長編 
70-予期せぬ接触
今、俺の気持ちをありのままに話す。

早くここから逃げたい。

俺は用意された小汚い椅子に腰掛けたまま、静かに項垂れた。



Euphorbia milii
ー予期せぬ接触ー



「カインの髪って地毛よね?キラキラしてて綺麗だわ」
胸元が際どいスーツを着ている美女に髪の毛を誉められ。

「シャル、こいつ本当に殺し屋か?全然細っこいぞ?」
ゴリラのような大男にじろじろと観察され。

「殺し屋は忍ぶこともあるね。ゴリラとは力の使い方が違うよ」
「はぁ?」
口許を隠した背の低い細目の青年が悪態をつき。

「これで46歳?全然見えないね」
長い髪で全身を隠している子供のような身長の人に首を傾げられ。

「若作りな念能力者なんてざらにいるだろ。
 ていうか…。何でお前ら全員残ってるの?」
シャルナークは全員を見渡してため息混じりに呟いた。
その言葉に、メンバー全員が一度顔を見合わせ、もう一度シャルナークに視線を向ける。


「「「「珍しく、シャルが待ちたい人がいるとか言うから」」」」


お前のせいか。

ギロリと睨みつけた俺に驚いたのか、シャルナークはビクリと肩を揺らした。

「そんな睨まないでよ!こうなるとは思ってなかったんだから…」
項垂れたシャルナークの姿に軽くため息を吐くと、若干諦めにも近い感情がふつふつと湧き上がってくる。

シャルナークは3日後には居なくなると言っていたが、なんとなく危険な気がして、期限ギリギリまで待ち、この場を訪れた。
何人かの気配は感じていたが、期限も迫っていたために警戒しながら建物の中に入った。
そこで彼らと軽く一戦交えたが、シャルナークの怒声によって戦闘が終息するに至った。

さっさと逃げても良かったのだが、この人数比で無事に出られるとは思えず、今は大人しく彼らのもてなしを受けている。
もてなしと言っても、椅子に座らせられ、じろじろと値踏みされているだけなのだが。
こんな状態になってしまったのならば、もう腹を括るしかない。

もう一度部屋全体の人数を確認するために、密かに念を這わせる。
前述したメンバーの他にフランケンシュタインの様な大柄の男が部屋の端に座っていた。
どうやらこれで全員のようで、他に視線も気配もない。

さて。とカインは思案する。

彼らに身元を特定される様なことはしていないはずだが、どこから知られたのだろうか。
後回しにすると厄介か。
はっきりさせておいた方が良い。

「…聞いてもいいか?」
「ん?うん、何?」
あっけらかんとシャルナークは首を傾げた。
忌々しいくらい余裕に微かに眉を潜めると、カインはゆっくりと口を開いた。

「俺は名前も名乗ってなければ、職業はハンターだと言ったはずだが…」
「あぁ、それは、カインの気配の殺し方が異常に上手かったからさ。
 気配の消し方が上手いのって、殺し屋とかだろ?
 俺達だって弱くはないけど、コルトピがいなければ気付けなかったし…」
「コルトピ?」
「あそこの長い髪の奴ね」
指さされた人物を見やれば、片手を上げてこちらを見ている瞳と視線がかち合う。

コルトピと呼ばれた人は、子供の様な身長に、身丈を隠す程の髪の毛でほとんど全てが隠れていた。

あの時、円は張られてないように見えたが、特殊な探知能力だろうか…?

「だから、カインに話しかけた時、警戒してたんだ」

饒舌に語られた言葉には嘘偽りは無さそうではあるが、個人を特定する理由としては少し弱い。
まだ何かあるのではと、無言で見上げた俺にシャルナークはあぁ、と相づちを打った。
「あと、カインのことは、殺し屋のファンに聞いたんだよ」
「ファン…?」

そんなもの、いるのか…?

