長編 
62-50階
試合に勝利し、50階を言い渡されたカインはゴンとキルアを廊下で待っていた。
しばらくすると、2人も無事に勝利を収めたようで、怪我1つなく戻ってくるのが見えた。
乗り込んだエレベータに、2人と同じくらいの子供が一緒に乗って来たことに首を傾げる。

そんな1日の出来事。


Euphorbia milii
ー50階ー


「君も挑戦者?」
「押忍!」
声をかければ、胸の前で十字を切る独特の礼と共に元気な挨拶が返ってきて、少し驚いてしまう。

「自分はズシといいます!御三方は?」
「カインだよ」
「俺はキルア」
「俺はゴン!よろしく」
ズシ、と名乗った胴着の少年は目をキラキラさせながらこちらを見ていた。

「さっきの皆さんの試合、拝見しました!いやーすごいっすね!」

見てたのか。
なんか恥ずかしいな…。
俺は殴りかかってきた相手に、カウンター喰らわせただけだし。

「何言ってんだよ。お前だって一気にこの階まで来たんだろ?」
「そうそう、一緒じゃん」
「いやいや、自分なんかまだまだっす」
キルアとゴンの言葉にも、ズシは謙遜の色を全く崩さなかった。

ズシは、念の習得途中かな?

どことなく纏が揺らいでるのを感じて、カインは微笑む。

「ところで御三方の流派は何すか?自分は心源流拳法っす!!」

キルアとゴン、そしてカインは止まった。

「別に…」
「…ないよな」
「うーん…」

あえて言うなら、ゾルディック流?

「ええ!?誰の指導も無くあの強さなんすか …ちょっぴり自分、ショックっす」
「いやいや、きちんとした先生がいることは、とても良いことだよ」
カインがそう口にしたところで、50階の受付が見えた。

それにしても…見られてるなぁ。
視線の感じからして、悪意はないけど。
誰だろう?

その人物がゆらりと動く。
カインは咄嗟に目前の3人に気づかれないように背後に円を伸ばす。
円に入ってくればどんな奴か一発で分かる。
だが、その人物は円に入る手前で立ち止まり、拍手をして三人の注意を引いた。
その行動に、カインは振り返りもせず、少し目を見開いた。

「ズシ!よくやった。ちゃんと教えを守っていたね」
「師範代!押忍!光栄っす!」
ズシの嬉しそうな声に、ようやく視線を後ろに寄せる。
声をかけてきた人物は、人の良さそうな眼鏡の男性。
師範代と呼ばれたことから、ズシの師匠であること。

そして…。

それなりの念使いであることが分かる。

「師範代、またシャツが…」
「あっ、ゴメンゴメン」
そう言うと、男性ははみ出ていたシャツの裾をズボンに押し込んだ。
そして、カイン達の顔を一通り見ると、ズシに声をかける。
「そちらは?」
「あ、キルアさんとゴンさん、それからカインさんです」
それぞれ紹介してくれるズシに少し気恥ずかしさを感じつつも、カインは男性から視線を外さない。

安定した纏。
それでも、周りへの警戒は怠らない器用さを見せている。
まぁ、警戒されてるのは俺だけだけど。

「はじめまして、ウイングです」
「「オス!」」
「こんにちは」

ウイングさんね。
ズシのような実直な弟子を持っていることから、なんとなく彼の人柄が伺える。

警戒しなくても良かったかなぁ。

「驚いたよ、まさかズシ以外に子供が来ているなんて思わなかった。君達はなんでここに?」
「強くなるためと、小遣い稼ぎかな。1人はただの付き添い」
ウイングの質問にキルアが答える。

って、最後の台詞は完全に俺のことか。

「そうか…。ここまで来るくらいだからそれなりの腕なんだろうけど。
 くれぐれも相手と自分、相互の体を気遣うようにね」
「「オス!」」
ゴンとキルアはズシの真似をして胸の前で十字を切って礼をした。

面白いなー。
新源流の拳法って、あんな構えするんだ。
…いや、ズシだけかもしれないけど。

「さて、さっさと受付を済まそうぜ。
 早く終わったからもう1試合組まされるぜ、きっと!」


楽しげなキルアの言葉通り、カイン達はそれぞれもう1試合をすることになった。
カインはゴンとキルアの様子から、この階で躓くことはないと思っていた。

キルアの相手が、ズシになってしまった事を除けば。







ーあとがきー
ズシとウイングさん登場。
念に近づいていく二人。

それなりに強い念能力者を異常に警戒してしまうカインは、本当にゾルディックなんだなぁと、染々と実感。







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