はろー!シンビジューム
6
それから望は体育を待ち遠しく思う様になった。
クラスでは顔も合わせないのに、紺野と2人きりになるとくだらない話をする。
「今日の私のラッキーアイテムはオレンジなんだって!ちなみに紺野はアルミだって」
「アルミがラッキーアイテムって、意味わかんねー……。大体、お前、占いなんか信じてんのか?」
「なに、悪い?」
「全く似合わねーと思って」
「うっさい」
口下手な筈なのに沈黙はほとんどなくて、意識して話してる訳でもない。
そんなに楽しいのに、みんながいる前では絶対に話をしなかった。
「ちょっと待ってろ」
2人で教室に戻る時、紺野が1人でどっかいってしまった。
望が大人しく待っていると、紺野はすぐに戻ってきた。
「ほら、ラッキーアイテム」
そう言って投げてきたのはオレンジジュース。
そして紺野はもう1つのほうのコーラを口にした。
「え……あの、お、お金……」
「気にすんな」
(これは奢ってくれたんだよね……?)
あまりこういう経験がない望は少し混乱した。
そしてお礼を言おうと思ったけど、今更なんだか照れくさい。
ありがとうの一言がなかなか言えないまま、教室までついてしまった。
このまま何もしないなんてできない望は、何かいい方法がないか考えてみた。
ちら、と財布の中身を見る。
そして筆箱の中も。
望はそれを握りしめ、紺野の机の前まで行った。
紺野は無表情で望を見る。
「これ、ラッキーアイテム」
そう言って机の上に1円玉を5枚散らばせた。
望はそのままそそくさと自分の机に戻っていった。
紺野はその5枚の1円玉を見た。
『ありがとう』
マジックペンで書かれたその文字に、少しだけ笑みを零した。
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