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頂き物の小説
第五話  襲い繰る悪夢 ―エンカウント ナイトメア―(後編)














Side ティアナ



隊長達はリミッターが掛かったままとは言え、その戦闘力はやはり高く、襲いくる触手みたいな蔓や根を吹き飛ばし、切り散らす。

あたし達もフォーメーションを組んで対処する。

魔力濃度が高く、AMFとは違う魔法使用のやり難さに苦戦しつつも、早々遅れは取らない。

しかし、不気味なのはこの木の化け物よりも……あの男。


攻撃と言えるものをしているのは、あのでかい木だけ。
その幹に寄り掛かったまま、動きもしない。


ムカつく程に余裕の顔をしている。



あいつには、なのは隊長の砲撃も防ぐ霧がある。
だからなの……あの余裕は?



やがて、攻撃が止んだ。あたし達は警戒を解く事無く、敵を見遣る。

「いやいや……中々のものだ。僕の知らない間に、腕の立つのが増えたじゃないか。流石に三十年は長いな……」

三十年……?どういう事?あいつ何歳なの!?


「では、改めて名乗ろうか。僕の名前はメノス・マクワイエ。以後、お見知りおきを」

紳士ぶって、大仰に頭を下げる。こいつ……何を企んでいるの!?

メノスと名乗った男は頭を上げると、不気味に口元を釣り上げた。


「では不躾だが、その力………頂こう」


あいつがそう言った途端、今まで揺らいでいただけの霧が動き出した。


「頂こうって……テメェ、状況分かってんのか?」
「幾ら砲撃が防げても……騎士の一撃、防げると思うな……!」
副隊長二人が、デバイスを構えメノスを睨みつける。

あの霧はAMFに極めて近い性質だと判断したみたいだ。あたしもそう思う。


純魔力砲撃をあんな風に消して見せたのだ。そう考えるのが自然。
あんな風に見せたのは、攻撃が無駄だと思わせる為。

直接攻撃なら届く。AMF相手に、歴戦のベルカの騎士は圧倒的だ。


正直……あいつに、副隊長と戦えるような力が在るとは思えない。


この霧やロストロギアと呼ばれた巨大な木……それを操っているのがこいつなら、事態は単純明快だ。

ズバッ!と、ぶっ飛ばしてしまえば良い!!





『ズバッと……ぶっ飛ばす?』





あれ?一瞬、何か変なものが……?


と、とにかく!!あたし達はフォローに回る。


向こうにも読まれているだろうけど、構いはしない。その上から……叩き潰せば良い。



アタシとなのは隊長、フェイト隊長が一斉に射撃魔法を撃つ。


メノスは当然、それを霧で防いだ。
その一瞬の隙を突いて、副隊長達が駆け出す!!

両サイドから、デバイスを振り被る。

「紫電一閃ッ!ハァアアアアッ!!」
先行してレヴァンティンが振り下ろされる。それを、もう片方の手を振るって霧を操り、防ぐ。
「クゥ……ッ!!」
炎を纏った斬撃。しかしそれは弾き返され……ウソッ!?

「オラァアアアアッ!!」
しかし、既にヴィータ副隊長が詰めている。タイミングはバッチリ。これで決まった!!


「―――――フフッ」
瞬間、メノスが笑った……?

「なっ……うわぁああああッ!?」
突如、ヴィータ副隊長が悲鳴を上げた。その小さな体に、無数の白い物が纏わり付いていた。

それは……さっき落ちてきた骸骨。それらはまるで、意思を持つかのようにヴィータ副隊長の体を押さえ込んでいる。

まずい!!
「スバルッ!!」
「うんッ!!」

スバルはマッハキャリバーのホイールを全開で回し、一気に突撃する。その進攻を阻止しようと骸骨が飛び掛かるが、

「どっけぇえええええええええッ!!」

床に転がっているのも含めて、全てぶっ飛ばしていく。流石は突撃バカだ。

あたしはすぐに、そのフォローに入った。スバルの行く手を塞ぐ敵を破壊する。

ヴィータ副隊長は既に自力で拘束を破壊している。

エリオも、キャロのブーストを受けてスバルの後詰に入った。

「ハァアアアアアアアッ!!」
スバルのリボルバーナックルのタービンが全開で回り、拳を繰り出す。


「おっと」

霧がスバルに向かって振るわれる。
「「―――っ!?」」
シグナム副隊長のように弾くと思われた霧が、スバルを呑み込む。そして、直ぐ後ろに付けていたエリオも。

「……えっ?」
霧が吹き抜けた瞬間、スバルとエリオの動きが止まっていた。無防備な姿を、敵の前に晒していた!!

