カナヅチ 優しい先輩 彼は少し微笑みながら優しい声で言った。 「もしかして入部希望者?」 「はい!」 茜が勢いのある返事を返す。 あたしはただぼんやりと突っ立つことしかできなかったが、茜のやる気充分の返事に彼はさらに微笑んだ。 「初めまして。俺は日隠涼稀(ひがくれ りょうき)で2年。この水泳部の部長だよ」 涼稀でいいよ、と言われたからあたしたちは涼稀先輩と呼ぶことにした。 あたしたちも軽く自己紹介をする。 「あの、他の部員とかいないんですか?」 周りを見回しても水泳部員らしい人は見当たらなくて、涼稀先輩に聞いてみた。 「みんなやめちゃってね。俺がしごき過ぎたからかな」 こんな優しそうな先輩にならしごかれてもいい、と本気で思った。 でも辞めちゃうくらいハードな練習なのかな?そんな感じには見えないけど…… 「じゃ茜、瑞葉、明日から早速練習するから覚悟しといてね」 涼稀先輩は綺麗にプールに飛び込んで泳ぐ。 今日はもうすることがないから少しだけ先輩の泳ぎを見てからプールを出た。 こんな格好いい先輩がいるんだったら、毎日部活に来てもいいかも…とあたしはサボる宣言を一瞬で投げ捨てた。 [←][→] |