カナヅチ 初の25m 単純に考えたら、手足をばたつかせて顔を上げて息をすればいいだけ。ただそれだけ。 単純なその行動を自分にできないことはない、と勇気づけた。 「じゃいくよ。位置についてー……よーい……」 ドクドクと血が巡り、緊張する。できるだけ深く息を吸った。 「はい!」 涼稀先輩がスタートの合図をした。あたしは頭まで水中に沈めて壁を蹴った。 水の負荷が身体にかかる。それは意外にも心地よくて焦らずに泳ぐことができた。水中に入ってしまったら、緊張もほぐれた。 先輩は常にあたしの横を泳いでいてくれて、安心した。 半分を過ぎた頃、あたしは息継ぎの時に大量に水を飲んでしまった。 く、苦しい……! 焦って周りに水しぶきを飛ばす。先輩も異変に気付いたのか近寄ってきた。 あたしの頭はパニックに陥った。もうどうしていいかわからない。このままじゃ溺れてしまう…! それでもあたしは床に足をつけることなく、泳ぐことをやめはしなかった。 昨日のやっちの言葉に、今日の涼稀先輩の嬉しそうな笑顔。 ここで失敗することはできない。 あたしは、まだやれる。 [←][→] |