「ッ!!スバルッ!エリオッ!!」
「「―――ッ!!」」
あたしはとっさに叫んだ。
その声に正気に返った二人が、慌てて飛び退く。その瞬間、大樹から禍々しい色をした葉が射出された。

「うわっ!?」
スバルはギリギリで全てを躱す。しかしエリオは躱し切れず、腕と足を僅かに切られた。

「エリオ、大丈夫!?」
「はい、何とか」
フェイト隊長にそう答え、ストラーダを構え直す。


「クソッ!!何なんだ、こいつは!?」
ヴィータ副隊長が苛立たしげに吐き出す。

「あの霧の凄い防御力に、攻撃力と範囲の広い木の攻撃……それに」

フェイト隊長が、眉を顰める。

そう、目の前には不気味すぎる光景が広がっていた。
カタカタと音を立てて、骸骨が不気味に繋がっていき、その体を起こしていく。

それだけじゃない。枝の隙間から、真っ白い虫のような奴が何匹も降って来た。



何なの、これは!?
蠢く異形連中。生理的嫌悪を誘発するには、充分過ぎて余りある、だ。



“全員散開しつつ、後退。ここは一時撤退するよ……!”
“なのはさん!?”
“ここで闇雲に戦うのは得策じゃねぇ……退く事も勇気だ”
“………”
ヴィータ副隊長の言葉に、スバルが黙る。
確かに、このまま訳も分からず戦えば状況は悪くなる。

ここは、あいつのフィールドだ。まだ何か隠しているかもしれない。

“私とフェイト隊長で壁になる。エリオとキャロは、リイン曹長と一緒に下がって退路を確保して”

“はいっ!”
“はいです!”
“………”
“……エリオ?”


返事が無い……?
「……ッ!?エリオッ!?」
エリオの方を振り向くと、エリオは膝を着いていた。いや違う。ストラーダを支えにギリギリ倒れるのを抑えているだけだ。
「エリオ君ッ!!」
「エリオ、しっかりするです!!」
「だ…大丈夫……っ!?」
凄い汗だ……それに、意識が朦朧としてる……何で!?

まさか、さっきの攻撃!?

「スバル、一緒に下がって!!」
「分かった!!」
あたしはエリオを抱えて走る。

その行く手を遮るように、大樹の根っこが襲い掛かる。

「オリャアアアアアアアアアッ!!」
「フリード!!」

しかし、スバルとフリードの攻撃で、一瞬で粉砕。


あたし達に続いて副隊長達が走る。
隊長達は射撃魔法を撃ちながら、その後を追う。


「脱出路確保です!!」
リイン曹長が先んじて出口を確保する。

「隊長、急いで!!」

あたしは叫ぶ。

でもそれは、既に出来ない状態になっていた。



「ぐぅ……!!」
「あ…ぐ……っ!」
木の幹が不気味に開き、そこから伸びる黒い霧の様な触手が、隊長達を捕らえていた。

「なのはッ!!」
「テスタロッサ!!」
直ぐに副隊長達が助けに行こうとする。
「来ないで!!」
「「―――ッ!?」」
なのは隊長の声に、足が止まる。

「今来たら……皆まで捕まる……!!」
「シグナム達は……皆を守って!」

そうしている間にも、二人は徐々に引き戻されていく。

「この事を……はやてちゃんに!!恭文君に!!」
「なのはッ!!」
「なのはさん!!」

「………退くぞ、ヴィータ」
「ッ!何言ってんだ、シグナム!?なのは達を見捨てる気かよ!!」
「状況を見ろ!!…………退くしかないんだ」
「クッ……ソォッ……!!」
ギリギリと、本当に音が聞こえるほどに、デバイスを握る手に力が入っている。

