長編 
56-誓い

鞄の中にしまったままの携帯が、約1ヶ月越しに唐突に鳴り始めた。
今を終わらせるベルの音。

敷地内にいる金髪の友人からの電話。


Euphorbia milii
ー誓いー


『弟には会えたのか?』
「うん。ゆっくりさせてもらってるよ」
久々に聞くクラピカの声は、どこかたくましさを感じた。
修行はそれなりに上手く進んでいるであろうことは容易に汲み取れ、キルアを迎えに来るのもそう遠くない話だと悟った。

あと、一週間か、それより短いか…。

「…え?明後日?」
『あぁ。私もゴンも1の扉をクリアした。レオリオは2の扉までクリアした。
 明日調整をして、明後日には屋敷に向けて主発するつもりだ』
「…そうか…」

キルア、思ったより早く迎えが来たよ。

『連絡が遅くなってしまってすまない。
 カインは戻ってこれそうか?』
「…あ、うん。少し遅れると思うけど…必ず追い付くよ。先に行ってて」
『分かった』
「くれぐれも気をつけて」
『あぁ。カインもな』

電話を切り、無音になった携帯を見つめる。

もう、行かないといけない。
ここにいられるのは、あと2日。
2日後には出発しないといけない。
彼らと一緒に行くなら…。

たった2日…。
シルバと過ごせるのもあと2日…か…。

「……バカだ。…離れたくないなんて…」

シルバのいるこの家から、出ていきたくない。

30年ぶりに目覚めた時は、何もかもが受け入れられなくて、逃げ出したかった。
でも、今は…

自嘲的に、笑みがこぼれた。

「…自分勝手な奴だな。俺は…」



***



「…そうか。二日後に行ってしまうのか…」
シルバの神妙な面持ちに、1つ頷く。

俺とシルバ、それからキキョウさんも含めて、今後のことを話していた。
友人から電話が来たこと。
彼らと共にキルアを連れ戻しに来ること。
それが2日後だということ。

「彼らがどこまで来れるか分からないけど…。とりあえず同行するつもり」

「……明後日か…。キルに旅立つ準備をさせないといけないな」

寂しそうな顔をしながらも、やはりそこにあるのは父親の顔で。
少しだけ、遠くにいってしまったのだと痛感する。

「まぁ!あなたまで!私は最後まで反対しますからね!」
「ふふ。えぇ、存分に反対してください。キルアの帰る場所として」

キキョウさんは本当にぶれない。
真の強い人だ。

「カイン。キルアを、息子を頼む」
「…うん。できる限りのことはするよ」

キルアは…シルバの息子で、俺の友達。
みすみす死なせる訳がない。

命を張っても良いくらい…大切な…。

「…だが、カインも無理はするな。
 危険ならば逃げろ。死地には立つな。

 カインが消えるなんて悪夢は、一度で十分だ」

シルバの悲痛な表情と言葉に、カインは目を見開いて瞬きを繰り返す。

…俺の考えることなんてシルバには筒抜けだな。

「ふふ…。肝に命じとく」

カインは安心させるように柔らかく微笑んだ。

「お兄様!私はお兄様がお出掛けになるのも、許していませんから!
 なるべく早く戻ってきてください。
 それに…カルトちゃんだって、お話を聞いたら悲しむわ…」

「…カルトにはこの後、話をします」

気が進まないけど、俺は出掛ける準備もしないといけないし…。

「あら、いけない!お兄様のお出掛け用のお洋服を出してこないと!
 お兄様、後程お兄様のお部屋に寄らせていただきますね」
失礼しますと、扉を静かに閉めてキキョウさんは部屋を出て行った。

あれから一度も話題に上がらなかったのもあり、どんな服が来るか少し不安だ。


「カイン…」

静かに名前を呼ばれ、俺はシルバに向き直る。
キキョウさんにはけして見せない心配そうな顔をしているシルバに、小さく微笑んで席を立った。
シルバの隣に行き、自分よりも随分と大きくなった弟を抱き締める。

いつもと同じシルバの匂いが鼻を掠める。

「帰ってくるんだよな?」
「大丈夫。必ず帰ってくるよ。シルバの元に」

体を離して、シルバの頬に手を添える。
互いの額をピタリと合わせ、誓うように瞳を閉じた。


何があっても

必ず

帰ってくる。


照らし合わせたように同時に目を開いた二人は、訳もなく互いに微笑んだ。

やはりというべきか。
俺達は双子で、産まれる時も死ぬ時も一緒なのだと悟る。
けれど、この世界は何が起こるか分からないから。


「シルバも、俺を置いて逝くなよ?」
「あぁ。勿論だ」



互いに誓いを立てよう。








ーあとがきー
旅立つ準備。

しかし、うちの双子は仲が良い。













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