。

『堂々巡りだな』
「(言うなって。個人的には奥村燐に勝ってほしいんだから)」
卵の安売りのために。

『で?あと10分もしたら始まるぞ。安売り』
「(…!オーマイガット!!)」
これは、どうにかせねば…!

思わず、バッと手を上げた。

「あの。あと10分しかないんで、行かせてもらえませんか」
俺が声を出したことに驚いて、その場にいた全員がぽかんと口を開けた。

『ぎゃはは、固まった固まった!』
「(固まんなー!時間ないんだよー!!)」

俺の気持ちが通じたのか、ハッと我に返った新入生代表くんは、首を振るった。
「…。…いえ、ですから…」

「とりあえず、早くここから出せや」

「…」
思いの外、ドスの利いた声が出た。

全員が沈黙を守っている中、奥村燐がさっと動き、俺の手を掴んでドアの前に立った。

「え?」
「ほら。こっから行け」

奥村燐は、そう言ってドアを開けた。

「(えぇ?)」

ドアの先には見慣れたスーパー。

「アンビリーバボー…」

思わず口に出してしまったことは許してほしい。

「兄さん?!何を勝手に!!」
新入生代表くんが酷く慌てていたが、彼に捕まると後が厄介な気がしたので、あえて無視する。

ドアをくぐる前にちらりと奥村燐を見やる。
俺の視線に気づいた奥村燐はニッと笑い、俺は無表情にその笑顔を見ていた。

『行かねーのか?』
サタンの声に、内心小さく頷く。
「(行く、行くよ。ただ…)
 …奥村燐。ありがとう」
「おうよ。あと、燐で良いぜ。雪男も奥村だからな」
「そうか…」

奥村燐は本当に人懐こい、いい人だ。

だけど…悪いが。

「感謝はすれど、馴れ合うつもりは無いから」

「はっ?!」

「じゃ」

さっさとドアをくぐり、彼等を振り返らずにそのドアを閉めた。

「(逃げ出せた…)」
『良かったなぁ』

小さく息を吐き出し、辺りを見渡す。
出てきたのは、どうやらトイレの入口だったらしい。

「(あ。卵、卵…)」
タイムセールが始まるまでは、あと5分ある。が、おそらくいつも通り並んでいるだろう。
スーパーに良く行く人は分かるだろうが、安売りというのは恐ろしいパワーを発揮する。
気を引き締めなければ、呑まれることだってある。

そう、つまりは。
スーパーはいつもの活気と雰囲気が漂っているということ。

一つ違うのは、
少し呆然としている俺の心。

『おい、気抜いてると取られるぞ』
「(はっ!)」

しまった。
こんな大事な時に俺は何を呆然と…!


卵を無事に受け取り、その日の買い物をするためにカゴを持った頃、サタンの笑い声に意識が傾く。

「(サタン、何笑ってんの?)」
『クク…いやぁ?本当、面白いと思ってな』
「(は?)」

何の話だ?急に…。

『お前もあいつも、すんげぇ面白い。これだから、人間にちょっかい出すのは辞められないんだよなぁ』
「(…俺が面白い?何だよ、ケンカ売ってる?)」
サタンの含み笑いに、ムッと口を尖らせた。

『あ?褒め言葉だろうが』
「(どこがー?俺、お笑い芸人目指してないから嬉しくも何ともないんだけど)」
『なら、目指してみろよ』
「(な?!…よーし。そこまで言うなら、頂点でも目指してやろうじゃねーか!!)」
『お?やる気になったか?』
「(…って、なるかぁ!!ボケェ!!)」
思いっきり殴っておいた。
一心同体って、こういう時は楽だな♪

「(さて、会計会計)」

悶絶してるサタンは無視して、俺は無事に卵を買うことが出来た。



***



『なぁ、カイン…俺様の扱いが酷くなってねーか?』
「(んー?あんまり変わらないと思うぞ?)」
『そうか…?』

うん、そうそう。
…あ。

「(焼きそば買うの忘れた)」
『カインの馬鹿野郎ー!!』

「(あははは。ごめんごめん)」
『心がこもってねぇ!!』
「(あははは!)」




―あとがき―
ごめんね、サタン。
焼きそばはまじで買い忘れたんだ。←読み返して気づいたのです。

相変わらず心を開かないけど。
それでも主人公'sに関われた事に、管理人は満足です。




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あきゅろす。
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