この状況……エリオがこんな状態じゃ、まともに戦う事は出来ない。
庇いながら戦うとか……そんな事が出来るような甘い戦いじゃない。


最低限、体勢を整え直さないといけない。



「なのはッ!!」
「………なぁ……に?」
「ぜってぇに……助けに来る!!だから……!!」
「うん……待ってるよ?」
必死に耐えながら、なのは隊長が答える。

「テスタロッサ、直ぐに戻る……!」
「はい……待ってます」
少しだけ笑って、フェイト隊長が返す。




こうしてあたし達は、機関室……いや、悪夢の部屋を脱出した。






―――――――――― 隊長二人を置き去りにして。







そしてスバルは、扉が閉じられる瞬間まで機関室を見ていた。

きっとその時、なのは隊長の最後を見たのだ。





    とある魔導師と古き鉄の物語 異伝


 ――― とある魔導師と竜魔の忍の共闘 ―――



  第五話  襲い繰る悪夢 ―エンカウント ナイトメア―(後編)









Side Out





「なるほどね……そういう事があったの」
「つーか……骸骨が動くとか、どんなホラーだよ?」
《これはまた……とんでもないババを引きましたね。あれですか?マスターの運の悪さがついに伝染を……》
「するかっ!!」
「でもヤッちゃんの不運ぶりは、容赦なく他人を巻き込むからねぇ〜」
「いやいや!そんな事ありませんからッ!!」

空白の時間に何が起きたかを聞き、事態は切迫している事を知った。
にも拘らず、いつもの調子は崩れない。

「あ、あのっ!!」
そんな空気にスバルが声を上げる。
「何……?」
「あ、アリシアさんは……フェイト隊長のお姉さんなんですよね?心配じゃないんですか!?」

「…………妹を心配しない姉がいると思う?」
「……ッ!!」
返される厳しい視線。その迫力にスバルは息を呑んだ。
当たり前の事だ。

アリシアにとって、フェイトは唯一の肉親。
既に自分が存在しない人間だとしても、それだけは変わらないし、誰にも否定させたりしない。

それはフェイトも、同じように思っている事だ。


心の底から、二人は互いを想い合っている。



「ご、ごめんなさい……」
「気にしないで。実際はそこまで心配していないから」
馬鹿な事を言ってしまったと、しゅんとするスバルにアリシアは言った。

「どういう事ですか?」
「恐らく、なのはちゃんとフェイトは無事よ。そのメノスって男の目的は二人の魔力……リンカーコアなんでしょうね。
それが目的なのに殺しちゃったら………元も子もないじゃない?それに、まだそう時間が経った訳でもない。まだ充分に間に合う筈よ」
「………はい」
アリシアがそう言い切って微笑む。たったそれだけで、フォワードメンバーの胸中の不安が薄らいでいく。


《ところで、シグナムさん達はどうしたんですか?》
「うん。脱出する時には一緒だったんでしょ……師匠達とリインはどうして?」

「副隊長達はあたし達を逃がす為に……船底部で囮になったわ」
アルトと恭文の問いにティアナが答える。
「リインは、その途中で攻撃を喰らってしまって……」
「なるほど……」
《とりあえず……これで大体の事は分かりましたね》

「あたし達が使ったドアは副隊長が壊して塞いだの。行くなら、別ルートしかないわ」
「分かったわ」
ティアナの言葉にアリシアは頷き、予め用意していたマップを展開する。

「…………ここから近い進行ルートは三つ。このまま、ここの地下フロアから向かうルートとレストランフロアの先から入るルート。
そして、甲板から入っていくルート……シグナムさん達とは、このどれかで合流出来ると思うわ」
《そうですね……》
この任務は前線メンバーの救出がメインだ。救助後は速やかに撤退する。際億まで行久野は仕方ないが、ここですれ違うというのも都合が悪い。


「―――恐らくは地下のルートだ」
「「―――!?」」
突如としてした声に全員が驚く。
入り口に向きやれば、覆面をした人物が長いマフラーを靡かせて、室内に踏み入って来ていた。
「誰…ッ!?」
ティアナとキャロが警戒するが、それはすぐに無駄となる。

