長編 
69-推し測るため
「…自分から危険に向かうのは、あまり好きじゃないんだけどな…」

なにより、シルバに怒られるし…。

それでも、行く必要がある。



Euphorbia milii
ー推し測るためー



「ここか…」
人が住むには余りにも質素…いや、普通なら住もうとは思わない廃墟の様な建物を仰ぎ見る。
依頼を受けてここまでやってきたわけだが、建物の中にいる気配を感じ取り、本当に情報通りだと苦笑してしまう。

さて。

「…何か用かな?」

背後に現れた人物に向けてカインは声を上げた。
瞬間、ぶわりと膨らんだ殺気を当てられ、カインは目を細める。

…やっぱり強い。
俺なんかより遥か格上…というわけでもないが。
一戦交えたら、俺が死ぬ可能性の方が高い。
まぁ、俺は彼らを殺すために来たわけじゃないから、気にする必要もないのだが。

カインはゆっくりと後ろを振り返り、その人物の容姿をしっかりと確認する。

淡い栗色の髪に、緑の瞳。
柔らかそうな印象を持つ青年だった。
とは言っても、16歳の自分よりも歳は上だろう。

「…ここは俺達の仮宿なんだ。勝手に入られると困るんだよね」
少し困った表情の男は俺の調査対象である建物を指差した。
それに同調するように建物を視線で追い、俺も同じように困惑した表情を浮かべる。
「…俺はここの調査依頼を受けてるんだ。入れてもらえないと仕事にならない」
まさかあなたのような人が住み着いてるなんて思わなかった、と続ければ、男は途端に殺気を緩めて頭を掻いた。
どうしようかな、とため息混じりに呟き、俺の顔をちらりと見ると首を傾げた。

「ちなみになんだけどさ、調査依頼って建物の?」
「あぁ。ほとんど壊れてるだろうけど、野犬とか浮浪者とか住み着いてないか調べてほしいって。
 その内、取り壊すから…」

この依頼は、事実、俺が請け負ったものだ。 
メインは違う依頼だが、ついでにと請け負ったことになっている。
後々に誰かに調べられたとしても不自然ではないようにするため、回りくどいがそういう手法を取った。

「うーん…その調査って、期限は?」
「1週間後に結果を知らせることになってる」
本当の期限は2週間後だが、そう言っておいた方が良いだろう。
俺の言葉に男はにやりと笑みを浮かべた。
「なら、1週間待ってくれない?
 この中には浮浪者はいないし、野犬もいない。1週間以内に俺達は出ていくからさ」

「…」
じとりと男を見つめ、カインは無言を貫く。

「…信じてないね?」
「一応、俺はプロハンターでね。何か悪さしてるなら、見過ごすわけにはいかない」
体に纏っていたオーラをふわりと膨らませる。

勿論、カインは正義心からそう言っている訳ではない。
この男…幻影旅団の実力を図るために、敢えて挑発しているのだ。

どの程度の強者かを見極めるためには相手の殺気だけでは分からない。
殺気を向けられた時の構え方や、会話の中に見える心やオーラの揺らぎ、それらを総合すれば、どの程度の人間なのか、多少なりとも見えてくる。
勿論、強者になればなる程にそれを隠すのが上手くなるが、それならば、自分は既に殺されているだろう。

「弁明があるなら聞くけど?」

そう言って緩やかに構えた。

基本的にカインは、危ない橋は渡らない。
暗殺者として生きてきたからこそ、闇に潜んで当たり前であると思っているし、誰かと対峙する時は必ず自分が逃げきれる距離を保っている。
そんなカインが今回は表立って動いた。
幻影旅団を憎むクラピカ、そして必ずそこに関わってくるであろうキルアやゴンを守るためには、ここで確認する必要があると判断したからだ。


これが最良であるとは決して思わないが、最善に向かう一歩であると信じている。


数分の沈黙の後、何かを決めたように視線を強めた男は、ぽつりと口を開いた。

「…実は、俺もプロハンターなんだ。
 事情があってここを使ってる。勝手に使ってたのは悪いけど、同じハンター同士、見逃してくれない?
 あ、俺の名前はシャルナーク。
 ハンター協会に掛け合ってくれれば本物だって分かるよ」
シャルナークと名乗った男はハンターライセンスを片手に掲げた。

ライセンスはおそらく本物であろうとカインは目を細め、その裏、シャルナークが背中に回した左手に持っている物が念を纏わせた物であることを感知した。
完全にオーラを隠さなかったところから見て、争う気は無いが、詮索するなら致し方ないというところか。

カインは小さく息を吐くと、ひらりと手を振った。

「……分かった。良いよ、疑って悪かった。
 最初に殺気を向けてきたから、危険人物かと思ったんだ」
そう言って肩をすくめれば、あ、そっか。とシャルナークは苦笑して相づちを打った。
「ごめん。こんなところに念能力者が来ることなんて無かったから、ついね…」

頭を掻くシャルナークに対して俺は適当に相づちを打ち、彼から殺気が完全に消えていることを感じ取っていた。
背に隠していた手が見えたが、既に何も持っていないようだ。

「君達は1週間以内には出てってくれるんだよな?」
「うん、勿論。後3日ってところかな」
「なら、調査は3日後にしよう。俺は争い事は好きじゃないから」

殺しなら、いざ知らず。

それに、実力は測れた。
目の前にいる彼以外に、この場に出てくる者はいない。
建物の中には数名いるが、俺に奇襲をかけるわけでもなく、仲間一人に全てを任せている。

彼らはお互いの実力を信頼している。
つまり、全員がこのレベル、もしくはそれ以上だ。


「じゃ」
軽く手を振って、シャルナークの横を通り過ぎる。

早めにここを出よう。
彼が俺の思惑に気づく前に。

「…あ、ちょっと待って!」

幾分か大きな声で投げられた言葉に、思わず後ろを振り返る。

「君の名前は?
 今回のお礼も兼ねて、食事でも奢るよ!」

向けられた晴れやかな笑顔に、カインは目を見開いて固まってしまう。
この優しそうな人物がA級首の幻影旅団とは中々に皮肉なものだ。

「…悪いけど、遠慮しておく。馴れ合うことはあまりしたくないから」
「えぇー」

必要以上に近づくことはしない。
勘づかれる訳にはいかない。

「じゃ、失礼」

そう言い残し、俺は飛び上がってその場を後にした。



***



俺が決めた第一の目的。

クラピカに殺しはさせない。
奪う側には立たせない。

第二の目的。

クラピカの代わりに、俺が幻影旅団を潰す。

例えクラピカに蔑まれても、俺は後悔しないためにこの道を選ぶ。


ホテルのベランダで生温い風を受けながら、カインは夜景を眺めていた。

今日出会った彼が悪い人間だと思えないのは、自分があちら側の人間だからだろうか。
それとも、俺が彼の隠している狂気に気づけないでいるのだろうか。

唐突に強い風が吹きつけ、銀色の髪を揺らす。
手で髪を抑え、俺は深くため息を吐いた。

今日、見ておいて良かった。
あの実力なら、手が届かない訳じゃない。

けれど、俺はもっと力をつけないといけない。
彼らを仕留めるためには、もっと…。










ーあとがきー
おい。
主人公。
何で旅団と戦う気満々なんだよ。
読者は仲良くなることを望んでいるぞ。











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