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宝の宿人


「李琥に会うまでは自分の顔を見たことがなかったので……」


体を放して貰え、ホッと息をついた。

周防はというと、安堵の表情を浮かべた伊吹に静かに視線を向けていた。

今、妙なことを言わなかったか。

鏡はそこまで贅沢品という訳じゃない。

鏡でなくても、水や陶器でも顔を映すにはこと足りる。

李琥という男に出会う前はその母親に面倒を見て貰っていたらしいのだから、見る機会はいくらでもあったはずだ。

それに自分が閉じ込められた元凶を知りたいとは思わなかったのか。

なぜ……。

周防はひとり思案顔をする。

難しく考え込む周防に、伊吹はそっと声をかけてみた。

「あの、李琥は大丈夫ですか?」

怪訝そうな顔をして、周防は伊吹を見る。

入門するだけで気絶した奴が他人の心配か。

こいつ、ずれてるな。

「問題ない」

正しくは問題なくなっただが、周防は敢えてそのことに触れなかった。

李琥に話しを聞き始めてひと月。薄緋は草の密売のことは関与していない、知りもしないということが分かったからだ。

知らない人間に教えることでもない。

普通なら草に関する罪は極刑。死を意味する。

従兄弟が自分の為に命を投げ出して大罪を犯したと知れば、この玉鈴守はまた気絶するだろう。

いや、気が狂うかもしれんな……。

余りにも脆い精神を一度垣間見ている周防はそんなことを思った。


山族が気まぐれに里を荒らしに来たと思っている伊吹は良かったと安堵の息をもらした。

「そうですか……あと、やっぱり……いいです」
「何だ」

まだ何かあるのかと問いただすと、じゃあと遠慮がちに口が開かれた。


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あきゅろす。
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