長編 
8-ニギリズシ
二次試験後半戦。

「私の課題は、スシよ!」
そう言うと、メンチは受験者を建物内に案内した。


Euphorbia milii
―ニギリズシ―


「スシはスシでも、握りズシしか認めないからね」

スシ?握りズシ?
うーん、初めて聞く料理だな。

ゴンとキルアの横の調理場に立ち、カインは首を捻る。

「俺、料理なんてしたことないよ」
「俺だって。カインは?」

したことはある、けど…

「するなって言われてる」

「「…(料理下手なんだ…)」」

なんだか、二人の視線がすごく痛いよっ!
俺なんかしたかっ?!


「魚ぁ?!ここは森の中だぜ?!」
「声がデカイッ!!」
レオリオとクラピカの声が会場に響いて、受験者全員が一斉に魚を求めて走り出した。

びっくりした…。
てか、魚…?

カインはそそくさとクラピカに近づき、肩を叩いた。
「…クラピカ。魚って、どんな種類?」
「そこまでは私も…」
「そっか…。ま、やるだけやるしかないよな。魚って大ヒントもらえたし」
ニッと笑うカインを見て、クラピカも微笑む。

ホント、女性にしか見えないぜ。
…言ったら、殴られそうだな。

「川を探さなきゃな」
「あぁ」
「って、おいっ!俺も連れてけ!」

…レオリオ、いたのか。

「カイン、今すげー失礼なこと考えただろ」
「レオリオ、影薄いし」
「…」

あ、凹んだ。




魚、魚…。
とりあえずは…食べられそうなのを捕らないとな。

川を見つけ、魚を捕るために各個人で魚を狙う。

…二人の位置からなら、俺の行動は見えない、な。
だったら。

カインは一匹の魚に目をつけ、目にも止まらぬ速さで魚を掴んだ。
そのまま魚を地面に投げると、その魚はカチカチに凍っていた。



カインの念能力の一つ。
《冬の訪れ(ブリザード)》だ。
オーラを冷気に変える事で、掴んだものを全て凍らすことができる。
他にも氷の粒を作ったり、雪を降らせる事も出来るのだが、この能力を知るものは数少ない。

暗殺において、この力はほぼ使わないからだ。
そして、それ以外にも理由がある。

カインは雪をイメージしてこの能力を作った。
オーラを冷気に変える事で、空気中の水分を凍らせ、氷や雪を作る。
ただし、瞬時にそれらを作り出すためにはそれなりの制約が必要だった。

冷気に直接当たる自分の身を守るのは最低限にし、瞬時に多大なオーラを消費する。
自身の身を危うくする事で、通常以上の力を発揮できるのだ。

それにより、相手がどんな堅固なオーラでガードしようとも、防がれる確率は0%に近づく。
少しでも冷気に触れれば、相手の体は凍傷に陥り、下手をすれば死に至る。

カインの前で凍っている魚のように。

この能力はカインにとって、ある種の切り札。
そう簡単に他人に能力を見せることはない。

しかし。

「…たまに使わないと威力が鈍るんだよな」

「カイン、魚は捕まえたか?」
「うん、見ての通り」
レオリオから問われ、頷いたものの…魚は凍ったまま足元に転がっている状態。

「凍ってんぞ…?」
「不思議な事も起こるものだよね」

そう言って笑えば、レオリオは自然に起こったことだと思ったようで、それ以上は聞いて来なかった。

別に俺は騙してないよな?
うん、騙してない。



さて。どう調理するべきかな?


調理場に戻ったカインが悶々と悩みつづけていると、その後ろをレオリオが何かを持ってメンチの前へと歩みよった。

「レオリオスペシャルだ!!」
「こんなの食えるかぁっ!!」

…あれ、食い物じゃないだろ。
魚ピクピクいってたし。
あれはない。

じゃぁ、俺は魚をさばいて…
細かく叩いて…
あ、調味料イロイロあるな…

よし、これ入れよ。

んで、んー?ニギリズシ…。
ニギリ…握る?

「お、カイン、完成か?」
「うん」

見た目は小さな握り飯の上に、具を乗せたもの。

「お願いします」
「…ようやく食べられるわね(見た目は、良いわね。上の魚は細かく叩いて調味料と和えたのかしら?なかなか美味しそうじゃない)」

もぐもぐ

………

「うぐ…っ!」
顔を青ざめさせたメンチはお茶を一気に飲みきり、そのコップをブハラに突き出し、お茶を要求した。

「あんた…、一体何を入れたの?!!」
二杯目を飲みきった瞬間、怒声を響かせたメンチに、カインは困ったように笑う。
「いろいろ、ですかね?」
「形は良いのに、なんでこんな…」

俺…やっぱり、料理の才能無いのかな?

「やり直し!もっと美味しい物を作りなさい!」
「はーい…」

次は何を入れよっかなぁ…。

何かを入れることによって、劇的にまずくなっていくことに気づかないカインであった。

「…メンチ、そんなにまずかったの?」
再びお茶を要求するメンチに、ブハラが眉尻を落として尋ねた。
「まずいなんてもんじゃないわ!私が今まで食べた中でも、1、2位を競うほどの代物よ…。う…まだ口に残ってる…」
メンチはまたお茶を啜る。
「見た目は美味しそうなのにね」
「それのせいで、破壊力は何十倍に膨れ上がってるわ…。あんた、大丈夫だったの?」
メンチに尋ねられ、ブハラは数十分前を思い出す。
「うん、普通だったよ。…まぁ、豚の丸焼きって焼くだけだからね」
「調味料を置いたのが間違いだったか…」
後悔先に立たず。
久々にそう痛感するメンチだった。






Dear シルバ
シルバに料理は二度と作るなって言われてたのに、作りました。
ごめんなさい。
そして、試験官にまずいって断言されました。

この試験、受かる気がしないよ、俺…。






―あとがき―
カインの料理の腕は最悪です。
見た目は美味しそうなのが、なおさら破壊力アップ。

はい、受かる気がしません(笑)







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あきゅろす。
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