長編 
0-プロローグ



Euphorbia milii
―プロローグ―



「はっ…はぁっ…」
後ろからついて来る悪魔から、男は逃げていた。

妻が殺され、子供が殺された。
あの銀色の殺人鬼は、私の家族を全て抹殺する気なのだ。

「…はぁ…は…」
一室に転がり込み、壁に背をついて息を整える。

念能力者である自分が、こんな風に追い詰められるなんて…。
しかも、あんな子供に…。

自分の無力さに唇を噛み締めながら、今はあの悪魔に見つからない事を祈るしか出来なかった。


「あ。見っけ」
壁越しに真後ろから聞こえた声に、サッと血が引く。

まさか、そんな、見つかるなんて…。

「勝手に逃げんなよ。どうせ死ぬんだから」
がちゃりと開いた扉から青年が顔を覗かせた。

「静かにしてたら、すぐ家族の下に送ってあげるからさ」
そう無機質に笑う青年の言葉に、家族の無惨な姿が脳裏に甦り、怒りが膨れ上がった。

この悪魔が私の家族を…!

「…許さない、許さないぞ…」
「それは依頼人に言ってくれよ。俺は依頼されただけなんだから」
そう苦笑して、青年は持っていた刀を振り下ろした。

「依頼完了」

無表情にそう言い、青年はポケットから無線機を取り出しボタンを押した。

「シルバ?」
『カインか?』
「うん、終わった。車回して」
『あぁ、ちょっと待っていろ』
「うん」

電話を切り、殺した相手を見下ろした。
ぴくりと反応を示す男に、あれ?と目にオーラを集める。

「(変だな…オーラが体から溢れるなんて…)」
死んだ男の異変にカインは瞬時に身構えた。

しかし、時遅く。

ぶわりと膨れ上がったオーラはカインの体を完全に包み込んだ。
「(っ…念が…使えないっ…)」
カインは焦った。
死んだ者の念は強い。
この念を打破する秘策を見つけなくては…。

急に冷静になった思考は、様々な物を脳裏に叩き込んでくる。

整備された部屋
横たわる死体
離別した念
白い花瓶
椿の花
本棚

置物
赤い血
歪む視界
透明な水色
感じない温度
聞こえない物音
抜け出せない空間

遮断された世界


「(水の中に、いるみたいだ…)」

幾度もがいても、その水の中から抜け出せず、念も使えず、秘策も見つからない。
やがて息が続かなくなり、カインの意識は朦朧とさ迷い始めた。

「(死ぬ、のか…)」


動かなくなった体は、導かれるように丸まり、胎児に戻ったようにカインは横たわる。
朦朧とする意識の中、カインは静かに目を閉じた。


「(…シルバ…ごめん……)」

一緒だと…約束…したのに…。





「カイン…?」


部屋には男の死体と、小さな水晶が一つ。
水晶の中には銀髪の青年が眠っていた。






―あとがき―
ついに始めちまった。シルバの双子兄。
なるべくギャグを含める様に頑張ります(笑)
さぁ、次は突如として20、30年をトリップしますょー♪


題名の
“Euphorbia milii”(ユーフォルビア・ミリー)は、花麒麟という花の別名。

花言葉は、
“逆境に耐える”
“独立”

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あきゅろす。
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