[携帯モード] [URL送信]

頂き物の小説
第六話   纏え、誓約の衣 ―フォーム・オブ・リーゼ―










ヘリが着艦すると、スバル達は甲板に降り立つ。
そこに乱れる髪を押さえながら、はやてとシャマルがやって来た。

「お疲れ様や……連音君達は?」
「まだ船の中よ。後四人も船内の奥にいるらしいから、まずはこの子達だけね……」
「……そうか。とりあえず今は、うちのフォワードの子らを助けてくれて、ありがとうな、アリシアちゃん」
「一人が毒にやられているから、急いで診てあげて。後、他のメンバーも少なからずダメージを受けているわ」
「分かったわ……シャマル!」
「ハイッ!」
シャマルははやてに頷いて返すと、すぐにストレッチャーの用意を頼む。

数分と立たず、甲板に持って来られたストレッチャーにエリオは乗せられ、シャマルと共に救護室に運ばれていった。

それを見届けてから、はやてはスバル達に向きやった。
「ほんなら皆は……手当て受けながらで良えから、報告お願いするわ」
「―――了解しました」
返事を返したティアナは、理解しきれない状況を如何説明すればいいのか分からず、眉を顰めた。











    とある魔導師と古き鉄の物語 異伝


 ――― とある魔導師と竜魔の忍の共闘 ―――



  第六話   纏え、誓約の衣 ―フォーム・オブ・リーゼ―













ティアナは四苦八苦しながら、起きた出来事を事細かく説明した。
それを聞いたはやては現在、腕を組み、唸りながら深々と頭を下げている。

「う〜〜ん、何というか……嘘を言うてないのは分かるんやけど……それを丸々信じろというのは中々に骨やなぁ〜」
「……心情、お察しします。というかこの目で見ていた自分ですら、状況を理解できませんでしたから」
説明したティアナも、どこか困り顔である。


二人は今、グランダートVの応接室で向き合って座っていた。
スバルはエリオに次いでダメージが大きく、救護室へ。キャロはその付き添い。

ティアナもダメージは浅くないが、報告が先と、こうしてはやてに向き合っていた。

「まぁ、とりあえず事件の主犯と思われる人物……メノス・マクワイエについて調べてもらおか?」
はやては空間モニターを開き、六課のロングアーチに繋げる。映し出されたのは眼鏡を掛けた真面目そうな青年。
機動六課部隊長補佐、グリフィス・ロウラン准陸尉である。
『こちらロングアーチ』
「グリフィス君、すまんけどデータベースで、『メノス・マクワイエ』って人物を検索して欲しいんやけど?」
『了解しました』
『え、それって……八神部隊長?』
「ん?何や、シャーリー?」
モニターが更に開き、顔を出したのは眼鏡を掛けたロングヘアーの女性。
機動六課通信主任にしてデバイスマイスター、シャリオ・フィニーノ一等陸士である。

『いえ、メノス・マクワイエって……もしかしたら私、知ってるかもって……ちょっと待って下さい……あ、この人です!!』
シャーリーがコンソールを操作すると、はやてのところに小ウインドウが現れる。
そこに映る人物に、ティアナは目を見開いた。
「っ!?こ、こいつです!間違いありません!!」
そこに映っていたのは間違いなく、機関室にいた男。写真と寸分違わない。

ティアナはギリ、と無意識に拳を固めていた。
「これが事件の主犯か………せやけど、どうしてシャーリーはこいつの事を知ってるんや?」
はやてが尋ねると、シャーリーは何故か複雑な表情を見せた。
『えっと、この人の事は………デバイスマイスターなら、まず知ってる筈です』
「どういう事や……?」
シャーリーはコンソールを叩き、幾つかのデータを引き出すと、はやてのモニターに映し出した。
『―――メノス・マクワイエ。元 時空管理局地上本部 技術開発部主任。
現在、管理局で生産されているストレージデバイスの基礎を作り上げた天才。
更に当時、質の悪かった簡易デバイス用に《メノス・プログラム》と呼ばれる革命的な新型処理プログラムを開発。
それによって簡易デバイスの性能は飛躍的に上昇。その名前は幾つもの技術科教本に載っています。
―――でも、メノス博士は突如として失踪。彼の残した研究資料は、今も局で使用されています』
「―――元管理局員!?あいつが!?」
『失踪後の足取りは不明………でも、まさか……全デバイスマイスターの憧れの人なのに……』
敵は失踪した天才。シャーリーはショックを隠し切れていないようだ。

「でも、何でこんな………失踪した理由と関係あるんかな……?」
モニターに目を通しながら、はやては厳しい顔を見せる。と、その中のある項目に気付いた。

「………なぁ、ティアナ?船の中で見たんは間違いなく、この人と同じやったんよね?」
「はい、間違いありません」
「そうか……シャーリー、この写真は………何時のころの物や?」
『失踪する直前………約30年前の物です』
シャーリーの言葉に、はやては深く息を吐いた。
「………なぁ、幾ら何でも30年も経って同じ顔ってのは……おかしくないか?」
『「あっ……!!」』
二人が同時に声を上げた。そんな事にも気付かないほど、ショックが大きかったらしい。

「どうやらこの事件には………かなり、ややこしい裏がありそうやな?」

メノス・マクワイエの経歴の中にもう一つ、はやてには気になる記述があった。



同期入局者



レジアス・ゲイツ 准陸尉
……
………
ゼスト・グランガイツ 二等空士
……
………
…………
カイツ・ボルドー 准空尉





(これは……話、聞かんとあかんかな……?)







単純なロストロギア回収任務は、今は混迷を極める事態へと変わりつつあった。
下手をすれば、第二のJS事件になってしまうかもしれない。

はやては窓から見える霧の壁を見遣ると、その向こうで戦う古き鉄と、竜魔の忍の無事を祈った。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――






アリシア達と別れた連音と恭文は、ホテル区画から機関室への道を進もうとしていた。

クルー専用のドアを開けると、その先に広がるのは黄色い照明に彩られた異界。
《いますね……嫌な空気です》
「アルト、サーチは?」
《相変わらず利きません……センサー系は役立たずです》
「ま、それならそれで良いけどね……」
恭文はアルトアイゼンの柄に手を掛けると、慎重に足を踏み入れる。


その瞬間、薄暗い空間から、風が吹き付ける。
「―――ッ!!」
恭文は後ろ足を支点に、一瞬で体を入れ替える。半身を回すと同時にアルトアイゼンを抜刀した。
「ハァッ!!」
真っ向から刃を振り下ろすと、緑色の体液が飛び散った。
足元に落ちたのは、今までよりも一回り大きい蟲。両断され、ビクンビクンと蠢いている。
「早速か……嫌な感じだな〜」
《私は既に嫌ですけど何か?あぁ……汚れちゃった》
「あーもう、ちゃんと洗浄してもらうから!」
アルトを振るい、付いた体液を落とす。
「……取り合えず、ここには一匹しかいないようだ。先を急ごう」
連音は苦無を手にし、奥へと進む。恭文もその後に続いた。



