長編
65-念
“念”とは。
体から溢れ出すオーラと呼ばれる生命エネルギーを自在に操る能力の総称である。
Euphorbia milii
ー念ー
生命エネルギーは誰もが微量ながら放出している。けれど、その殆どは垂れ流しの状態になっている。
生命エネルギーを肉体に留める技術が『纏』。
字の如くオーラを絶つ技術が『絶』。
通常以上のオーラを生み出す技術が『練』。
そこまで説明して、ウイングは念の恐ろしさを二人に実演して見せた。
手をかざしただけで砕けた壁のように、念を知らない無防備な人間が念に攻撃されれば、肉体すら、粉々に砕け散るということを。
「…カインは知ってたのか?」
キルアの怒ったような声に、肩を竦める。
「…知ってたよ。
俺がヒソカの念に対抗出来たのは念のおかげ。
200階にヒソカがいると分かったのも念のおかげ。
…俺は念を使える」
「じゃぁ、何で?!
…何で俺達に教えてくれなかったんだ…!!
俺達が念を知りたがってるのは知ってただろう?!」
拳を握りしめて下を向くキルアに、息を1つ吐く。
「俺は、お前達に念は教えない」
俺の言葉にキルアは答えず、重い沈黙が流れる。
俺達のやり取りを見ていたゴンが、見かねて口を開いた。
「…教えないって。どうして?」
「俺が殺し屋だったから」
ウイング以外の全員が息を飲み、目を見開いた。
キルアはまだ下を向いたまま。
「イルミ……キルアの兄に言われたことがある。
『カインがキルに念を教えるなら、それでもいい』とね。
あいつは俺が殺し屋だったと知っている。
だから、俺が殺し屋として念を教えられた通りに、キルアにも念を教えるなら、それで良いと思ったんだろう」
実際の言葉は少し違うけれど、まぁ、意味合いはそんなものだ。
「俺は2人に念を教えない。君達は殺し屋ではないから」
ごめん、キルア。
「…何だよ、それ。俺がバカみてーじゃん」
顔を上げたキルアはばつの悪そうな顔をして俺から目を逸らしたが、すぐに俺の顔を見上げ「怒鳴ってゴメン」と小さく呟いた。
俺も、黙っていてごめんとキルアとゴンに軽く頭を下げた。
「…というわけで。君達の師匠をウイングさんにお願いしていたんだ」
そう言って、ウイングさんに視線を移す。
彼らには時間もないし、早いところ本題に入ろう。
ウイングさんが改めて二人に向き直ると、途端に緊張感が場を包んだ。
「念を起こす方法は二つあります。
ゆっくり起こすか、無理やり起こすか。
ちなみに、ズシはゆっくり起こしました。
彼は飲み込みが早く、努力を惜しまなかったので、凄いスピードで纏をマスターしました。
約半年です」
「それじゃ間に合わない!俺達は0時までに200階に行きたいんだ!」
キルアの怒声に、ウイングは眼鏡のブリッチを押し上げた。
「ならば、無理やり起こすしかない」
「それなら間に合うんだな?」
「君達次第ですよ。時間内にオーラを体に留めるコツを会得できるかどうか。
全てはそこに掛かっているわけですから」
無理やり起こすということは、身体中にあるオーラを廻らせる精孔と呼ばれる穴を無理やり開かせるということ。
コントロールできなければ、全身疲労で数日は動けなくなる。
ウイングは2人に背を向けるように言い付け、眉を潜めて2人を見下ろしていた。
仕方ないとはいえ、こんな荒い方法で念を習得させるなど、本当に残念だとウイングは語る。
カインはその言葉に目を伏せた。
俺が2人に念を教えていれば、それは変わっただろうか?
答えの出せない問が一瞬頭を過ぎる。
ウイングの手からドンと悪意の無い念が放たれた。
その衝撃に、はっと目を開く。
目前のゴンとキルアの体から立ち上るオーラは尋常ではない。
ここからが勝負時だ。
ウイングとカインの額に汗が滲む。
…しかし。
こちらの心配とは裏腹に、 たった一度の助言だけで、2人はオーラをいとも簡単に纏ってしまった。
ウイングもカインも、これには唖然としてしまう。
才能は時に運命をも凌駕する。
運命は時に才能を花開かせる。
カインは、自分が念を覚えた頃に、父親に言われた言葉を思い出していた。
あの言葉はこの子達に当てはまるんだろう。
運命は2人を強くさせ、才能は花開き、運命をも凌駕する。
「2人ともその状態を保ちなさい。
私の攻撃を受けて立っていられるなら、ヒソカの念も弾くことができるでしょう」
ウイングの殺気に、2人は憮然と構えをとった。
Dear シルバ
キルアが、遂に念に到達したよ。
俺達が念を覚えたのもかなり早かったけれど、キルアとゴンも恵まれた才能の持ち主みたいだ。
この子達は強くなる。
そんな予感。
ーあとがきー
急成長を遂げていく2人に、いつかの自分達を重ねる。
運命を凌駕できなかった自分自身のことを、不甲斐ないとそんなことを思いながら。
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