「お帰り〜、ツラネ」
アリシアがヒラヒラと手を振る。
「大丈夫でしたか?」
「あぁ……事態が動いたようだ。向こうが勝手に撤退した」
「凄い!あの人と戦って全然無事なんて……!!」
恭文達と親しげに話すので、ティアナ達は少し唖然とした。

「…ていうか、スバル!アンタ、その人知ってんの!?」
「うん。ヤスフミと一緒に助けに来てくれた人だよ」
「あんたねぇ……そういうのはもっと早く言いなさいよ。警戒しただけ損じゃない……!」
ティアナが頭を抱えた。キャロも、構えてしまった手を如何しようかと苦笑いを浮かべている。

《どうして、地下ルートだと思うんです?》
「レストランルートはショッピングモールが近い。甲板のルートは、隊員が脱出するのにヘリやボートを使う可能性がある以上、直接は向かわないはずだ。
となれば……一番高いのは、ここの地下のルートを使う可能性だ」
アルトアイゼンの問いに、連音はマップを指差して説明した。

「アリシアはこいつ等をヘリまで頼む。俺と恭文は地下ルートからヴィータ達との合流を目指す。良いな?」
「分かったわ」
「勿論っ!思いっきり暴れますよ?」
《何だかんだで不完全燃焼でしたしね……三度目の正直、私達らしく行きましょう》

二人の不遜な物言いに、連音は覆面の下で僅かに笑う。戦場という非日常の世界で平静を保てる。
それは正しく、生き残る為の絶対条件だ。


それぞれが成すべき事を成す為に動き出す。と、それを呼び止める声が在った。
「待って下さい!!」
部屋を後にしようとする二人を呼び止めたのは―――――ティアナ。
否。声を発したのは彼女だが、フォワードメンバー全員が呼び止めていた。

「一体、何?本当に時間は無いのよ?早くしないと、フェイトのフラグ立てる所じゃなくなるんだよ?」
《そうです。只でさえ最近IFエンドの注文ばっかりで……大体成人と小学生でカップリングとか、犯罪ですよ?これからは学生とか、言葉だけでも危ないんですよ?》
「うん、アルト。それはすっごく危険なネタだから……もうあれだよ、ぶっちぎりでコースアウトだから!!」
《その反動で、新訳STSが絶好調連載中なんですから》
「メタなネタは止めろおおおおおッ!!」
「お前ら、少し黙れ……で、何かあるなら早く言え」

ティアナが何を言いたいのかは直ぐに予想が付いた。連音は厳しい視線をティアナに向ける。
「あたしも、一緒に行かせて下さい……!」
「駄目だ」
「っ…!どうして…!?」
「お前達の救出が、依頼された俺の仕事だ。その対象を連れて行く事が出来ると思うか?」
「それは……でも、私達は六課の……いいえ、同じ部隊の仲間として、助けに行きたいんです!!」
ティアナの思いに、スバル達が頷く。未だ優れない顔色のエリオでさえ。
連音は深々と溜め息を吐いた。
「言い方が悪かったようだ………邪魔だから来るな」
「っ……!?」
容赦無くぶつけられた言葉にティアナ達は唖然とし、そして直ぐに怒りの色へと変わった。
「じゃ、邪魔って……私達は」
「邪魔が嫌なら……足手まといだ、だからさっさと帰れ。これで良いか?」
「〜〜〜〜ッ!!」
連音の歯に衣着せない物言いに、ついにティアナがキレた。ズカズカと進み出ると連音の胸倉を鷲掴みにする。

「確かにあたし達はまだヒヨッ子で、隊長達や恭文みたいに強くないわよ!!アンタも相当に腕が立つんでしょうね!!
そんなアンタから見れば邪魔で……足手まといでしょうよッ!!でもね……仲間を助けたいのよ!!それが悪い!?」
「―――あぁ、悪い」
「―――ッ!!」
連音はティアナの手を払うと、踵を返した。
「話は終わりだ……アリシア、後は任せた」
「えぇ……気を付けて」
アリシアの言葉に軽く手を振って答えると、連音は部屋を後にした。
「じゃ、行ってきます。リインをお願いします」
「いつも通り、暴れてきなさい?」
その後を恭文も追いかけていった。

