長編 
64-立ちはだかる者
「ついに、200階だね」
ゴンの嬉々とした言葉に、カインの胸中が危機に貧していた。


Euphorbia milii
ー立ちはだかる者ー


3人を乗せたエレベーターが上昇する中、カインはそわそわと携帯をいじっていた。
「カイン、また弟にメールか?仲良いなぁ、ホントに」
キルアの軽口すら流して、速攻でメールを送信する。

扉が開けば、確実にあいつがいる。

エレベーターに乗り込んですぐに円を張って正解だった。
俺達を攻撃をしてくる奴がいないかを見たかっただけなのだが…。
まさか200階のフロアで、あのピエロが待ち構えているとは思わなかった。

ゴンとキルアを追ってきたのか、それともただの偶然か?

いや、そんなことよりも、だ。

この場をどう凌ぐか、それが問題だ。

チンと、軽い音を立てエレベーターは口を開けた。
エレベーターを出たところで、2人も気配に気づいたのか、足を止める。

奥から流れてくる不自然な威圧感に圧倒されているキルアとゴンは、冷や汗を浮かべ、進むべきか迷っているようだった。

進んではいけない。
カインがそう口にしようとしたところで、キルアは一歩踏み出した。

「…行くぜ、行ってやる」
「キルア、駄目だ」
「うるせぇ!」
カインの制止の声を振り切って、キルアが歩を進めようとすると、通路の奥からぶわりと、念が飛んできた。
2人にそれを関知する力も、防ぐ方法も今は無い。
刺すような殺気を浴び続けている2人は、立ち止まるものの引き下がろうとはしなかった。
カインは2人の肩に手を置いた。
「2人とも、それ以上は危険だ」
このままだと、この念に潰されてしまう。

「これは殺気だよ!完全に俺たちに向けられてる!」
ゴンの言葉に、キルアも続ける。
「おい、一体誰だ?!そこにいる奴、出てこいよ!!」

その言葉に姿を現したのは、1人の女性。

「ゴン様、キルア様、カイン様ですね。
 あちらに受付がございますので、今日中に200階クラス参戦の登録を行ってください。
 今夜0時を過ぎますと、登録不可能になりますので、ご注意下さい」

受付の人。一応念使いか。
にしても。

ヒソカ、さっさと出てこいよ。

殺気をちりりと飛ばしてやれば、ようやくヒソカは姿を表した。

「やぁ★」
「「ヒソカ?!」」
試験の時とは少し出で立ちは違うが、あの独特なピエロメイクは変わらない。

「何でここに?!」
「別に不思議じゃないだろ?
 僕は戦闘が好きで、ここは格闘のメッカだ。
 …君達こそ、何でこんなとこに居るんだい?」

少し楽しげに、ヒソカは言葉を紡いだ。
俺達が答えないのを見て、ヒソカは続ける。

「ここの先輩として、君達に忠告しよう。
 このフロアに足を踏み入れるのは…まだ早い」
今度は直接的に念を飛ばし、2人にプレッシャーをかける。
プレッシャーに耐えきれず、2人は強風に煽られたかのように後ろに弾かれた。
辛うじて立っているが、実力差はあからさまだ。

ヒソカは通路の一番奥の壁に背をつけて座り込んだ。

「出直したまえ。とにかく、今は早い」
「ざけんな!!せっかくここまで来たのに…」
キルアの強がりに、またヒソカは念を飛ばす。

それを感知したカインは、咄嗟に2人の前に躍り出た。

「2人とも、一旦下がれ。そのままだと死ぬぞ」

2人に飛んできた念を弾き、ヒソカから視線を外さぬようにして、後ろに下がるように手を振った。

「カイン君の言う通りです。
 今の君達は極寒の地で全裸で凍えながら、何故辛いのか、分からないでいるようなもの」

ようやく来てくれた。
ウイングの登場に、カインはホッと息を吐きつつ、ヒソカへ警戒を続ける。

「彼の念に対し、君達はあまりに無防備だ。
 …本当の念について教えます。ひとまずここから退散しましょう」

その言葉に、2人は少し不満げな表情を見せたものの、素直にウイングに従った。
そんな2人の後を着いていこうとして、おろおろとことの成り行きを見ていた受付さんに目がいく。

そういえば、受付登録って今日中じゃなかったか?

ねぇ、と受付さんに声をかける。

「今日中に登録できなかったら、どうなるの?」
「カイン様、ゴン様は、また1階からの挑戦になります。
 …ただ、キルア様は以前も登録を断っていらっしゃいますから…。
 また未登録という形になりますと、登録の意思なしと見なされ、参加自体不可能となってしまいます」

受付さんの言葉に、カインは時計を見上げた。
時計は8時20分を指している。

「…0時か…」
あと3時間40分…。
「それまでに戻ってこれるか?」
俺の呟きに続けて、キルアがウイングに問う。

「…君達次第だ」



***



エレベーターの扉が閉まり、カインは大袈裟に息を吐いた。
「ウイングさん、来てくれて助かりました」
「あなたからメールが来た時は驚きましたよ」
アドレスは教えていない筈なんですけどね、とウイングさんにじとりと見られ、カインは視線を反らす。

「え?カインがウイングさん呼んだの?」
ゴンの質問に1つ頷く。
「…そうだよ。『ヒソカに待ち伏せされてる。助けてほしい』って、メールしたんだ」

ウイングさんは、1つため息を吐いた。

「まさか、あのヒソカと知り合いとは思いませんでした」
「ははは。俺はヒソカが200階にいるとは思いませんでした」

カインの乾いた笑いが、エレベーターの中に小さく響いた。

「それで……ウイングさん。決心はつきましたか?」

2人の師匠になることは。

「…はい。請け負わせてもらいます」
「それは良かった」
ふふ、とカインは微笑む。

「…カイン君はどうですか?」
ウイングの言葉にカインはピタリと止まる。

『あなたも一緒に、1から念を学びましょう』

少し前のウイングの言葉を思い出し、カインは視線を少しの間さ迷わせた後、居心地が悪そうに頬をポリポリと掻いた。
「…まぁ、経験として学ばせてもらいます」
「それは良かった」
今度はウイングが微笑んだ。

そんな2人の会話に、事情の掴めないゴンとキルアは目を瞬かせたのだった。








ーあとがきー
ヒソカ登場。
思いの外にウイングさんとカインの相性が良すぎる。









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あきゅろす。
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