薄暗い中を道なりに進んでいくと、連音はピタリと足を止めた。
天井の照明はチカチカと点滅を繰り返し、霧と合わせて視界は尚も悪い。

その向こう側に、連音は何かの気配を感じ取っていた。
(連音さん……どうしますか?)
気配に恭文も気付き、小声で問う。
(距離は約37m……とりあえず、打ってみるか)
(―――え?)
何を?と聞く前に、連音の腕が鋭く振られる。ヒュン、という風切音を残し、苦無が闇の向こうに飛翔した。





「――――――痛ぇッ!!」
「お、当たった」
魔力を込めていない苦無は刺さる事も無く、標的に命中した。
「今の声って……もしかして」
《多分、そうでしょうね》
向こうからの悲鳴を聞き、連音は結び付けておいた極小のワイヤーを引き、苦無を戻す。
クルクルと回転しながら苦無が戻ってきたのでキャッチすると、同時に闇を貫いて赤い影が躍り出た。
「―――オラァアアアアアアッ!!」
影は怒りと共に戦鎚を振り下ろす。が、連音はそれをヒョイと躱す。返す刀でニ撃目が振るわれるが、それも躱して背後を取った。
がら空きの脇に腕を差し込み、両腕をチキンウイングロックで固めて持ち上げる。
「ほい、ヴィータ捕獲っと」
「なぁッ!?て、テメェは連音っ!!何でこんな所にいんだよ!?」
「失礼な奴だな。せっかくお前らを助けに来たというのに……」
連音はやれやれといった風に首を振った。ヴィータを持ち上げたままで。
「人に物投げ付けといて言う台詞か!?クソッ!降ろしやがれッ!!」
ヴィータはじたばたと暴れるが、完全にホールドされていて抜け出す事が出来ない。

「ヴィータ、大丈夫か!?……っと、お前は……!」
そうこうしていると、もう一人が闇の向こうから現れた。片刃の魔剣を持った騎士、すなわちシグナムである。
「お久しぶりです、シグナムさん」
「久しぶりだな辰守……何時以来だ?」
「たしかビル占拠事件以来ですから……二年ぶりですかね?」
「そうか、もうそんなにもなるのか……ところで、どうしてここに?」

「お前ら、アタシを無視して普通に話してんじゃねーーーーッ!!」
《と、チキンウイングヴィータが叫んだ》
「アルトアイゼン!お前も変なナレーション入れんなッ!!後、チキンウイングヴィータって何だ!?」
《いえ、そのままの意味ですが?》
「アルト、ストップ。連音さんが絡んでると師匠の歯止めは利かなくなるんだから」
《あぁ、そうでしたね……いや、失敗失敗》
確信犯的に言うアルトアイゼン。恭文は深々と嘆息するのだった。




「――さて、改めて聞こう。何故、お前達がこの船に?」
仕切り直して、シグナムが尋ねる。
ヴィータを解放した直後、鉄鎚が振るわれたが、連音には掠りもしなかった事を加えておく。
「―――はやてから機動六課所属の二小隊、その救出を依頼された。現状はフォワードメンバー四名の確保を完了している」
連音の口調は既に冷徹な―――任務をこなす時のものに変わっている。
「いつもながら、流石だな」
「新人どもは無事か……良かった。なら後は、なのは達だけだな……よしっ!」
ヴィータが暗闇の向こうを睨むと、連音と恭文が頷いた。
「お前はさっさと帰れ」
「師匠、ゴーホーム」
《お帰りはあちらです、ご主人様》
「何だよテメーラッ!!なんでアタシだけ集中砲火なんだよ!?それと最後だけ何か違くねえか!?」
ツッコミの一斉攻撃を喰らい、憤慨するヴィータ。それを見て、連音は肩を竦めた。

「―――二人とも、消耗は軽くないだろう?」
「……ッ!こ、こんくらい……何ともねぇッ!!」
「そうは見えんがな?」
「うっ……」
連音の言葉にヴィータは言いよどむ。こういった物言いの時の連音に、ヴィータは言い勝った事が無い。
「っ……おい、シグナム!お前からも何か言えっ!!」
なので、ヴィータはシグナムに援護を求めた。

「……いや、消耗はかなりあるな」
「シグナムッ!?」
あっさりと肯定するシグナムに、ヴィータは驚く。
「気持ちは分かるが、落ち着け。ここで意地を張っても仕方あるまい」
「………」
渋々ながらヴィータは引き下がる。シグナムの言う通り、どれだけ意地を張っても無意味だ。
特にヴィータは、JS事件で消滅寸前までの深いダメージを負っていた。
本来なら、なのはと共にきちんと療養をしていなければならない筈なのだ。

「で、シグナム……状況は?」
「この先の機関室内に、テスタロッサ達が捕らわれている筈だ……」
「了解。ここから先は俺と恭文とで行く。二人は早急にこの船からの退避を―――ッ!!」
連音は突如として腕を振るう。虚空の闇に鉄の光が飛翔し、そこに潜むものを穿つ。

蟲が、いつの間にか現れていた。
「こいつら……あんだけぶっ潰したのにッ!?」
「まだ、出てくるか……!!」
ヴィータとシグナムがデバイスを構える。
「どうやら、この船自体がヤツの腹の中……という事らしいな?」
「それってどういう……いや、もう分かりました」
連音と恭文が背を合わせ、刃の柄を握る。

壁を走るパイプが割れ、そこには巨大な根が走っている。
床も所々から根が蠢き、這い出てきている。
その開けられた隙間から、蟲が次々に這い出してきていた。

「この状況……行くも戻るも同じだな……?」
「嬉しそうだな、ヴィータ?」
「ヘッ、んな訳―――ねえだろぉが!!」
ヴィータが先陣を切って動く。それを追い、シグナムの炎が根と蟲を焼き払っていく。
「師匠!?シグナムさん!!」
「やれやれ。あいつらに何かあったら、俺の報酬が無くなるんだがな………行くぞ、恭文!!」
「ハイッ!!」
群がる蟲を薙ぎ払い、連音達も走り出した。







――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――






はやての前に展開された空間モニター。そこには現 地上部隊最高責任者カイツ・ボルドー少将が映っていた。
『私に直接緊急の報告とは……一体、何だ?』
「ボルドー少将……先程、船内で行方不明になっていたフォワードメンバー四名の救出が完了しました。
そして、ロストロギアの不法所持、及び使用の疑いである人物が浮上しました」
『ほう……?』
「その人物の名前は………メノス・マクワイエ。元時空管理局地上本部 技術開発部主任であった人物です」
『―――ッ!?』
その名を聞いた瞬間、カイツに動揺の色が見えた。
「この人物について、少将にお聞きしたいのですが?彼が、何故局を辞めて失踪したのか……」
『………』
「……少将、貴方は何かを隠していますね?」
はやての視線が画面越しのカイツに突き刺さる。
『…………本当に彼なのか?』
「部下が目撃しています。間違いありません」
『そうか………彼はそこまで……』
はやてがキッパリと言い切ると、カイツは両手を組んで、顔を覆うように伏せた。
実際の所は怪しい部分は多い。三十年前と変わらない姿のメノスを目撃したのだ。
だが、現段階ではその事を報告する意味は無い。
姿の変わらない訳。ロストロギアの正体。それを使って何をしようとしているのか。その謎を解く鍵を、はやては求めているのだ。

