長編 
51-新しい家族と

晩餐は緩やかに終わりを迎え、カインはカルトを自室へと招いた。


Euphorbia milii
ー新しい家族とー


30年前と変わらぬ部屋。
出掛ける時は気づかなかったけど、30年経っているのにこれだけ綺麗ということは、使用人達かシルバが掃除していたということだろう。
嬉しい反面、申し訳なく思う。

確かこの辺り、とカインは部屋の一角をあさり出した。
「…あったあった。はい、これ」
カインが差し出した細長い箱を手に取り、カルトは静かに箱を開けた。
瞬きした後、カルトは怪訝そうに顔をしかめた。

「扇子?」
「開いてみな」
カインの言う通りに扇子を広げると、そこには満開の桜が艶やかに描かれていた。

「…きれい…」

「ふふ。俺もそう思って買ったんだけどね。
 カルトの方が似合いそうだったから」
そう言って頭を撫でてやれば、カルトは少し目を見開いて、カインを見上げた。

「本当にくれるの?」
「うん、あげるよ。俺が持ってても、宝の持ち腐れだしな」

「ありがとう!」

年相応な笑顔を向けられ、今度はカインが目を見開いたのだった。



カルトと手を繋ぎながら部屋まで送り届け、後日、暇な時に修行相手になることを約束した。
まぁ、多少相手をしてあげることぐらいなら出来るだろう。

ゴン達の修行もまだまだ続くだろうし…。


それにしても。

「…少し安心したな…」
「何が?」
「イルミみたいな鉄仮面がもう一人くらいいるかと思ったけど、みんなちゃんと笑えてる…し…?」

あれ…?
俺、今誰と話した?

「鉄仮面って、酷いなぁ」

「!!」

振り返れば、涼しい顔をしたイルミがそこに佇んでいた。

「い、いつからそこに!」

気配が全く無かった…!

「カインって、強いわりには抜けてるよね」
「…悪かったな」

イルミは、本当にシルバの息子かと疑いたくなるほど鉄仮面だ…。
でも、なんだかスッキリとした顔をしてる。
そう感じて少し微笑んだものの、頭の中で響く警鐘に気付いて、イルミの暗い瞳をまじまじと見つめた。

忘れてはいけない。
イルミにとって、俺はイレギュラーな存在で、キルアを外に出そうとする邪魔者だ。
たとえ、親族だろうと、兄弟だろうと、邪魔者に変わりはない。
いくらシルバが許しても、イルミ個人とはまた別の話。

…。

…いや、違うな…。
イルミの顔つきはそうじゃない気がする。
なにかが、違うような。


「ねぇ、ちょっと着いてきて」
「?何で?」
「ミケにカインのこと主人だって分からせるから」

ミケって、あの門番の動物?

「主人だって分かってないと、命令聞かないから、あいつは」

そういえば、ゼブロがそんなこと言ってたっけ。
主人以外の命令は聞かず、“偽門から入ってきた奴を噛み殺せ”って命令を遂行してるって。

ふむ。
まぁ、確かに。俺が主人であることに違いはない。

「良いよ。行こうか」


***


「しかし、何度見ても、でかいな」
ミケを目の前に、じっとその巨体を見上げた。

「カイン、あまり寄ると怪我するよ。
 ミケはじゃれてるつもりでも、こっちは襲われてるのと同じだし。最悪骨折られたりするから」
「イルミでも折られるのか?」
「俺じゃなくて、カルトがね」

カルトか…。
あの子は、まだ念を覚えていないし、怪我をするリスクも高い。
まぁ、簡単に死なないのがゾルディック故にってところか。

「そういえば、キルアやカルトに念は覚えさせないつもりだったのか?」
「別にそういう訳じゃないよ。
 父さんもキルに関しては結構慎重なんだよね。
 キルは才能があるから。伸びる時は一気に伸びるし。
 いつ教えようかと時期を見てる間に、家出したから…」

イルミは結構しゃべる。
初めて見た時は、針男すぎて引いたけど。
針取っても無表情だし。表に一切感情は出ないけど。
でも、無感情な訳じゃない。

「カルトはそろそろかな。それなりに仕事も出来るようになってきたし」
へぇ。
そんな風に換算するのか。

「誰が教えることになるんだ?」
「親父と俺」
「ふふ。そりゃスパルタだな」

まぁ、修行の度合いにスパルタじゃないとかありえないけど。

あ、そうだ。
今思い付いたかのような口ぶりで、イルミは呟いた。続けて。

「カイン、カルトの修行見てやるんでしょ?」
「…少しだけな」
約束しちゃったし。

「俺も参加していい?」



参加って、参加…?










ーあとがきー
イルミが実はうずうずしている場景を書きたかったんだ。
そして、カルトに好かれる主人公。












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あきゅろす。
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