長編 
57-出立

「明後日?!そんな…」
「ごめんな、カルト…」

泣きそうなカルトの頭をぐしゃりと撫でた。


Euphorbia milii
ー出立ー


「唐突すぎるよ…」
うん、俺もここまで急になるとは思わなかった。
あと1、2週間くらいあるかと思ってた。
でも、みんなのビザを考えれば、こんなもんだよな。
ゴンはライセンス使わないって言ってたし。

「修行がとても中途半端になってしまうね」

纏と絶はほぼ完璧。
練に関しては、まだまだ戦闘では使い物にならない。
この後の修行は、シルバとイルミの二人に任すことになる。

それなら、俺が今、カルトにしてやれることは…。

「カルト。遊ぼうか」
「え?」

楽しい記憶を、ほんの僅かでも残してあげること。
それぐらいしか、俺には出来ないから。

俺はいつだってシルバと一緒で…。
何も怖くなかったし、何も苦しくなかった。
どんな時でも楽しかったし、幸福だった。

カルトや他の兄弟にはそれがない。
カルトもキルアも、一緒に遊べる相手がいない。
遊んでくれる相手がいない。

それはとても…寂しいと思う。

でも、キルアは外に出て、ゴンという友達を得た。

カルトはいない。
ミケぐらいしか遊べる相手がいない。

なら、せめて俺が。



俺達は一頻り走り回った。
山の果実を取って、鳥の巣なんかを見つけて。
川辺で休みながら色んな話をして。
折り紙を教えるとカルトはとても喜んだので、色んなものを作ってやった。
折り鶴を数羽折り、念を使って空に飛ばしてみれば、カルトの瞳が鮮やかに輝いた。

年相応な子供の顔。

いっぱい笑って、笑って、笑って…。


カルトの頭を軽く撫でる。

「なぁ、カルト。俺と友達になってよ」

「…え、でも…」

「友達を作るのはダメ?」

「お母様やイルミ兄さんが…友達なんていらないって」

何度聞いても極端な教育方針だよな…。
俺達の時はそんなことなかったのに。

「んー、じゃぁ。秘密の友達かな」
「秘密の友達?」
「うん。誰にも言っちゃいけない秘密の友達」

そう言えば、カルトは少し目を見開いた後、楽しそうに笑った。
俺も釣られて一緒に笑う。

「ふふ。じゃぁ、カルト。
 何かあったらいつでも連絡してね。友達はいつでも助け合えるものだから」

「うん!」




***




…今日、俺は旅立つ。
このゾルディックの家から。

シルバの傍から、また離れる。

でも…

「カイン、本当に行くのか?」
「…ごめん」

この会話は今日だけで既に10回目。
昨日分も含めれば、数えきれないほどになる。

「シルバ…。…そろそろ諦めろよ…」

「嫌だ」

「皆の前だと、大人の対応なのに…」

今の現状を説明すると。
ベッドに座る俺を後ろから抱き締めることによって、シルバから逃げられないようにホールドされている状態。

「カインは残るよな?」
「…出掛けます…」
「外に行く必要は無いだろう?」
「いや、出ていくキルアを俺に任せるとか言ってたじゃんか」
「…言ってない」
「こら、目を反らすな」

こんな会話をあとどれだけしたら、俺は解放されるんだろうか…。

昔なら、駄々をこねるシルバを引き離すことなんて簡単だったのに。
全力を出して、びくともしないとは思わなかった。
念能力も、あの頃より数倍は力が増してるし…。

…俺も修行しないと…。


いや、それよりも、今はシルバの包囲をどうにかしないといけないな。

「シルバ…」
俺の肩に顔を埋めているシルバに、困ったように声をかける。

一昨日までは普通に過ごしてたじゃないか。
支度する俺を手伝ってすらくれたのに…。
最後の最後で、この駄々ごね。
小さい頃はよくあったけど、今になってやられるとは思わなかった。


「次はいつ帰ってくる?」
「……さぁね」

俺の返答を受け、俺を抱き締めている腕にグッと力が籠った。

…仕方ない弟だ。

「シルバ、俺は必ず帰ってくるよ、ここに。
 だから見送ってくれ。
 俺が帰る場所はここだって、そう思えるように」

「…前は帰ってこなかった」

…この……

「俺は帰ってくるよ。帰ってきたから、今ここにいるんだろ?」
「…次は何年?何十年?そうなったら…」

あぁ、もう!
うじうじと!!

「すぐだ!
 1年以内には必ず帰ってくる!

 ……約束するよ。

 すぐに帰ってくるから」

少しの沈黙の後、シルバの腕が緩んだのを確認すると、カインは体を反転させ、シルバの方へと振り返った。
下を向いたまま黙っているシルバの姿に、カインは小さく息を吐く。

呆れているわけでも、怒っているわけでもない。
ただただ、愛しいと思う。

カインは、シルバを包み込むように優しく抱き締めた。


「シルバ、愛してる」

カインの背中に、シルバの腕が回る。

「…俺も愛してる。
 ………仕方ないな。…行ってこい。
 そして、必ず帰ってこい」

「うん、ありがとう。…行ってきます」








ーあとがきー
シルバのうじうじ。
1個前にあれだけ誓いをたてておいて、この醜態。
私の中のシルバはこんなイメージ。

カインにだけは甘ったれ。










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