暫く顔を伏せたままでいたカイツが、閉ざしていた口を開いた。
『別に隠している訳では無い。わざわざ、報告する必要も無い程度の事……そう思っていたのだ』
「何が、あったんですか……?」
『彼の経歴は……当然、調べたのだろう?』
「はい。とても優秀なデバイスマイスターで、局に多くの貢献をしたと」
はやてが横面のモニターに視線を向けつつ言うと、カイツは首を振って語り始めた。

『彼のマイスターとしての貢献は、彼の真に望んだ事ではない……彼が真に望んだのは、地上部隊の戦力増強だったのだから』
「………」
『当時の地上は今とは比べ物にならない程、酷い状況だった……。横行するテロ。それによって日々失われていく命。
それの対応に休む間も無く追われ……同期として入局した仲間も、ある者は海に引き抜かれ、ある者は殉職し、ある者は局を去り……次々に姿を消していった』
「っ………」
カイツの重々しい独白に、はやては胸が締め付けられる思いだった。
自分の仲間、友人、家族は一人を除き、幸いにして皆健在であり、それを失う事など想像するだけで恐ろしい。

今更ながら、レジアス・ゲイツがあれだけ頑なだった理由が、本当に理解できた気がした。
彼を突き動かしていたのは失った者への想い。守りたいという強過ぎる願い。だが、それだけではなかったのだ。


この世の地獄の中で、魔力を持たない自分の無力さ、戦えない悔しさ―――――すなわち憤怒。

もしも人造魔導師技術が表立って確立したものだったならば、レジアスは喜んでその身を捧げていただろう。



『そんな中でメノスは、デバイスプログラムを始めとして……地上の部隊員が一人でも多く無事に帰ってこられるようにと、様々な技術を開発していった。
武装、装備、技術……心血を注ぎ創り上げたそれらの物は、しかしほぼ全てが、本局からの介入によって配備には至らなかった。
その間にも多くの市民、部隊員が死に………メノスは己の無力と管理局の考え方に絶望し、やがて姿を消した……』
「……メノス・マクワイエがロストロギアを使って何をしようとしているのか、心当たりは?」
『彼があの時と同じまま……クラナガンを、部隊員を守る事を考えているのならば、それを成そうとする筈だ。
だが、それはきっと……ミッドチルダに多大な危機をもたらす事になる……!彼がクラナガンに到着する前に、止めなければならない……ッ!』
「っ……!?ちょっと待って下さい!!まだ約束までの時間が……!!」
カイツが新たにモニターを展開させた事に気が付き、はやてが叫ぶ。
『残念だが……彼が事態に関わっている以上、そうも言っていられない。八神ニ佐は彼の……メノスの恐ろしさを知らないのだ』
「そんな……ッ!?」
はやてが更に食い下がろうとすると、突如として警報が鳴り響いた。

『八神部隊長!!』
「シャーリー!?一体、何があったんや!?」
『結界内で、強大な魔力反応確認しました!魔力パターン……なのはさんと、フェイトさんですッ!!』
「何やてぇ!?」







――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――










「―――っ!?ダァッ!?」
突如として船が大きく揺れ動き、ヴィータは足を取られ転んでしまう。
直ぐに立ち上がろうとするが、その上に無数の骸骨が襲い掛かってくる。
「グァッ!?離せ、離しやがれぇっ!!」
もがくヴィータだったが、思うように力が出せない。そうこうしている間に骸骨達はヴィータに次々に圧し掛かっていく。
「ッ!!痛ッ!!」
ズキリと腕に痛みが走る。骸骨の一体がヴィータに噛み付いたのだ。

「ヴィータッ!ハァアアアッ!!」
駆けつけたシグナムが炎と共に一閃し、骸骨の群れを薙ぎ払う。

燃え上がり砕け散った骸骨を払い、シグナムはヴィータを引き上げる。
「大丈夫か、ヴィータ?」
「あぁ、何とか……クソ、何だよこの揺れは……わわッ!?」
再び大きく船が揺れる。まるで嵐に巻き込まれたかのようだ。ギシギシと周囲から音が響く。
「まさか……崩れるのか?外では何が起きている……!?」
「んな事より、急がねえと……ッ!?」
突如として、ヴィータが膝を着いた。そのまま両手を床に這わせる。
「如何した、ヴィータ!?」
シグナムがその背に手を掛けて名を呼ぶが、ヴィータの耳には全く届かない。

(何だ……これ………!?)

――戦え、振るえ、その力を――

(声……?)

――我の為に捧げよ、その身を――

(ふっざけんじゃねぇ……!!)

――我に捧げよ、その魔導を――

(―――ッ!?)

その言葉が響いた瞬間、ヴィータの脳裏にかつての記憶が甦った。
闇の書の守護騎士として、破壊と殺戮と蒐集に明け暮れた日々の記憶が。

(止めろ……)

――奪え、殺せ、捧げよ――

(止めろ、止めろ……!)

――我に、全てを捧げよ――

(止めろぉおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!)










「―――ヴィータッ!!」
「……大丈夫、問題ねぇ………」
シグナムは何度と無く名を呼び続けると、ヴィータはノロノロと立ち上がった。
「やはり消耗が激しいようだな。ゆりかごでのダメージも回復しきっていまい……ここは私が前衛に出る。お前は後衛からフォローを頼む」
「あぁ……分かった」
まだ揺れる船内。しかし敵は奥から更に迫って来ていた。
シグナムはヴィータの前に出ると、レヴァンティンを正眼に構えた。

そして後方ではヴィータがグラーフアイゼンを持ち直すと、

「……ッ!?」

――――――シグナム目掛けて振り下ろした。



“瞬刹”

――――ギィィィィィンッ!!



二つはぶつかり合い、火花を散らす。


グラーフアイゼンがシグナムに当たる直前、その間に連音は割って入った。

琥光の刀身が鉄槌の一撃を受け止め、ギリギリと火花を散らせる。

「全く……血迷ったか、ヴィータ?」
「グゥウウゥウウウウ………ッ!!」
「―――どうやら、本気で血迷ったようだな」
ヴィータの目を見て、連音は舌打ちした。青い瞳に理知の光は無く、代わりに狂った獣の濁った色に染まっていた。
「―――グァアアアアアアアアアアアッ!!」
強引にアイゼンを振り抜くヴィータ。連音は一歩下がってそれを躱すと、琥光を横薙ぎに振るった。

ヴィータの影から襲い掛かってきた骸骨を斬り捨てる。
「ガァアアアアアアアアアッ!!」
その隙を狙ったか、ヴィータが獣のように吠え、アイゼンを振るう。
「おっと」
空振りした一撃は、壁にぶち当たると、容易くそれを粉砕した。

