長編 
11-闇


『…怖がんねーの?』
死体なんて、怖くない。
『んー?俺も人殺しだし?』
俺も人殺しだから、“人殺し”は怖くない。

他人でも、自分でも。


Euphorbia milii
―闇―


カインはキルアとのやりとりを思い出しながら、ただぼんやりと双子の弟の事を思い出していた。

シルバ…。
もう…あの頃のシルバはいないんだよな。
今、家に帰っても…俺と同い年のお前はいない。

分かってるよ…。
分かってるんだけどさ…。


「…ダメだなぁ」
呟いた独り言は、隣にいたクラピカの耳に入ったらしく首を傾げられた。
「どうした?」
「あー、いや…。ちょっと…ホームシック、かな」

キルアとあの類の会話ってダメだな。
ついシルバを思い出しちゃうし、自分の非常識さを痛感させられる。

「…家族か?」
「うん。両親と祖父母と…双子の弟が一人」

あ。それから甥っ子姪っ子が5人か。
…甥っ子、か…。

「そうか…」
「クラピカの家族は?」
「いた、が…今はいない」

いない?
…事故?病気?それとも…

「幻影旅団に殺されたんだ」

「幻影旅団?あの…?」

ネットで見たな…。
幻影旅団…盗賊で人殺し。
団員は12本の蜘蛛の入れ墨を入れている。
A級の賞金首だったはず。

「奴らに復讐すること、それが私の目的だ」

クラピカの瞳が朱色に染まるのを、カインは呆然と見つめていた。

朱色の瞳?…クルタ族か…。
…嗚呼…だから、復讐。

「…クラピカ。残した者の思いは…」
「?」
「…いや、やっぱ良い。俺が言える事じゃないし」

残した者の思いは知ってる。
俺は30年前のあの日に、シルバを置いて逝ってしまった。
あの時、強く思ったことは、きっとクラピカの家族も同じように思ったはず…。

…でも。
俺は復讐される側の人間だから。

「今は、まだ」

「カイン…?」

俺は、人殺しだから。
この思いは、まだ、君に言っても意味がない。



****



場所は変わり、食堂。
一次、二次の試験官が揃い、食事を取っていた。

「今年は何人くらい残るかな?」
メンチは唐突に出した疑問に、ブハラとサトツは考えを巡らす。
「合格者って事?」
「そ、なかなかのツブぞろいだと思うのよね。一度全員落としといてこう言うのもなんだけど」
「サトツさんはどう思う?」
「…そうですね。ルーキーがいいですね。今年は」
その言葉にメンチが嬉々と反応を示す。
「あ、やっぱりー!?あたし294番がいいと思うのよねー。ハゲだけど」
「唯一スシ知ってたしね」
というか、それだけの理由だろう…と思うが、ブハラは口にしない。言わぬが花。

「私は断然99番ですな。彼はいい」
「あいつきっとワガママでナマイキよ。絶対B型!一緒に住めないわ!」
そーゆー問題じゃ…
ブハラは心の中でツッコミを入れた。

「ブハラは?」
口の中のものを飲み込むと、ブハラは口を開く。
「…そうだね―。新人じゃないけど気になったのが…やっぱ44番、かな」
「!」
「メンチも気づいていたと思うけど、255番の人がキレ出した時一番殺気放ってたの、実はあの44番なんだよね」
「もちろん知ってたわよ」
メンチは険しい顔で言葉を続ける。
「抑え切れないって感じのすごい殺気だったわ。
 でも、ブハラ知ってる?あいつ最初からああだったわよ。あたしらが姿見せた時からずーっと」
「ホント―?」
ブハラは気づいていなかったらしく、目を丸くした。
「そ。あたしがピリピリしてたのも実はそのせい。あいつずーっとあたしにケンカ売ってんだもん」
メンチは心底嫌そうに顔を歪めた。
「私にもそうでしたよ。彼は要注意人物です」
サトツはコーヒーを一口飲むと、テーブルに置き、言葉を続ける。
「認めたくはありませんが、彼も我々と同じ穴のムジナです。
 ただ、彼は我々よりずっと暗い場所に好んで棲んでいる。
 我々ハンターは心のどこかで好敵手を求めています。認めあいながら競い合える相手を探す場所…ハンター試験は結局そんな所でしょう。
 その中にたまに現れるんですね。ああいう異端児が。
 我々がブレーキをかけるところでためらいなくアクセルをふみこめるような…」

サトツの話を聞き、メンチは思い出したように口を開く。

「…300番…」
「ん?300番って、あの凄いまずいスシを作ってきた子?」
「そう。あいつ、44番の殺気に自分のを混じらせてたけど…。
 考えてみれば、あいつも要注意人物に変わりないわね」
メンチの発言に、ブハラはキョトンとし、サトツは目を細めた。

「殺気?あの子から?」
「ブハラは気づかなかったかもね。私達に向けられたものではないし…。
 あの殺気の隠し方、あの子も相当暗いとこにいるわ」
サトツはコーヒーをまた一口飲むと、二人を見やった。
「彼の殺気はとても冷たい。冷気のように」
サトツは試験の開始直後に放たれたカインの殺気を思い出していた。
「一次試験で放たれた彼の殺気は、とても冷たく感じました。
 …ですが、彼自身は正反対に明るい。それが、彼の闇の深さなのでしょう」
「「…」」



****


規則正しい寝息を片耳に聞きながら、カインは天井を見上げた。

『素直さも時には必要なのかもしれない』

クラピカの言う通りだ…。
目を背けるのは、もう、辞めよう。

ずっと、頭の隅に引っ掛かっていた。
シルバに良く似た、銀髪の子供。

「…ゾルディック、なんだよな…」

カインはそう呟くと、ゆっくりと目をつむった。




Dear シルバ
長いようで短い一日が終わったよ。
俺はまだまだ元気だからな、明日も頑張るよ。

あと。
…シルバ。
多分、君の息子に会った。
始めはそんな気がしなかったけどさ。
暗殺一家の出生、迷いのない殺し方、あの容姿。
似てる、似過ぎてると思ったんだ。

なぁ、シルバ。
…キルアは、君の息子だろう?






―あとがき―
ついにっ!気づいちゃいましたよっ!
まだ気づかせないつもりでいたんですけど(笑)
もうっ、クラピカが余計な事言うからっ(>_<)


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あきゅろす。
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