長編 
2-ハンター試験
「ふぁぁ〜…」
あくびを噛み殺しながら、カインはトボトボと歩いていた。

うー、夜中にハックなんてしなきゃ良かった…。
でも、30年も経つと、いろんなセキュリティとかウイルスとか増えてて、解読に夢中になっちゃったんだよなぁ。

…うむ、反省反省。



Euphorbia milii
―ハンター試験―



カインはザバン市の商店街を歩いていた。
家を出たは良いものの、特にやることもなく、とりあえずハンター試験を受ける事にした。
30年前の知り合いの中で唯一、連絡の取れたネテロ会長が、“ハンター試験を受けろ”と、カインに助言したがゆえに。


ネテロ会長…30年前もジジイだったけど、今も元気そうだったなぁ…。
しかし、あの爺さん…うちの祖父と殺りあったとか聞いたけど…。
……うん、今は考えないようにしよう…。

なんだかいろいろと怖くなり、カインは頭を振ってネテロ会長を頭から振り落とした。



「えーと、会場は…ここかぁ」

カインの目の前には一軒の定食屋。

「さぁて、行きますか」

扉を開けると、店主らしい人と目が合った。

「いらっしゃい!お客さん注文は?」
「ステーキ定食」
「…焼き加減は?」
「弱火でじっくり」
「お客さん、奥の部屋へどうぞー」

この合言葉…一般の人が言ったらどうするんだろう。

首を捻りながら、案内された部屋の席に着く。

目の前にはジュージューと音を立てる肉。

美味そうだな…。食べて良い?良いんだよな?
いっただきまーす!

「お客さん、相席お願いしても良いですか?」
「ふあ?…ん、どうぞ」
肉を口に含んだまま、顔を上げたせいで定員さんに少し笑われた。気がする。

そして、相席…つまりハンター試験の受験者が部屋に入ってきた。



「カタカタカタカタ…」

「…」


えぇー…!
何か針が顔に刺さってるんですけどっ?!
カタカタ言ってるし!
何この人?!え、てか、人?!

「ょ、よろしく?」

やべ、声裏返った。

「うん、よろしく」

あ、普通に喋れるんですね。

見た目にビビりながらも、カインは彼を凝視していた。
ゆっくりとした動作でイスに腰掛けた彼はまたカタカタと音を立てる。

針男(ハリオ)さん…念使い、だね。
しかも、強い。
でも…

「カタカタカタカタ…」

お願いだから、こっち見るな…!!
そう願いながら、カインは顔を背けた。

少しして、部屋がガコンと音を立て、下に下がって行く。
エレベーターなのだろう。深層深くまで行くようで、まるで止まる気配がない。

「ねぇ」
「っはい?!」

「君、名前は?」

「………。カインでげす」

しまった!何か変な語尾がっ。

「カイン、ね。ふーん」

ツッコミ無しかっ!
寂しい…っ。

微妙な表情で見つづけていたら、彼は首を傾げた。

「?あぁ、俺はイルミ」

ちっがーう!
俺が求めたのはツッコミなんだけど!

思わず声に出しそうになったが、おっかな過ぎて言えない…。
俺、一応暗殺者なのになぁ。

「あ、でも試験の最中はギタラクルって呼んでね」
「え?あぁ、はい」

じゃぁ、何で本名教えたんだよ…。

小さなツッコミをしつつ、カインは肉を口に入れた。



チン



エレベーターが止まり、開かれた扉の先には、大量の雑魚。


ワオ。噛み殺…げふんげふん。

俺の武器にトンファーは今のところ無いんだから。


エレベーターから降り、周りを見回していると豆っぽい頭の人が近づいてきた。

「番号札です、どうぞ」
「あ、どうも」

ふむ。300番か。

「そちらの方も」
「カタカタカタカタ…」

喋ろうよ!
うぅー…言えないけどさ。

「じゃぁね、カイン」
ギタラクルはそのまま人混みに消えていった。

「喋る所が違う…」
カインは小さくため息を吐いた。



さて。
時間までどうしよっかなぁ。
本とか持ってくれば良かった…。

「なぁ、あんた」
「ん?」
横から現れた男に視線を向けた。

…うわ、鼻デカッ。
しかも、俺の嫌いな中年太り…!

「あんた、試験初めてだろう?俺はトンパ。俺はハンター試験を35回受けてんだ。分かんないことがあったら何でも聞いてくれ」
「…よろしく。俺はカイン」
試験35回ってダメだろ。
あーやばい、中年メタボってだけで鳥肌たってきた…。

「お近づきの印に、ジュースで乾杯しよう」
差し出された缶ジュース。
カインは怪訝に思いながら、人の善い笑みを浮かべ、ジュースを受けとった。

毒入りだな?

「ありがとう。でも、今は喉乾いてないから、後で飲むよ」

何かに使えるかも、だしね。

ニッコリと笑ったカインに、トンパは度肝を抜かされた。

「(…う、美しい…。は!俺は何を考えて…)…そ、そうか」
「ん。じゃぁ、またねー」
カインは手を振り、そそくさとトンパの下を離れた。

メタボのやつ、何か顔赤らめてたなぁ。
うぅ…気持ち悪い。
早く忘れよ…。


カインは辺りをキョロキョロと見回し、壁に背をつけ座り込んだ。
不自然に成らない程度にゆっくりと気配を消し、目をつむった。

早く嫌な事は忘れよう。

カインは静かに眠りについた。





Dear シルバ
今、俺はハンター試験に来てる。
ここに来るまでに、歳をとる気配のない老人や変な針男に会ったけど、なんかうちの家の方が普通だと思っちゃったよ。
世界は広いな…。






―あとがき―
眠りについたカインは、夢の中で大量の中年メタボに追い掛けられる事に…。

カインの周りは筋肉質な人が多いので、メタボ系に免疫がないのです。
※ちなみに、メタボは病気であって、けして中年太りのみを指すものではありません。

最後の手紙は、カインが心の中で宛てた物で、実際に手紙として送ったわけではないのです。


↓作中使用
リボーン



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