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宝の宿人


李琥は明かりのついた一軒家の戸口に手をかけた。

中に入るとおこした火の周りに五六人の大人の男が集まっていた。その輪の中の一人が李琥に気付き、周囲に声をかける。

「おい、李琥も来たようだし始めようとするか」

李琥は男たちに目で促され、輪の端の空いた場所にあぐらをかいた。

李琥が座ったことを確認して一番年長である里長が口を開く。

「里の蓄えも残り僅かじゃ。春の収穫も期待できそうにねえ」

男たちは口々に、やはりなとこぼす。
里長は顔の皺を一層深くして李琥をちらと見やった。
続いて他の男たちも李琥を見る。その目にはどこか期待と、蔑みが映っていた。
視線を受けた李琥は素知らぬ顔で懐に手をやり、何枚かの紙幣を床に放った。

「今回はこれだけだった」

床に放り出された紙幣に男たちの目が釘付けになる。そして各々が反応してみせた。

ああ、と声を上げて落胆する者。声も出ない様子の者。
様々の中、一人の若い男が李琥に勢いよく掴みかかった。

「嘘をつくなっ!前はこんなに少なくなかった!李琥、お前どこかに隠し持ってるだろう…!」


目を血走らせてつばを飛ばす男。
一気に切迫した雰囲気に変わった室内に緊張が走る。
うなだれていた男たちははっとして李琥を見た。

「お前が地下の奴に入れ込んでるのは分かってんだ!どうせ奴に贅沢させてるんだろう…!」



李琥に馬乗りになりながら男は目を吊り上げて叫んだ。

李琥はそんな男を至極冷めた眼差しで見返した。
こういうやり取りは初めてではなく、大人たちに文句を言われることはしばしばあった。

金が少ない。
飢え死にさせる気か。

数ある文句の中、特にこの若い男は何かと李琥に、というより伊吹に絡んでくるのだ。


李琥は平静を保ちながら言った。

「隠してなどいない。これだけ何度も取り引きすれば値段が下がるのは当たり前だ」

しかし男は李琥の胸ぐらを掴む力を強くする。

「嘘だ!“草”は山賊共も喉から手がでるほど欲しいはずだ。隠している分を寄越すんだ!」


緊張のため静かだった周囲が徐々にざわめきだした。


もしかしたら……。


思い当たる節がある大人たちは若い男の言葉を信じ始める。

「何なら地下の奴のところへ行ってもいいんだぜ!」

その一言に今まで耐えていた李琥はとうとう大声をあげた。


「取り引きを渋られてるって言ってんだろ!小さな里一つゆするのなんて簡単なんだっ!」

いきなり怒鳴った李琥に男はたじろぐ。
とても十九の青年とは思えないほどにその体は覇気が満ち、他を凌駕する力を放っていた。

男が驚いた隙に男を自分の上から押しのけ服の乱れを整える。

「草の密売は重罪だ。罪を犯している俺たちが値段を上げろとは言えない」

李琥は奥歯を噛み締めながら絞りだすように言った。

室内が徐々に静寂を取り戻していく。


半年前から続けていた“草”の密売は限界を迎えている。
どんなに頭を下げても、こちらの立場が悪いのをいいことにどんどん値段を下げられる。
山賊相手の仕事は危険で李琥も怪我をすることは少なくなかった。

そんな危険な仕事を進んで引き受けたのは、ひとえに伊吹の為だった。


飢え死になど、そんな惨めな死に方をさせたくなかった。

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あきゅろす。
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