長編 
10-変わる

俺は俺だ。
いつか何かが変わる日がくる。
そんなことは無いと、思っていた。


Euphorbia milii
―変わる―


「カイン!飛行船の中、探検しよう!」
「あー、ゴメン。この後ちょっと予定があるんだわ…」
「予定って何だよ?」
「ネテロ会長から呼び出し」
「「えぇ?!」」

ゴンとキルアに別れを告げ、カインは飛行船の中を歩き始めた。

念文字で“後で部屋に来い”なんて、一体何の用だよ…。


ネテロの部屋の前で多少悩んだものの、カインは軽くノックしドアノブに手をかけた。

「失礼します」
「ほっほ。来たか」
ネテロは作業していた手を止め、カインを出迎えた。

「なんのご用ですか?」

ただの世間話だったら、逃げよう。

「ハンター試験、受けてみた感想は如何かな?」
「…うーん、そうですね…。
 今のとこは面白いです。試験云々より、受験者達の考えとか思いとか、とても興味深いと思います」

特にゴン、それからクラピカ…まぁレオリオも。
一般人でありながら、それ以上の何かを感じる。

「ふむ…」
「ご存知の通り、俺は暗殺者です。本質的に一般人とは全く違う。
 彼らは…とても眩しく見えます。羨ましいのかもしれません」

未来をまっすぐに見ている瞳は、ただただ眩しくて…俺とは、違いすぎる。
でも、見ていたい。
まだ、傍にいたい。

「だけど…
 今はまだ、彼らは何も知らない
 …俺は、彼等のようになりたいとは思えない」

まっすぐに見据えた瞳は、ただ純粋で。
ネテロは小さく息を吐いた。


***



『ハンター試験?』

30年ぶりにあったカインは、何も変わらずにそこにいた。
「暗殺が天職だ」と言った30年前と変わらぬ姿で。

『そうじゃ。お主が変わるきっかけになるかもしれん』
『…変わる…?』
『家を出たのは、お主自身が変わりたかったからじゃろう?』
『別に、そういうわけじゃ…』
揺らぐ瞳は逸らされ、それゆえにネテロは確信した。

『ハンター試験を受けてみよ』

カインは、変わろうとしている。と。

『様々な人に会うことで、その人のようになりたいと思う日がくる。
 カイン。ハンター試験を受けるのじゃ』


***


「そうか…。まぁ、お主らしく自由にやるがよい」
「ふふ。はい、楽しませてもらいます」
にっこりと笑うカインに、ネテロは小さくほくそ笑んだ。

「(もう変わりはじめていることに、まだ気づいておらんようじゃの)」

そんなネテロにすら気づかず、カインは立ち上がるとドアノブに手をかけた。
「じゃ、俺はこれで」

「わしもちょっと行ってくるかの」
「どこへです?」
「ゲームをしに、じゃよ」

ゲーム…?

「ふーん…ま、ほどほどに頑張ってください。さすがに歳でしょう?」
「若僧などに、まだまだ負けはせんわい」

だから、その発言がすでに歳なんだって。

カインは笑いを噛み殺しながら部屋を出、ネテロと別れた。


「変わる、か…」
目下に広がる夜景を見て、カインは足を止めた。

確かに、昔の俺だったら考えなかったよなー…。
シルバとは別の道を歩もうなんて。
こんな夜景を見て、綺麗と思うなんて。

「傑作だな。…いや、戯言か?」

すっと無表情になったカインは、また歩きだした。



「なんだ、これ…」

角を曲がったら血溜まり&肉片って…。
支離滅裂の奇天烈で、お兄さんビックリダヨ!

「カイン?」
「キルア?」

振り向くと、血まみれのキルアが佇んでいた。

え。お前、それ、返り血?

「…殺したの?」
「…。ちょっと、むしゃくしゃして…」
「そう」
「…怖がんねーの?」
「んー?俺も人殺しだし?」
何故か疑問形で返すカインに、キルアは大袈裟にため息を吐いた。

「ん?何?」
「いんや。俺シャワー浴びて戻るから、先戻ってろよ」
「うん?」

「(よく分かんねーけど、ちょっと嬉しかったかも…)」
そんなキルアの思いを知らぬカインは、首を傾げながらキルアの背を見送った。


ますますシルバに似てる気がするよ。
ま。いろいろ違うから、見間違うことはないけど。

カインは死体を一瞥すると、その横をすり抜け、受験者の集まる広間へと歩を進めた。

広間ではあちらこちらで寝息が聞こえ、起きている者はもう数人しかいない。
毛布に包まるクラピカ達を見つけ、その横に座り込む。

「…カイン、用事はすんだのか?」
「あ、悪い。起こしたか?」
心配顔のカインに、クラピカはいや、と首を横に振る。
「帰ってこないものだから、心配していた」
「ごめん…」

心配…か。
初めてかもな。
他人にこうやって心配されるの。

「ふふ。ちょっと嬉しい」
「何がだ?」
「クラピカに心配してもらえて」
「…カインは、恥ずかしい事を簡単に言うな…」
赤面して俯くクラピカに、カインも釣られて赤くなる。

俺、そんな恥ずかしい事言ったか…?

「けれど、そんな素直さも時には必要なのかもしれない…」

遠くを見つめるクラピカは、少し儚く見えた。




Dear シルバ
今更に気づいた。
俺は、変わりはじめているのかもしれない。
シルバとは違う道を歩みだした時から。
でも。
それでも、俺達は繋がってる。

そう、信じてる。




―あとがき―
あーなんかシリアスにっ!(汗)
…ま、たまには、ね。(たまにどころしゃないけど)

次は試験官達の会話ですっ!ひゃっほーい!

↓作中使用
戯言シリーズ。




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