鉄槌の騎士が、本気で殺す為に振るう一撃。
当たれば当然、徒では済まない。


―――――当たれば、の話だが。

「連音さん、大丈夫ですか!?」
恭文が、骸骨の群れを斬り捨てながら尋ねてくる。
「心配は要らない。ヴィータの相手は俺がする、お前はシグナムに付け」
連音の言葉に頷くが早いか、恭文は脇を抜けてシグナムの所まで走る。そして、そのまま骸骨と蟲の群れとの戦闘に入った。


「さて、こっちも始めるか……」
連音は琥光を鞘に納め、そのまま逆手で構えを取る。ヴィータは殺気を漲らせたまま鉄槌を握り締めている。
(妙だな……)
その姿に、連音は違和感を覚えずにはいられなかった。

グラーフアイゼンはアームドデバイスではあるが、インテリジェントデバイスの様に、自己の意思を持っている。
それなのに、主の凶行に対して何も反応しないものだろうか。

「流導眼、解放……ッ!」
連音の右目に極星の光が宿る。その瞳に映るのは、ヴィータとアイゼンに取り巻く黒い影。
全ての力、その流れを詠む輝きが指し示すのは、鉄槌の騎士を縛る呪い。
それは全身をグルリと囲み、鉄槌にも絡み付いていた。
「やれやれ……仕方ない」
連音は琥光を納めると両の掌を開き、タン!と、足で床を打つ。
「悪鬼必滅、神気発勝!」
掌を打ち合わせると、その音が波紋となって広がっていく。
「ウガァアアアアアアアアアアアアアッ!!」
一際吼え猛り、ヴィータが襲い掛かる。力任せに振り回されるアイゼンが大気を爆ぜさせる。
一撃を外せば、その勢いのまま体を回転させてアイゼンを振るった。
それらを紙一重で見切り、連音は一撃を見舞う瞬間を狙う。
「―――ァアアアアアアアアアッ!!」
「破邪顕正……ッ!」
ヴィータが大きくアイゼンを振り上げた瞬間、連音は一気に踏み込みを掛ける。
腕を弾き、がら空きの懐に飛び込むと掌底を放つ。
「―――神気発勁!!」

「グッ!?ガァアッ!!」
波紋が奔り、ヴィータが壁に叩きつけられる。
剥き出しのパイプに減り込むヴィータの体から、黒い物が抜け落ちていく。

それを見届けると、連音は流導眼を解除して大きく嘆息した。



丁度向こうも片付いたようで、恭文が駆け寄って来た。
「連音さん、師匠は!?」
「一応、何とかなったと思うが……念の為、縛っとくか」
連音は言うが早いか、太めの鋼糸を取り出すとヴィータを縛り上げた。
その様子が若干楽しそうに見えるのは、きっと気のせいではない。鼻歌が少しばかし聞こえるからだ。

「……一体、ヴィータは如何したんだ?」
「恐らくは呪術的な力……呪いみたいなヤツに乗っ取られたんだろう」
シグナムの問い掛けに、連音は簡潔に答えた。
「呪い、ですか……?」
《そういえば我々も、そういった相手と戦った事がありましたね》
「あぁ、そう言えばあったね……」
「何だ?遺跡でも荒らして、墓守か何かにでも襲われたのか?」
「それはうちの先生と、兄姉弟子です!!僕は関係ありませんっ!!昔、人を催眠で操る妖刀があったんですよ」
恭文はかつて美由希を操り、襲ってきた妖刀――神無月の事を思い出した。
波紋による催眠で、対象の自我を支配下に置く下劣な存在、神無月。

呪い――呪術的な力としては、あちらの方が格上である事は間違いない。
何故なら、その時の美由希は操られていたにも拘らず御神流の技を使っていた。が、このヴィータはただ、力任せに襲ってきただけだ。
美由希の時と同じだったら、こうもあっさりと制圧する事は出来なかっただろう。


「とにかく、神気を打ち込んだから大丈夫だろうが……これではヴィータは動かせんな」
《……物理的にも無理でしょうね。一部の隙も見当たらない拘束術ですから》
「うん。これ、師匠が正気に返ったら……マジギレして暴れ回って、三日は引き篭もるね……」
恭文が近い時間、必ず訪れるであろう事態を想像し、渋い顔をした。
《………よし、キッチリ映像を残しておきましょう》
「残すなッ!!つーか、何で弄るネタを確保しようとかしてるんだッ!?」
《良いじゃないですか。はやてさんとか喜びますよ?》
「タヌキを喜ばせる気は更々無い」
「蒼凪、主はやてをタヌキと呼ぶな」
「いや実際、あれはタヌキで良いと思うんです。ゲンヤさんだって、チビダヌキと言ってますし。だったら……連音さんは、どう思いますか?」
「………俺の知る八神はやては既に死んだ」
「「死亡認識ッ!?」」
《全く、何を皆して遊んでいるんですか?もう時間は残されていないんですよ?》
「お前が率先して、遊んでるんだろうがぁあああああああッ!!」


と、恭文がツッコミの声を上げた瞬間―――それは起こった。




《マスターッ!》
《主!!》
デバイスの警鐘に素早く反応し、連音と恭文がシールドを多重展開させる。
シグナムもヴィータを抱えるとすぐさま二人の後ろに立ち、シールドを展開させた。

「「「ッ――――!!」」」
桜色の閃光が見えた瞬間、襲ってきたのは凄まじい圧力。
通路を貫き、船上まで撃ち抜く魔力の嵐に、三人は必死に耐えた。


やがてそれも治まり、三人は揃って安堵の溜め息を漏らした。
「痛つ……何よ、今の凄く見慣れた魔力砲は?」
「……どう考えても、あいつの砲撃だろう?」
ビリビリと痺れる手を振りつつ、二人は天井を見上げた。

「「いや〜、良い天気だ」」
「どこがだッ!?」
「嫌だなぁ。僕達の心は、何時だって青空レストランですよ?」
「全くだ。俺も何時だって、名も無き星空に自分だけの星座を描いているぞ?」
二人はシグナムのツッコミを真っ向から否定した。
船の底近い位置にいるのに、霧に包まれた空が何故か見える。そんな現実を認めたくないのだ。

などと現実逃避をしていると、今度は船全体が地鳴りの様な音を鳴らし始め、細かく、しかし激しい揺れが起こり出した。
《これは……不味いですね》
「船が……崩れる!?あぁ、もう!あの砲撃バカ、何やってくれてんのさ!?」
恭文の中では、これがさっきの砲撃によるものだと完全に確定しているらしく、良い歳してツインテールなんて髪型の友人に文句を言い放った。

「なのはへの文句は後でじっくり言うとして……ちょうど良い、そこの穴から外に出るぞ」
既に天板や張り巡らされていたパイプやらが、バラバラと崩れ落ち始めている。

三人は砲撃で開けられた穴から船外に脱出すると、驚愕の光景を目にした。


「な、何だあれっ!?」
恭文が素っ頓狂な声を上げた。船の機関室があったであろう場所には、それはもう見事な木が生えていたのだ。

それだけではない。
その木の下―――甲板部では、幾つもの閃光が奔っていた。


「あれは……レガシィ・ハウンドの連中と………ッ!?」
「嘘……まさか、あれって!?」
「どういう事だ……!?」


甲板でレガシィ・ハウンドのエージェント戦っている存在を見て、三人は驚きを隠せなかった。

「なのはと……フェイト!?」





「その胸、三枚に下ろしてやるぅうううううううううううううっ!!」


「何だ、あの叫びは?」
「あっ、あいつは!?クソッ、フェイトの胸を三枚に下ろすとか、ふざけた事を!!」
《あなた、気にする所が違うでしょう?》
「うぉおおおおおおおおおっ!!フェイトの胸は僕が守るッ!!」
アルトアイゼンのツッコミを全く聞かず、恭文は矢の様に飛び出していった。

連音とシグナムも、すぐにその後を追った。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




Side ローラ




あーもう!!何だって、こんな面倒臭い事になってんのよ!?
“魔樹”がもう“ガーディアン”見つけてるとか、あり得ないでしょ!?

