長編 
66-洗礼
「纏を覚えたくらいでいい気になるなよ。
 念は奥が深い。
 今の君と戦う気はないが、この階で1勝でも出来たら、相手になろう」

ヒソカはゴンにそう告げて去っていった。


Euphorbia milii
ー洗礼ー


一息ついたのもそこそこに、不気味な三人組が物陰から現れた。
一人は足がなく、一人は腕がなく、一人は車椅子。
この階で洗礼を受けたのだろう。

俺達はその三人組を無視をして受付に向かう。
ゴンが用紙に記入していると、そいつらは俺達の後ろに並んだ。

陰険だな…。

「何か用かな?」
「…いいや…俺達も申し込みしたいから、 並んでるだけだよ」
俺が問えば、三人組の腕の無い奴がニヤニヤとしながら質問に答えた。

つまりこいつらは、新人潰しか。

ウイングさんに、念を覚える間は試合に出ることを禁止されている。
まぁ、それはゴンとキルアだけなんだけれど。
俺は好きにして良いと言わているが、1つ約束をした。

けして、相手を殺してはいけない。

とりあえず、それだけは守らないと…。


「…俺達は…」
「俺、いつでもオーケーです!」
俺の言葉に被るように大きな声で、ゴンが受付の人に受付用紙を渡した。

「ゴン?!」
俺の言葉を無視して、ゴンとキルアは三人組を睨み付けた。
三人組はくすくすと嫌な笑みを浮かべて、舐めるように二人を見てくる。
「…だってさ」
「フフ…元気のいいボウヤだな」
苛々と三人組に殺気を向けて牽制しつつ、ゴンを見下ろす。
「ゴン、約束を忘れたのか?」
「ごめん。でも、やってみたいんだ。この力で何が出来るのか」
「っ…」

この階で戦うなんてまだ早すぎるだろうが!!!

思わず叫びそうになったのを押さえて、自分の記入用紙にガリガリと必要事項を記入していく。
ゴンの性格上、一回言い出したら絶対曲げないだろう。

用紙を受付に渡して、大きく息を吐く。

約束してるが、仕方ない。
もしも、何かあったら…。


俺がこいつらを殺す。
たとえ、二人から恨まれることになっても。


「二人とも部屋に行こう」
キルアの記入が終わったのを確認して、二人の背を押す。

「あれ?君は戦わないの?」
「その内な」

腕の無い男の言葉をあっさりと振り切り、二人をぐいぐいと押してその場を離れた。


***


翌日。

ゴンvsギド

モニターに写し出された表示に、ため息が出る。

ウイングさん、ごめんなさい。

心の中で謝罪を1ついれ、ゴンに向き直る。

「ゴン、無茶はするなよ」
「大丈夫だってば。結構心配性だよね、カインって」
「ゴンが無茶なことをしてるからだろ?」

危険なことに首を突っ込んでるの、分かってるのかな…。この子は。

「…行ってらっしゃい」
「うん、頑張ってくる」
「頑張んなくて良いから、さっさと帰ってこい」
「あはは、はーい」

会場に入っていくゴンの背を見送り、キルアと共に観戦席にまわる。

「そんなに心配しなくても大丈夫だって。ゴンだって引き際くらい分かるだろ?」
そう笑うキルアに、盛大にため息を吐いた。
あの場にいるのがキルアなら、そう考えられたけど…。

「ゴンは夢中になると見境無くなるだろ…。それが心配なんだよ」

これまでにも多々見受けられた事だが、ゴンは危うい。
ヒソカからプレートを奪った四次試験、ハンゾーから拷問を受けた最終試験。
どちらも死んでいてもおかしくない状態だった。

ヒソカもハンゾーも、ゴンを気に入って手を引いたが、全員がそういう訳じゃない。

それに…。

『さぁ、始まりました!!』

会場に響き渡ったアナウンスに、会場の熱気が一気に膨れ上がる。

リングの中を縦横無尽に動きまわる独楽。
それにぶつかったゴンは、リングの外に弾き出された。
致命傷は避けているが、纏がなかったら重傷は免れないことが目に見えて分かる。

「カイン、あの独楽も念なのか?」
「独楽に念を込めているんだろう。
 ゴンのダメージ具合から推測すると、あの独楽は鉄球のような重さを持っている。
 纏の状態でこれだ。
 念を覚えずに戦ってたら、死んでたかもしれない」
俺の解説に、キルアは息を飲んでゴンを見つめた。

リングに戻ったゴンはどうにか独楽を避けようとするも、どうにも纏が揺らぐ。

「纏が安定してない…」
「俺もゴンも、意識しないとまだ上手く保てないから…」
そんな状態で戦うなんて…。
あぁ、見てられない。

冷や汗が頬を伝うのを感じながら、両の手をぎゅっと握る。


「…え?」
ゴンの回りのオーラがふっと消えた。

これは、絶。
オーラを出さない、防御ゼロの状態。

「な、バカ野郎!!眼鏡兄さんに言われただろう?!」

キルアが吠える。
心配と焦りから。

俺は何も言えずに、ただ呆然と、ゴンの行動を見つめていた。


やっぱり、そうだ。

ゴンは自分の命を軽く見ている。
どんなことをしても死にたくないという思いは、ゴンには無い。


ゴンは、いつか戦いの中で死ぬ。


そんな予感めいたものが、頭を通りすぎた。









ーあとがきー
命を大切にしようという思いは、ゾルディックより低い。
それがゴンだと思います。
人殺しは駄目だと思っても、自分が被害者になることはいとわない。

そんな危うい存在。








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