長編 
68-交わらぬ決意
10月1日、ヨークシンに幻影旅団が現れる。
その情報をヒソカから聞いたというクラピカ。

その話を聞いた時から、ある種の矛盾がぐるぐると俺の中を廻っていた。

ヒソカは無意味な情報提供はしないはずだ。
慈善事業として情報を漏らすなんてことも、まずありえないだろう。
奴が根っからの戦闘狂である以上、情報を口にするのは裏がある。

ならば、クラピカに旅団の情報を流した理由。
それは1つしか考えられない。

利用するため。

旅団に近づくため…いや、その内の誰かに近づくため。
前者なら、誰の手を借りる必要もない。
調べあげて接触すれば良いだけだ。
しかし、その中の個人を標的にした場合、話は大きく変わる。
特に、それが常に周りを警戒している様な人物なら、1体1の接触はかなり難しい。

俺が考えるヒソカの本当の目的は、幻影旅団の中にいる誰かとの生死をかけた決闘。

その誰かとは、おそらく旅団トップの人物。

…だが、その計画は穴だらけのように思える。
あの時点で念を覚えていないクラピカに、それほどの価値があるとは到底考えられない。


でも。

ゴン達の前に、わざわざ現れたヒソカの姿を見た時、俺は確信を持ってしまった。
予想の域を越えないその想像に。

…もしも。
ヒソカがクラピカの成長を望むなら、ゴンとキルアの前に立ちはだかったように、クラピカを旅団から引き離したはずだ。
それをしないということは、クラピカは捨て駒、隠れ蓑にする。
そういうことなのだろう。


「さて、行くか」

鞄を持ち、刀を背に。
ゴンとキルアには悪いが、何も言わずに出ていくことになる。



目指す先は1つ。



よく知る友の下に。



Euphorbia milii
ー交わらぬ決意ー



そう離れていた訳では無いのに、山深い木々の合間に見えた金の髪に、懐かしさすら覚える。
以前よりも少し伸びた髪の毛は泥で汚れているものの、横顔からも伺える端正な顔立ちは相変わらずだ。
彼にも分かるように気配を殺さずにゆっくりと近づく。

俺の気配に気がつくと、彼はすぐに振り返った。

「久しぶり。クラピカ」
目が合うと同時にそう笑いかければ、クラピカは元々大きいその目を更に見開いた。
「カイン?!…何故ここに?…ゴン達と一緒では無かったのか?」
疑心の含みは一切無く、純粋な疑問を投げかけてくるクラピカに、カインも素直に頷いた。
「うん、一緒だったんだけど、ゴン達の修行が一時中断してね。
 その間に、クラピカに会っておこうと思って、ここまで来たんだ」
「…そうか…。だが、この場所はどうやって…?」
その言葉に、あぁ、と1つ相づちを打つ。

「ネテロ会長に聞いたんだ。
 ハンターの仕事をするにしても、それなりの実力が必要だから。
 そうなると、強くなるために誰かの指導を受けてるんじゃないかと思って。
 ダメ元で聞いてみたら、大当たりだった」
クラピカは考え込むように顎に手を当てたが、すぐに納得した様に苦笑した。
「…ということは、やはりカインも念を知っていたのか」
キルアにも同じ様なことを言われたばかりで、少し後ろめたく思いつつも、ごめん、と一言添える。
「…その力は人を簡単に殺せる力だ。
 指導するつもりもない人間が、簡単に教えるわけにはいかなかったんだ」

念は、人を殺す力を無意識にでも使ってしまう可能性を示している。
中途半端な知識は己を殺すこともある。
だからこそ、教えるのであれば、指導する人間の方がいい。

「…カインを責めている訳では無いさ。
 ただ、自分の未熟さを思い知っているだけだ」
そう苦しげに漏らすクラピカの姿に、カインは眉尻を下げた。

何の気なしに凝をしてクラピカを見れば、淀みなく流れるオーラがクラピカを包んでいた。

「クラピカは強くなるよ。その纏を見れば分かる。
 念を覚えたばかりなのに、それだけ安定した纏を纏えるのは才能だと思う」
「…カインは、相変わらず優しいな」
「そうか?」

クラピカは俺を過大評価している気がするんだけど…。

おっと、誰か来るな。
クラピカの師匠かな?