しかもそれが、管理局若手エース二人とか……何、アッサリとっ捕まってんのよ!?


つーか、こっちはご馳走逃した超不完全燃焼でイライラしまくってるってのに、それに拍車を掛けてくれるコイツラは何なのよ!?

「オヤジ、何とかしてよ!?」
「いやいや……流石に、これは予想外でしたからね……」
そう言いつつ、クラークは敵を睨む。その表情には余裕が無い。


クラークが戦った相手はヤスフミが言っていた通り、本気で強敵だったらしい。合流した時には結構消耗していた。


「現状の戦力での対処は困難。撤退を進言します」
「―――うっさい!!ここまで来といて、尻尾巻ける訳無いでしょ!!」
アタシは甲板で合流した、ゴスロリチックなBJのエージェント―――エルザに怒鳴り返した。

意地を張る意味は無い。元々、これはいつもの仕事とは違うんだ。

管理局の連中が船をぶっ飛ばすって時点で、折を見て退くようにと、ブリーフィングでは言われた。

それにエルザがこう言うって事は、本気でヤバイのも分かる。


エルザの能力はサポートに特化している。この通信やセンサーが利かない場所で通信が行えるのも、彼女のお蔭だ。

「でも、だからって―――」

アタシはガーディアンの向こう、腕を組んで含んだ笑いを浮かべている男を睨みつける。


「―――この業界、舐められたら終わりなのよ!!アムッ!!」
《了解。ド派手に行こうか!》
アムがカートリッジを爆発させる。そしてアタシは、黒のガーディアンを睨みつけた。
気に入らない。性格的に白の方も気に入らないが、こっちは数段気に入らない。


そう、あの胸部に付いているデカイ物が。

「その胸、三枚に下ろしてやるぅうううううううううううううっ!!」
《Lady,嫉妬は見苦しいぞ!?》

うっさい!!こちとら本気で怒っとんじゃあっ!!




「―――ふっ」
「ッ!?鼻で笑いやがったぁああああああああああッ!!」


もうあれだ、三枚下ろしどころか微塵切りにしてやる!!



「どりゃぁああああああああッ!!」
「うわぁッ!?」
そう決意したアタシの前に、あいつが飛び込んできた!?




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




Side Out





恭文が目の前に現れた事で、ローラは驚きで足を止めた。
「お前……ヤスフミ・アオナギ!?何のつもりよ!?」
「何のつもりもあるか!!お前、フェイトに何をしようとしてくれてんの!?」
恭文がアルトアイゼンを突きつけて睨みつける。
「アタシはねぇ……自分より胸のデカイ奴が大嫌いなのよ!!」
ローラがフェイトを指差して叫ぶ。具体的にはその一部分を。
《Lady,それじゃ、人類の殆どを嫌ってる事になるぞ?》
「どういう意味よ、それは!?」

《なるほど。うちのマスターが、自分より身長の高い人に嫉妬しているのと同じですね?》
「何を人聞きの悪い事言ってんの!?僕はそんな事全然――」
《―――無いと?》
「いや……いやいやッ!?ここまで酷くないって!!」

「――――ランサー、セット」
デバイスに的確すぎるツッコミを喰らい狼狽する二人に向けて、金色の刃が向けられる。
「「――ッ!!」」
「ファイア」
二人が動くと同時に、ランサーが一斉発射される。

何十という金色の刃が降り注ぐ中、恭文達はギリギリでそれを躱し、防ぐ。
「ちょっ……!冗談にしてもキツくない!?」
恭文がランサーを撃った人物――フェイトに食って掛かる。と、ここで漸く恭文は、フェイトの様子が何時もと違う事に気が付いた。

フェイトの紅玉の瞳には光が無く、纏ったBJも見慣れない姿へと変わっていた。

白のマントを羽織ながら、下は体にピッタリと張り付いた黒のインナー。
足と腕に装甲が付いただけのそれは、言うなればインパルスフォームとソニックフォームの中間―――ハーフ・ソニックフォームと言えばピッタリだろう。
ただし全身には、骨の様な白いアーマーが張り付くように展開されている。

更に、バルディッシュもその姿を凶悪に変えていた。
基本的なシルエットはそのままだが、斧刃の部分は更に大きく、鋭くなっている。
柄頭にはニードル、斧刃の逆には細めの刃が、鋸の様に配置されている。

《……まさかの劇場版仕様ですか》
アルトアイゼンが良く分からない事を言うが、恭文はそれ処ではなかった。

フェイトが何故、自分に攻撃をしてきたのか。しかも殺傷指定の魔法攻撃で。
「フェイト……一体、どうしたのさ!?」



「恭文君さぁ……こっちの事も、忘れないでくれないかなぁ〜ッ!!」
「―――ッ!?」
悪意に満ちた声に、恭文は反射的に動いていた。飛び退いた眼前を掠めるのは桜色の砲撃。

甲板が爆砕され、パラパラと破片が舞い落ちる中、恭文はもう一人を見遣る。


なのはの姿もまた、大きく変わっていた。
エクシードモード状態のBJや顔に、骨に似たアーマーが加わり、やはり瞳に光が無い。

そしてレイジングハートも、外装に幾つものパーツが加わり、大型化されている。
特に砲撃形態のバスターはトリガーが付き、その砲身をまるで二又槍の如く変えていた。


《こちらも劇場版仕様ですか……あれは恐ろし過ぎますね》
またもアルトアイゼンが意味不明な事を言うが、恭文はやはりそれ処ではない。
「なのは……ついに、本当の魔王になったか」
「だから、魔王じゃないって……言ってるよねぇッ!?」
再びの砲撃。しかしそれは恭文を逸れて、甲板を粉砕する。爆風が吹き荒れて恭文を叩いた。

「……これ、どういう事よ?」
「どういう事も何も、あんたのお仲間は“ガーディアン”にされたのよ……あいつにね」
ローラが指差す先にいるのは、黒のタキシードを着た男。
「メノス・マクワイエ……魔樹の宿主よ。どうやら管理局ご自慢のエースさんは、アイツの御眼鏡に適った様よ?」
「……なるほど。じゃあ、あいつを潰せばフェイトは元に戻る訳だ」
「そう上手く行かないから……困ってるのよ」
ローラが言うより早く、なのはとフェイトがメノスとの射線上を抑える。

