カナヅチ
克服
大丈夫、大丈夫と自分を落ち着かせる。力を抜いて身体を浮かせた。
水泳は孤独な戦い。周りの音だって聞こえないし、励ますのは自分だけ。自分の中の強さだけが支え。
だいぶ落ち着いてさっきまでのリズムを取り戻す。腕を回して、足をばたつかせる。
目の前に迫った25mの壁にあたしは達成感でいっぱいだった。
壁に手をついてザバッと水面から身体を出した。
「先輩!先輩あたし、やりました!泳げました!」
興奮してとにかくはしゃいだ。涼稀先輩はあたしのレーンに入ってきて抱きついてきた。
「やった!やったぞ!ついに25m泳げたな!」
上半身裸の先輩と水着だけのあたし。妙に意識してしまって赤面してしまった。
「涼稀先輩…離れて…」
「あ、思わず…ごめんな」
あたしが小声で言ったら先輩は笑いながら離してくれた。
「瑞葉やったじゃん!おめでとう!もうカナヅチなんかじゃないね!」
茜も近くにきてくれた。
カナヅチなんかじゃない。コンプレックスの1つだった泳げないということを克服できて心底嬉しい気持ちになった。
それもこれも目の前の2人とやっちのおかげなんだよね、と思うと感謝の言葉の変わりにもっと上手くなりたい、という気持ちが膨らんでいった。
[←][→]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!