長編 
12
「おや、起きたんですね。紫煙君」

新入生代表くんが、にっこり笑顔で俺の行く手を阻んだ。


青と灰
Part12


「(…なんていう拷問だ…)」
行く手にも、背後にも、えくそしすと。
あ、見習いだっけ?

「(サタンもいないし、どうしようかな…)」

俺が退治されるわけじゃないけど、悪魔達が倒されるのは嫌だし…。

妥当な選択としては…。

「帰ります」

やっぱり素直に出ていこうか。

俺の言葉に笑顔を崩さなかった新入生代表くんは、更に笑みを深めた。

「ダメです」

…ダメって言われた…。

「授業を始めますから、席に着いてください」
「…授業?」

もう授業終わってるけど…?

「祓魔塾の授業ですよ。紫煙君も今日から受けるんですよ?」
「は?え、なんで?」

「何でって…紫煙君が祓魔塾の生徒だから。ですかね」

…。

「ちょっと待った!」
「何です?」
「その、ふつま…なんとかっていう塾に入った覚えは一切ないぞ?!」

「…。ですが、ここにサインもありますし。それに昨日、理事長と話していたじゃないですか」

そう言って差し出された書面には、確かに《紫煙カイン》のサイン。

しかし、自分は書いてない。

「何で俺のサインが…。ていうか、昨日は誰にも会ってないし…」

ん…?
…ちょっと待てよ。
今日、そんな話、したよな。

…あ、そうだ。

アマイモノが、俺の体に入って…

理事長に会ってた…!!

「昨日は僕と自己紹介もしましたし」
「…悪いんだけど。俺、その書類もあんたも知らない」

流されれば終わりだ。
悪魔を退治する奴らと仲間になるのはごめんだし。
俺が関われば、ここにいる全員死ぬし。

俺は普通に生きたいんだ。
たとえ、普通には見えない生き方だとしても。

「君達の仲間になるつもりもない。帰るから」
新入生代表くんの横をすり抜けようとしたら、ガシリと腕を捕まれた。
地味に痛い。
「とりあえず来たのですから、授業の一つでも受けて行ってください」

ええー。

「いや、俺は寄るところがあるから」
スーパー行かないと。
今日は卵の安売りがあるんだから。

「しかし…」
「しかしもなにもないの。これ以上は付き合ってらんないから」
新入生代表くんの手を冷たく振り払い、教室を後にした。














サタン、いないのか?
サタン。
なぁ、サタン?

助けてくれよ、なぁ?
今、本当にお前に会いたい。

だって…。

「迷った…!!」

帰り道が分からない!!
何か分かんないけど、外に出られない!

心細いよー…。
悪魔が見えないから、案内もしてくれないし…。

とりあえず。開けつづけて、突破するしかない!
次はこの扉を!

ガラッ

「…」
「お帰りなさい。紫煙君」

パタン。
思わず扉を閉めてしまった。

あれ?
今、新入生代表くんがいたような気がしたけど…いや、そんなはず…。

ガラッ。

「紫煙君、とりあえず教室に入りましょうか」

呆然と見上げていた俺の首根っこを捕み上げると、教室内にズルズルと引きずっていく。

し、締まってる!
死ぬ!死ぬ!

「さて、紫煙君。授業受けてもらいますからね」

「いやだー!帰るー!卵の特売ー!!」
「卵?」
俺が思わず口に出した言葉に新入生代表くんは首を傾げ、その兄の奥村燐が“あ”と声を上げた。

「雪男。今日は卵の特売日だ」
うんうんと頷く奥村燐の言葉に、更に首を傾げる新入生代表くん。
「え?どういうこと?」
「スーパー仲間だから、俺には分かる!卵の特売日の大切さが!!行かせてやれ!」
そう言って、俺の首根っこから、新入生代表くんの手を退けてくれた。

「兄さん」
「あのな、雪男…―――」

俺を庇うように傍に立ち、自炊してる人間には大切なんだと力説する彼を、俺はただ唖然と眺めていた。






―あとがき―
どんな終わりだっ!
とりあえず卵の特売に間に合えば良い。(ん?)


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あきゅろす。
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