「ガーディアンはあいつの忠実な僕。しかも、魔樹から強大な力を与えられるのよ」
「面倒臭いな。何処のチートだよ、それ?」

「なら、あいつらの相手は俺達がしよう」
「――っ?」
「連音さん!!」
いきなり現れた相手に、ローラは驚き、恭文はその名を呼んだ。

「あなたは先程の……?」
「俺達の目的はあそこの二人だ。後は、お前らの好きにすれば良い」
連音がガーディアンとなった二人を見遣りながら言うと、クラークは「ふむ」と考える素振りを見せた。

「我々の目的は魔樹の果実……その“破壊”ですから、その提案は魅力的ですね。ですが良いのですか?」
「何がだ?」
「ロストロギアを、我々のような犯罪者に任せてしまっても?」
「……それは俺の心配する事ではない。俺の仕事は、あくまでも『機動六課前線メンバーの救出』だからな」
「なるほど……では、ガーディアンの相手はお願いしましょう」
「ちょっと!クラークッ!?」
あっさりと決まってしまった話に、ローザが声を上げる。
「交渉成立。恭文も良いな?」
連音が言うと、恭文はコクリと頷いた。ローラと入れ替わるように、連音は恭文の隣まで移動した。

「シグナムさんは?」
「ヴィータを抱えたままでは戦えないからな……退いてもらった」
「じゃあ、後は……」
「……俺達が仕事をするだけだ」
二人は幼馴染であり、仲間であり、友人であり、最悪の敵となった二人に対峙する。



「クラーク、局の人間を信用する気!?」
「利害が一致しただけです、問題はありません……それに」
クラークは拳を握り固め、メノスと魔樹を睨む。
「消耗している分を差し引いて、これで五分と言えるでしょう?」
「……はぁ、仕方無いか。じゃあ、さっさとぶっ潰して、お家に帰るとしましょうかしら!?」
ローラも戦斧を握る手に力を込める。

《Missエルザ、サポートをお願いします》
《Ladyの面倒、ちゃんと見てくれよ?》
「了解。全力でサポート及び、面倒を見ます」
エルザが大きく下がり、幾つものモニターを展開させた。


「アム……あんた、後で覚悟しときなさいよ?」
《ノーセンキューって事で》





「……マスター、ご命令を」
「個人的には、ドカーンッ!と砲撃で一気に粉砕するのがお勧めかな?」
フェイトとなのはに問われ、メノスは首を振った。
「それも良いかも知れないですが……あの二人、中々の資質を持っているようですね……非殺傷で撃墜して下さい」
「……了解」
「つまんないの〜」
フェイトは表情を変えず、なのははさもつまらなそうに返事を返す。



恭文と連音、なのはとフェイトが向かい合う。

「恭文、お前はフェイトを相手しろ」
「でも、連音さんの力なら、フェイトの方が戦い易くないですか?」
「確かにな。だが、それでもフェイトを守るのは……お前の誓いだったんじゃないか?」
「え……ッ!?」
恭文は連音の言葉に、目を見開いて驚いた。
何故その事を連音が知っているのか。皆目、見当が付かなかったからだ。

「そ、それは……そうですけど」
「なら、キッチリと通せ。誰が何と言おうと……絶対に譲るな」
「………そうですね」
連音がそう言うと、恭文は何故か笑ってしまった。

連音はその出自故か、他の面子のように恭文の考え方を否定したりしない。


「じゃあ、キッチリ通します!!」
だからだろうか、恭文はこの状況にあっても、自分らしさを通せる気がした。

恭文はいきなりベルト状の物を取り出した。
それを腰に巻きつけると、バックルにカチリと金具が嵌る。

そして更に取り出したのは、表面に剣を持った巨人が描かれた銀色のカード。

それをバックルに、スライドする様にタッチさせる。
《Standby Ready》
そして、声高らかに叫ぶ。
「変身ッ!!」

《Riese Form》

青い光がカードから放たれ、恭文の姿を変えていく。

それは誓いの姿。

それは通すべき信念を形にした物。


《「僕達……」》


翻る白きマントは、気高き騎士の翼。



《「ここでも参上ッ!!」》



古き鉄の巨人、リーゼフォーム。


フェイトの騎士となる。そう誓った古き鉄の姿。








「さてと……なのは、お前の相手は俺だ。ま、お前としては不服だろうがな?」
「そうだねぇ〜私的には……でも、連君でも良いかな?」
なのははそう言って笑うと、レイジングハートをブゥン!と、大きく振るった。

「だって、連君の悲鳴とか聞いた事無いし………アハハ、想像しただけでゾクゾクするよ……!」
なのはは連音の苦悶の声を想像し、愉悦に体を震わせる。
「―――今のお前、まるで【闇統べる王】みたいだな?」
「う〜ん……そうかなぁ?」
「あぁ、口調とかは違うが……あの傲慢さにそっくりだ」
連音の、なのはを見る瞳が細まる。



かつて、闇の書事件の余波被害として起こった、闇の欠片事件。

自分達の過去と、弱さと向かい合う事となったその事件で現れた存在――マテリアル。

その内の一体、はやての姿を映した存在が【闇統べる王】であった。


傲慢にして、不遜。今のなのはは、それととても良く似ていた。



「じゃあ、折角だし…………潰してやる、塵芥がッ!!……な〜んてね♪」
なのはが冗談めかして、レイジングハートを構える。

「36点。物真似なら、もう少し練習しておくんだな……」
連音は琥光を、眼前に据える様に構えた。




















後書き。という名の三次創作







アリシア「今回は如何でしたでしょうか、アリシア・テスタロッサです!」

連音「辰守連音です。尚、アルトアイゼンは今回、ウサギボディのメンテナンスでお休みとなっています」


(二人、ぺこりとお辞儀をする)


アリシア「いよいよ佳境の影とまと!現れたのは、なのはちゃんとフェイト!!」

連音「最悪の敵を前に、俺と恭文の決戦が始まる訳だが……展開としては、良くある展開なのに実は余り無いのが、味方が敵になるという話だな」

アリシア「確かに、なのはの話だと敵が仲間になっても、仲間が敵になる事って無いよね〜?」

連音「ま、友情とか家族とか【絆】を中心にしている物語だからな。それも仕方ないが」




アリシア「さて、今回もゲストを呼んでおります」

連音「……今度は誰を呼んだんだ?」


(竜魔の忍、何故か凄く嫌な予感を覚える)


アリシア「今回のゲストはこの二人で〜すっ!!」


(スポットライトが点灯し、現れたのは二人の女性。それを見た瞬間、竜魔の忍は背を向けて逃げようとするが、金色の女神は即行で捕らえる)


アリシア「では、自己紹介をどうぞ〜!」

プレシア「……プレシア・テスタロッサよ」

リニス「その使い魔、リニスと申します」


(紫電の魔女は慣れていないのか、戸惑いながら、山猫の使い魔は恭しく、共に頭を下げる)


