長編 
53-指導

「今日もカルトの修行か?」
「うん。俺がいる時間は限られてるし…。教えられるうちにね」
「そうか…」
視線を下に落としたシルバの姿がカルトと被り、俺は小さく笑みを深める。


Euphorbia milii
ー指導ー


ベットに座ったままのシルバの顔を下から覗きこむ。
「不満げな顔だな」
「いや、そんなことは…」
否定の言葉を放つものの、その表情が物語るのは“不満”の二文字。
俺は眉尻を落として背を伸ばした。
口元から溢れる笑みを隠すように、手で軽く口元を覆う。

「カルトも同じ顔をするよ。子供扱いするとね」

カルトは早く大人になりたいのだろう。
子供扱いすると水面下で激怒する。
表面上は不満という表情を作り出すだけだけど。

「カルトと俺が同じだと?」
「まぁ、不満に思ってる内容は違うけど、表情は一緒。さすがに親子だな」

少し寂しい気もするけど、シルバは親になったんだ。
子供ができて、その子がシルバの背中を見て育っている。
その子の指導を俺が出来るなんて、俺は幸福だ。

「そうだな。今は纏の強化修行中だし、午後は空くよ。どこか遊びに行くかい?」
にっこりと笑顔を作ってそう問えば、パッとシルバの表情が緩んだ。
ふふ、相変わらず分かりやすいな。

「じゃぁ、また後で」

シルバの頭にポンポンと手を置いけば、シルバは少し複雑な顔をするものの、口角が上がっているのが見えた。

あぁ…こういう表情はキルアと同じだ…。

嬉しいけど、恥ずかしい。
そんな顔。

本当にキルアは、シルバの息子なんだ。

俺は人知れず微笑んだ。




***


「纏」

俺の言葉に反応して、カルトは纏の状態を維持した。
そのまま三時間ね。と付け加えると、カルトは目を見開いた後、口を尖らせた。

そんな顔しても、ダメ。
これが出来なきゃ次には進めない。
俺は持ってきていた本を開いてその場に座った。


イルミがカルトの修行を見てやる時間は案外限られていて、俺が思っていたよりもカルトと二人の時間は多かった。
まぁ、キルアに念を教えるつもりが毛頭無いことを、初日に伝えてるから諦めてるのかもしれないけど。


二時間がたった頃、ゆらゆらとカルトの纏が乱れ始める。

「カルト、纏が乱れてる。気持ちを落ち着けて整えろ」

未熟なものはオーラに気持ちが乗ってしまう。
カルトは心情を内面に押さえ込んでいることが多い様で…。
その内面が、オーラに乗りやすい。

耐えるだけの訓練とは違い、自分も律せねばならない。

カルトには難しい訓練のようだ。


「はい。三時間。お疲れ様」
「はぁー…」

酷く疲れているカルトを見つめて、どうしようかと考える。

本来なら纏の状態をずっと維持しなければならないわけで…。
これは基礎中の基礎だ。

俺がいる間に教えられることは教えてあげたいけど、無理強いは出来ない。
下手に詰め込めば、カルトに支障が出る。

あ。
そうだ。

「カルト。午後なんだけど」
「何?」
「絶をしてシルバを尾行してみようか」

「え゛?!」
「ん?」

俺の言葉に呆然としていたカルトの顔が、次第に泣きそうに震えだした。

「え?そんなに嫌だった?」
「だって!絶対見つかるもん!」

酷い怯えように、カルトが前にそういうことをしたということと、シルバがそれに対して酷く怒ったんだろうということが分かる。

んー、じゃぁ。尚更だな。

「カルト。怖くても自分を律するいい修行になるな」
「え?!」
「午後は絶して着いてきてね。
 俺とシルバは出掛ける予定になってるから。
 怒られる時は一緒に怒られてあげるよ」

カルトは声にならない言葉のために口をパクパクと動かしているが、それは全く音にならず、次第に顔色が悪くなっていく。

「…き…」
「き?」

嫌い?汚い?気に入らない?

「鬼畜ー!カインの悪魔!!死神ー!!」

割りとガチな暴言を吐かれた。
まぁ、仕方ない。
「俺の修行はスパルタだからね」

「〜〜っ!…いいもんっ!!絶対見つからないから!」

そう捨て台詞を残して、カルトは森の中に消えた。


…怒らせちゃった。
まぁ、気合いが入って良いだろ。

でも。

「カルトー!お昼は一緒に食べよー」

キキョウさんが毒要りお昼を用意しているはずだから。






ーあとがきー
カルトともっと一緒にいたい管理人の我が儘。












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あきゅろす。
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