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宝の宿人


今、李琥はとんでもないことを言わなかったか。

伊吹は混乱しそうになる頭を無理矢理落ち着かせる。


「え、なに……」

「そのままの意味だ」

こともなげに李琥は言う。

「だめ、だよ。だって、僕は生まれてから外に行ったことなんてないし……、あっ、あと李琥はどうするんだよ」

おどおどとした口調のままに視線をやれば、李琥は闇でも分かるほどに目をぎらつかせて伊吹をみていた。


「俺は、帰ってこないかもしれない」


ここまで従兄弟というだけで守ってくれた李琥だ。
自分をおいていくという意味ではない。

だとしたら……。

「帰ってこないかもしれないって……危ない目に合うってこと?」

「……そうだ」

震えそうになる声を押し殺して李琥は言った。
噛みきるほどに結んだ唇からはほのかに鉄の味。

なぜこんなに悔しいのだろう。


頼れと言ってみたものの、一度伊吹をはねつけている本陣は保護してくれるかどうかは分からない。

密かに続けていた取り引きも次第に綻びが生じてきている。
ことが北門隊の守護陣に知られてしまうのも時間の問題だ。

李琥は自分が伊吹を守れなくなった時、自分の代わりをしてくれる存在が必要だった。


「泣いてるの、李琥?」
言われて始めて涙していることに気がつく。

李琥は乱暴に袖で目元を拭った。

「結局、俺はお前を守れてないんだ」

結局は人任せになってしまう。
どんなに守ってやりたくても。

自分に誓ったはずなのに。

伊吹の薄緋に誓ったはずなのに。

分かってはいたが、今日長に言われて改めて感じたのだ。

自分がいなくなれば、伊吹はどうなる?

一人の味方もいない、敵の中で監視され、疎まれながら一生を過ごさねばならないのか。



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