長編 



―青と灰―
Part2

よし。これで荷造りも完璧だな。

長年世話になった部屋を見渡し、ほっと息を吐く。
このぼろいアパートには両親との思い出も、仲の良かった友達との思い出もみんな詰まってる。

嗚呼、でも。
思ったほど悲しくない。
夕日がさして、こんなにも哀愁が漂ってるのに。

『引っ越すのか?』
「(学校、全寮制だからな)」

正十字学園は全寮制だ。
親元を離れ、学業に励めと。

『お前に親も何もないだろうが』

「(そうだね。みんな死んでるし)」

サタンの声が聞こえる少し前、両親は死んだ。
サタンの声が聞こえてから、友達も死んだ。

両方、事故死。

そういう扱い方だった。

周りからは可哀相だとか、疫病神だとか、腫れ物のように扱われた。


“お前は、人間とは生きていけない”


サタンに言われた。

“お前は悪魔を引き寄せる。悪魔達はお前が好きでたまらない”

けれど。

“お前は悪魔が見えない。それゆえ、お前が親しくしている人間に酷く嫉妬し、その人間を殺してしまう”

そのせいで、両親も友達も死んだのだと、サタンは語った。

そして、体質上、俺は魔障を受けないらしい。


「あ?」

唐突に体から何かが抜けるような、不思議な感覚に見舞われた。

「(なんだ?…ん?サタン?)」

呼びかけても、答えは返ってこない。

「(いなく、なった)」

サタンがいなくなるのは、随分と久々な気がする。
いなくなれば、1日か、1週間か、1ヶ月か。
魔神は気まぐれだ。

「やっぱり、見えない…」

先ほどまで、俺の部屋に居座っていた小物の悪魔達は気配もなく消え去っている。

「そこにいるんだろうな…。でも、見えないんだよ。ごめんな」

周りに群がっているだろう悪魔達にそう呟いて、ため息を吐いた。

俺は魔障を受けない。
それはつまり、悪魔が見えないって事だ。

ならなぜ、悪魔が見えていたのか?

それは、サタンが自分の目を俺の目に重ねていたから。
サタンの目を通して、世界を見ていたから。

だから、悪魔達が見えていた。

「(早く帰ってこいよー、馬鹿サタン)」

悪魔のいない世界は酷くつまらない。
だって、俺の世界には人間がいない。

俺の傍にいると、人間はみんな死んでいくから。
仕方ないから、俺は近寄らない。周りも寄ってこない。

だから、人間の友達は一人もいない。

悪魔しか、話相手がいない。

「暇…」

とりあえず、風呂でも入ろう。



夜空の月が、陰った気がした。




―あとがき―
主人公説明をしたかっただけ。

てか、悪魔と仲良すぎ(笑)






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