「30年前の資料なんて、本当に使い物になるのか謎だったけど。
 ゾルディックって、かなり有名だし。
 勿論ファンもいるからね。
 その筋の人間からすると、写真とかレア物なんだって。特に双子なんてのはね」

言葉と共に俺の目の前に出された写真に、呆然としてしまう。
写真には、俺と30年前のシルバが並んで写っていた。
どうやら、本当にゾルディックであることも、俺がシルバと双子であることもバレているらしい。

しかし、それなら…彼らは俺に何を聞きたい?

「私達も聞いていいかしら?
 あなたは誰かに私達を殺すように言われて、ここに来たのかしら?」
俺の髪をさらりと撫でて、際どいスーツの女性が俺に問いかけた。

「残念ながら、予想は外れだよ。
 今は殺し屋ではないから」
毅然と言葉を紡ぐと、際どいスーツの女性はシャルナークを見て首を横に振った。
シャルナークはそれに頷きで返す。

「復業したのかと思ったけど、違うみたいだね」

…確信した?

ちらりと背後に立った女性に目を向ける。
彼女は俺に触れるつもりもないらしく、既に後方に下がっていた。

この女性は人の心理を見抜くということか。
…わざわざ触れてきたということは、触ることで心理を読む能力か?

「殺し屋だったことは認めるよ。けど、今はただのハンターだ」
「うん。まぁ…30年仕事してないと考えるなら、そうなるよね」
安堵した様なシャルナークの言葉に反応したのは、俺ではなく、ゴリラのような大男だった。

「はぁ?!
 シャル、お前こいつが殺し屋だって言ったじゃねーか!俺が相手しようと思ってたのに!」

殺す気満々か。

「“元”殺し屋だって言ったよ、俺は。
 それに本当に俺達を殺しに来るなら、あの後すぐに奇襲をかけてきてるだろ」
「なら、こいつどうするよ」
口許を隠した細目の男が俺を指差す。
ちりちりと殺気が肌に当たり、カインは視線を細めたが、シャルナークは首を傾げるだけだ。

「どうするって、ただ俺が話したかっただけだし。帰すよ?」
「帰す?それ本気で言てるか?」
細目の男は更に殺気を強めた。
その様子を受け、シャルナークは眉間にしわを寄せた。

「フェイタン、カインは俺の客。勝手に手を出さないでよ」
「生かしとく意味無いね。ささと殺るべきよ」
「殺す意味は無いだろ。そんなことで、ゾルディックを敵に回すつもり?」

一触即発の雰囲気に、カインは片眉を上げた。
旅団はもう少し統率の取れた集団だと思っていたが、そういうわけでもないらしい。

「二人とも落ち着け」
今まで黙っていたフランケンシュタインのような風貌の大男が、二人を制止する。続けて。
「ルールを守れ。団員同士のマジギレ禁止。揉め事は…」
「コインで、だよね」

シャルナークがそう答え、どこから取り出したのか、コインを片手で弾いた。

「表」
「裏」

シャルナークの手の甲に落ちたコイン。
表か裏か。
全員が固唾を飲んで見守っている。

「裏だ」
「…好きにするといいね」

軽く舌打ちをし、フェイタンと呼ばれた細目の男は部屋から出ていった。

一方のカインは呆然とした表情を作りながら、心の中で笑みを称えていた。

これは、いい情報を手にいれた。

団員同士のマジギレ禁止。
つまり、団員同士で本気で殺しあうことはしない。
それがルール。

そして、揉め事はコインで。

簡単な図式。
崩れにくいが、確実性に欠ける。

上手くすれば、これはこちらの好奇に繋がる。
見聞きした団員の顔と名前を頭に叩き込みながら、カインは立ち上がった。

途端に肩を掴まれ、カインは眉尻を下げて肩越しに背後を見やる。

まぁ、何となくこうなることは分かってたよ。

「カイン、今日一緒に夕飯でもどう?」
「その殺気は、拒否させるつもりもないだろ…」

シャルナークにがっちりと肩を掴まれたまま、カインは盛大に溜め息を吐いた。










ーあとがきー
まさかの旅団が関わりに現れました。
そして、パクノダの念能力により、何気無く信用を勝ち取ってしまったわけで。

だってカインは、誰かに雇われて殺すために来たわけじゃないからね。










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