アリシア「という事で、劇場版なのは大ヒット記念!!お母さんとリニスにきていただきました〜ッ!!パチパチ〜ッ!!」

連音「死者を呼ぶなッ!!自由過ぎるだろうがッ!?」

アリシア「ツラネ、私も一応死者だって……忘れてない?」

連音「………塩で良いかな?」

アリシア「祓おうとしてる!?」


(竜魔の忍と金色の女神がいつものノリでやっていると、突如として雷光が奔った)


連音「どわッ!?」

プレシア「時の庭園では気付く余裕も無かったけれど……あなた、随分と家のアリシアと仲が良いようね……?」

連音「別に、そうでもないと思うが……?」

アリシア「そうだよ。仲が良いとかってレベルじゃないもの」

リニス「もう、プレシア。アリシアにだって、好きな人の一人位います……って、うわぁっ!?」


(山猫の使い魔の眼前に落雷。思わず飛び退く)


アリシア「ちょ、お母さん!?」

リニス「あ、危ないじゃないですか!?」


(二人が驚きの声を上げるが、紫電の魔女の耳には届いていない)


プレシア「確か、辰守連音だったわね……」

連音「あ、あぁ……」


(紫電の魔女、何処からかデバイスを取り出す)


プレシア「アリシアが欲しければ、この私を倒してからにしなさいッ!!」

連音「知るかぁああああああああああああっ!!」

アリシア「ツラネ、頑張って〜!!」

リニス「ファイトです!愛は勝ち取るものですよ!?」

連音「煽るなぁあああああああああああああああああああっ!!」


(竜魔の忍、魂の叫び。しかし、紫電の魔女は完全にお母さ魔モード)


プレシア「待ちなさい、この泥棒猫っ!!」

連音「それ、女に使う言葉だろ!?」


(竜魔の忍、逃走。紫電の魔女、追撃。スタジオを飛び出し彼方に雷鳴が響く。尚、修繕費はクロスフォード財団に請求されます)


アリシア「さて、お母さんが行っちゃった所で……劇場版の話でもしようか?」

リニス「では、お茶を入れますね」


(そう言うと、山猫の使い魔は何処からかティーセットを取り出す。慣れた手つきで紅茶を入れる)


アリシア「う〜ん、良い香り。私、リニスの淹れてくれたお茶って、初めて飲むんだよね〜」

リニス「私が生まれた時にはもう、アリシアは死んでいましたからねぇ〜」

アリシア「お母さんとフェイトは良く飲んでたから、羨ましかったのよね〜♪」


(ブラックな内容なのに、ほのぼのとお茶を飲む二人。ちなみに雷鳴は継続中)


リニス「では、劇場版のお話でもしましょうか。と言っても、ネタバレしてしまわない程度ですけど」

アリシア「私がリニスと一緒の頃は……まだ、普通の山猫だったよね」

リニス「えぇ。その頃の事は覚えていませんが……どんなだったですか、私は?」

アリシア「お母さん曰く、図々しくて人の都合なんか考えない奴だって。
私はずっと一緒だったから気付かなかったけど……お母さんにはそう見えたのかしら?」

リニス「あ〜、何か聞いた事を後悔してきました……」

アリシア「まぁまぁ。ところで、バルディッシュってリニスが作ったでしょ?」

リニス「はい。私の代わりにフェイトを守ってくれる力……斧にして槍、そして閃光の刃。
それがバルディッシュです」

アリシア「それで気になってたんだけど……斧や槍はまぁ良いとして……なんで鎌なの?」

リニス「フェイトのスタイルを考えると、あれがベストだったんです」

アリシア「ほう?」


(金色の女神、紅茶を一啜り。山猫の使い魔、徐々にヒートアップ


リニス「基本、フェイトのスタイルは一撃離脱。スピードを基本としている為、威力が欠しくなりがちです。
だからこそ、一撃の威力を高めた魔力刃、サイズフォームなんです!」

アリシア「なるほど〜」

リニス「更にッ!直線型魔法の多いフェイトにとって、アークセイバーの独特の軌道は、高い性能を発揮!
更に更に!後のスペックアップにも対応した構造は、カートリッジシステムやザンバーフォーム、ライオットフォームでも明らか!!
バルディッシュこそ、私の……いえ、インテリジェントデバイスの最高傑作だと断言したいと思いますッ!!」


(山猫の使い魔、エキサイトし絶叫。とても劇場版と同一人物とは思えない)


アリシア「で、劇場版の話だけど」

リニス「なかった事にされた!?」



(金色の女神、恐ろしいスルー力を発揮。話を振っておいて何たる外道)


リニス「―――とにかく、フェイトに良い友達や、新しい家族ができて、幸せを見つけてくれた事を良かったと思います」

アリシア「そうだね。フェイトはもう、心配要らないかな?」

リニス「そうかも知れませんね」


(金色の女神、山猫の使い魔、互いに微笑み合う。と、スタジオのドアが弾かれたように開かれた)


連音「だーッ!!疲れたあッ!!」

プレシア「ムーッ!ウーッ!!」


(げんなりしてスタジオに帰ってきた龍馬の忍、所々焦げている。その肩には簀巻きにされた紫電の魔女が担がれている。
猿轡を噛まされ、喋れないまでもモガモガと努力をする)


アリシア「お帰り〜。さっすが連音、お母さんに勝ったのね!?」

リニス「素晴らしいです!流石はアリシアが見初めた方ですね!!」

連音「俺は何もしてないけどな。エキサイトして大暴れして、酸欠で倒れた所を縛り上げただけだ」

アリシア「……お母さん」

リニス「プレシア、体力ない上に運動不足なのに暴れるから……」

連音「……それをやらせたお前らは何なんだ?」


(龍馬の忍が言うと、二人は揃って苦笑い)


連音「とりあえず、これは端に転がしておこう」


(竜魔の忍、紫電の魔女をスタジオの隅っこに下ろす。紫電の魔女、芋虫のようにモゾモゾと動くが、キッチリ縛り上げられているので、どうにもならない)


連音「で、何の話だ?」

アリシア「うん、シャドウダンサー劇場版仕様について、ちょっとね?」

リニス「そんな話、全然してませんよッ!?」

連音「こいつは、こういう奴なんだ」


(山猫の使い魔、此処に至って漸く、金色の女神のフリーダムッぷりを理解した)







〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






それは、もう一つの出会いの物語。



偶然か必然か。異世界で巡り出会った、夜に踊る者と夜に彷徨う者。





「貴様は……管理局の人間か!?」
「管理局だと……?そんな甘い連中と一緒にされるとはな……不愉快だ」


心に深い闇を抱く少年――――辰守連音。



『あなた……誰?』
「残留思念体……!?これほどにハッキリと自我を保っているとは……」


光に記憶を奪われた少女――――アリシア。






『凄い!これが管理外世界の生き物なの!?』
「アホか!?これは……ロストロギアの影響で異形化しているんだ!!」



立ち向かうは、世界を滅ぼす禁忌の遺産―――ジュエルシード



「ジュエルシード、こちらに渡して下さい……」
「お前は……っ!?」
『わたしと、同じ顔……!?』


それを狙い、襲い掛かる金色の閃光―――フェイト・テスタロッサ。



「あなたは……どうしてジュエルシードを集めるの!?」
「この世界の脅威を排除するのが俺の使命……邪魔をするなら、叩き潰すぞ?」


そして、星を抱き、空を舞う少女―――高町なのは。




『わたし……あの子の事が凄く気になる』
「フェイトとかいう奴の事か……?」
『あの子の事を考えると………胸が苦しくなる……放っておけないんだ』



ざわめく心。しかし、戦いは激化していく。



「海に魔力流だと!?自殺でもする気か!?」
『お願い、ツラネ……あの子を守って!!』
「言われなくても、そうする!!」



嵐の海に集う、強き心の子供達。



「何だ、これは……!?」
「これって……一体!?」


「ママ……ッ!?」「母さん……ッ!?」



狂気の紫電が降り注ぐ時、少女の記憶は甦る。

そして、愛も、優しさも、悲しみも、全ては魔女の城―――時の庭園に収束する。






「お前が、プレシア・テスタロッサか………」
「何度か、あの失敗作の邪魔をした子ね……一人で此処まで来るなんて、中々の腕ね……何者なの?」
「―――只のメッセンジャーさ。不器用過ぎる馬鹿な母親に、娘からの拳骨をくれてやる為のな!!」






その手の刃は切り裂き結ぶ。過去と、未来と、真実を。






「―――見せてやるよ。お望みの『アルハザードの奇跡』ってヤツを」








シャドウダンサー MOVIE 1st EDITION









〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






アリシア「――と、言う事でどう?」

リニス「どうと聞かれましても……」

連音「劇場公開してまだ一ヶ月も経っていないのに、やれないだろう?」

アリシア「そりゃ、作者だって分かっているわ。だから、あくまでも構想中なのよ?」


(あくまでも構想中です。やるかどうかも未定)


アリシア「まぁ、やるとしたら……完全独立でやる事になると思うけど」

連音「それは何故だ?」


(竜魔の忍、当然尋ねる。金色の女神、ポリポリと頬を掻く)


アリシア「う〜ん……言い難いんだけど」

連音「だけど?」

アリシア「……………はやてちゃん、出てこれないのよね」


(何やてーーーーーーーッ!?)


連音「何か今、変な声が聞こえたが………まぁ良いか。それで、どうしてなんだ?」

アリシア「作者も考えてるんだけど……どうしても、ファーストコンタクトが上手く行かないのよ」

連音「えっと、最初に会ったのは……ジュエルシードの樹の時だったな」

アリシア「まず、劇場版にはそこが無いでしょ?そうすると、他の出会い方を考えないといけない訳で……ややこしくなる」

リニス「だからいっその事、その辺りの件をカット。という事ですか?」

アリシア「その代わりに、私とのシーンが大幅増よ」


(何でやねーーーーーん!!)


アリシア「ともかく、映画もまだ公開したばっかりだし………あくまでも構想止まりって事で」











(そして、エンディング。紫電の魔女はまだ芋虫のまま)




アリシア「さて、お別れの時間となりました。リニスはどうだった?」

リニス「こういった機会は初めてなので、色々と楽しかったです」

連音「俺は楽しくなかったけどな……」

アリシア「ツラネはゲストじゃないから良いの。では、今回は此処まで。お相手は……?」

リニス「また、ぜひ呼んで下さい。リニスと」

連音「出来るなら単体で来て欲しい。辰守連音と」

アリシア「そうは問屋が卸さない。アリシア・テスタロッサでした〜っ!!」


(三人、カメラに手を振る。そしてフェードアウト……と、いきなり紫電が走った!!)



プレシア「待ちなさい!!」

連音「げっ!?拘束を引き千切りやがった!?」

プレシア「まだ終わらせないわ……アリシアを守るまでは!!」

連音「さっさと終われよ、お前は!!」


(そして再び追いかけっこ。スタジオがどんどんと壊れていく尚修理費は(ry )




???《何ですか?私のいない間に、なんて面白い事になってるんですか!!》













おしまい














そしてオマケ(怒られない事を切に祈る)










グランダートV。それは海上保安部の誇る最新鋭艦だ。

広くて、綺麗で、どんな荒波にもビクともしない上、何と次元航行能力も備えている。

何せ特殊部隊の隊舎だからな。それぐらいの機能が無いと成り立たないんだろうが……


しかし、それよりも言いたいのは………飯が美味い!!


そう。俺は今、このグランダートVの食堂で食事中なのだ!!

「はぐはぐ……モグモグ……んぐっ!!」
《マスター、もう少し落ち着いて食べたらどうだ?料理は逃げはしないぞ?》
「ふふはひ!!ひへふはは、ほうひへひほひへひふんは!!」
《飲み込んでから喋るか、念話にする事を提案する》

むぅ、俺の口は食い物を食う事で精一杯だ。

“食い物が逃げるから、急いでいるんだよ……分かるか?”
“それは理解できるが……仮にもこの船は任務中だ。幾ら嘱託とはいえ……”

そう、この船は任務中だ。
俺はその任務に関わる依頼を受けて此処まで来たんだ。

だがしかし、此処の飯は美味いなぁ〜!!

“話が戻っているぞ!?”
“うっさい!とにかく……いつ警報が鳴るか分からないんだから、さっさと喰うに越した事はない!!”
“ならば、食事を諦める事を進言する”
“やだっ!!”
“やだって………子供か!?”
“俺の心は少年のままさ?”
“上手い事言ったと思って、したり顔をするな!!”


などとやりつつも、俺は目の前のビフテキにフォークを突き刺す!!

BBQソースか……いざ、覚悟しやがれ!!





その時だった。


“マスター、警報だ”
“聞こえない”
“マスター?”
“聞こえない!!聞こえるもんかよ!!”

このビフテキが……こんなに分厚い肉が俺を待っているんだぞ!?それを放って行けるものかよ!!


“マスター、ストライフ執務官に怒られるぞ?”

グ……嫌な事を言いやがって………。


レリス・ストライフ執務官……つまり、俺の依頼主だ。その名前を出されたら、何も言えないじゃないかっ!!


俺は泣く泣くフォークごと、ステーキを戻す。
コップの水で一気に口の中の物を飲み込むと、相棒を手に立ち上がった。



「―――よし、行くぜ……バルゴラ」
《了解だ》
「そして待ってろよ…………ビフテキ!!」
《肉に何を言っている!?》



そして俺達は食堂を後にした。









後から考えれば……もっと深く、色々聞いておくべきだったと思う。

そう、この事件に機動六課が関わっている事を、まだ俺は知らなかったのだ。






機動六課……つまり古き鉄の剣士……俺の友達にして、悪運を持つあいつが……ヤスフミが関わっている事を。


あいつが関わって、すんなり終わるとか………マジ、絶対に無いのにさぁ!!





















今度こそおしまい。





[*前へ][次へ#]

6/7ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!