「クラピカ!こんなところに…って、誰だ?」
黒髪の胴着を着た人物の登場に、カインはキョトンと目を見開いた。

あれ?思ったより野生的な人だ…。
クラピカの師匠になる人って、何かもう少し知的そうな人物かと思ってたけど…。

「…えーと、クラピカのお師匠さんですか?」
「…あぁ。お前は?」
「クラピカの友人のカインです」

カインの言葉にクラピカの師匠は少し唖然としたようだったが、何故かホッとしたような笑みを浮かべた。

「そうかそうか。クラピカのね…」
「そのニヤニヤ顔を辞めろ」
睨み付けるクラピカに、師匠は睨むなよ、と苦笑いを浮かべていた。

師匠というわりには、クラピカの尻に敷かれている感が否めない。
こういう師弟関係も面白いものだとカインは微笑んだ。

その後、立ち話もなんだと、二人の居住地に案内され、お茶を出された。
彼らの居住場所は、クラピカの人柄を考えれば少し雑然過ぎる気がするが、先程の師匠のイメージだとそれなりに整頓されている気もする。

そんな事を考えながらお茶をすする俺の前に、クラピカは腰掛けた。

「それで、カイン。私に何の用が?
 9月にはヨークシンで会う予定だろう?」
クラピカの疑問は最もで。
少し前に別れたばかりの友人にわざわざ会いにくるなど、それなりの理由があると、そう考えるのは当たり前だった。

「クラピカはどうするのかと思って」
「…どう、とは?」
「ヒソカの誘い、受けるのか?」
俺の言葉にクラピカは少し目を見開いた。
ややあって、クラピカは決意したような緋色の瞳を俺に向けた。

「私は、奴が持つ情報に興味がある。
 そう言ったはずだが」
「…ヒソカはクラピカのことを捨てゴマにするぞ?
 これは俺の憶測でしか無いが…。
 ヒソカは旅団に近い位置にいる。もしかしたら旅団のメンバーかもしれない。
 そんなヒソカがクラピカに情報を流すということは…」
「私を隠れ蓑にして旅団の誰かと戦いたいと、そういうことだろう?」
続けられたクラピカの言葉にカインは目を見開いた。

「…気づいていたのか?」
1つ頷き、クラピカは続ける。
「カインと同じように、これは私の憶測でしかない。
 ヒソカに会った時にでも、真実を聞こうと思っていた」
それを聞いて、クラピカはどうするんだろうか。
俺の疑問を読み取ったのか、クラピカは瞼を下ろして言葉を続けた。

「憶測が真実なら、私は奴と手を組むつもりだ」

その言葉に、俺は目を見開いた。

「…贄にされて、良いのか?」
念を覚えたての人間が、そうそう簡単に倒せる相手ではない。
分かっていて躍り出るというなら、そんなもの、ただの生け贄だ。

「贄?カインは何か勘違いしているな。
 私の憶測が真実なら、利害が一致しているだろう?
 私は旅団を倒したい。
 ヒソカはその中の1人と戦いたい。違うか?」

クラピカの言葉に、俺は思わず笑ってしまった。

面白かった訳じゃない。
ただ、変えられないものがあるのだと、そう噛み締めてしまったから。

「…クラピカ、旅団を倒したら、クラピカはどうする?」
「仲間の目を全て集めて埋葬し、その後は一族を復興させるつもりだ」

復興?なら、尚更…。

「旅団を倒すことは、どうしても必要なのか?」
クラピカの命を危険に晒してまで。

「…そうしなければ、私は前に進むことが出来ない…」



…それが、クラピカの結論か…。



それなら、仕方ない。

カインはおもむろに立ち上がった。


「…分かった。クラピカがそう在りたいならば、咎めるつもりは無い。
 ただ、一つだけ。

 …クラピカ、死に急ぐなよ」


カインが眉尻を落として目を細めれば、対照的にクラピカは目を見開いた。
しかし、それもすぐに柔らかい表情に変わり、「勿論だ」と大きく頷いてくれた。





***




クラピカ達に別れを告げ、森を抜けたところで、カインは立ち止まった。
ゆっくりと振り返り、クラピカ達のいるであろう場所を見つめる。


「…必ず、守るから」







ーあとがきー
復讐から逃れられないクラピカ。
何かを決めたカイン。

少し思ったけど、クラピカ達って完全に野宿だったような…。








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