そして室内には、重い空気が流れた。助けに行きたい、その思いを無慈悲に両断され、全員が悔しさに打ちひしがれる。
「さて、私達も動きましょう。今は自分達が脱出する事を考えなさい」
アリシアが努めて明るく言うものの、空気は重く、表情は暗い。
「「「………」」」
「………」
「あ、アリシアさん〜……」
リインが泣きそうな声でアリシアを見る。予想以上に連音の言葉は彼女達を抉ったようだ。
(う〜ん、如何したものかしら……?)
とりあえず、ちゃんと説明をしないと動きそうに無い。アリシアは軽く咳払いするとティアナ達に話しかけた。
「とりあえず、連音が言ったのは……あなた達が力不足だから、って意味じゃないわ。皆が万全の状態じゃないからよ?
ティアナちゃんとスバルちゃんは、レガシィ・ハウンドのエージェントと戦ってダメージを受けているし、エリオ君は動けない。
リインちゃんもまだ戦える状態にないし、無傷なのはキャロちゃんだけ……万全で挑んでやられた相手に、この状態でどう戦おうって言うの?」
「そ、それは……」
「それにね………助けたいって思いだけじゃ、どうにも出来ないのよ。それを徹し切れるだけの力が無いとね。
その力が、今のあなた達には決定的に不足している……だから連音はあんな風に言ったのよ」
「でも、あんな言い方って……無いと思います」
アリシアの言葉にスバルが異を唱えた。見ればキャロも納得できないという顔をしている。

「ティアナちゃんも……納得出来ない?」
「……出来ません」
「………じゃあ、しなくて良いわ。むしろ、したら駄目よ?」
「えっ……?」
アリシアの返しが予想外だったのか、全員が驚きの表情をする。
「でも、理解はしなさい。今の自分が足手まといにしかならないという事を……」
「「「………」」」
「そして……納得できないなら、次こそは戦えるように……もっと強くなれば良い。今度こそ、守りたいものを守れるように……ね?」
アリシアは優しく微笑み、ティアナの頭を撫でる。
「連音さんは、皆が思う様な人ではないですよ?本当はとても優しくて、良い人なんです」
「……そうは見えませんけど」
「きっと任務が終われば、リインの言ってる意味が分かるですよ?」
「………」
リインはそう言うが、キャロはどこか理解できないといった顔をしていた。


「じゃ、とりあえず甲板に行きましょうか?」
アリシアは懐から白い紙を取り出すと、すいすいと折っていく。そうして出来上がったのは、四足の動物。
「来たれ―――【式神】」
フッと息を吹きかけると、紙は何倍もの大きさに変わる。
そして、まるで生きているかのように動き、アリシアに擦り寄った。
見た事もないそれに、フォワードが驚く。
「エリオ君をお願いね、【駿猫】」
アリシアの命に駿猫は頷き、エリオの前に進み出る。
「スバルちゃん、エリオ君をその子に乗せてあげて?」
「あ、はい」
スバルはエリオを抱き上げると、駿猫の背中に乗せる。落ちないようにと、キャロも乗ってエリオを支える。

「さてと……じゃあ、行きましょう」
アリシアの先導で、フォワード陣が動き出した。


部屋を出て、警戒しつつ廊下を進み出した。




―――――しかし何事も無く、甲板前の水密ドア近くまで辿り着いてしまった。

「何もなかったですね……」
「無いに越した事はないわよ……ッ!?」
先頭のアリシアが突然、足を止めた。一瞬でその表情が一変する。

「如何したんですか…!?」
「甲板から、嫌な気配がする……不味い!!」





急いで水密ドアを開けて甲板に出ると、一同はその光景に驚愕した。
「こ、こいつらは……ッ!!」
「あの時の……!!」
白い、芋虫に近い姿の蟲の群れ。そして腐肉と白骨の、かつて人であったもの。

それらが、ホバリングするヴァイスのヘリを包囲せんと迫っていた。











――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――






Side ヴァイス




ヤスフミ達が突入し、結構な時間が経った。
不気味な空と、波と風の音が不安を煽りやがる。

俺はただ、このパイロットシートで待つしか出来ない。
「大丈夫かねぇ……」
ま、ヤスフミは大丈夫としてだ……問題は残りの二人。

八神部隊長が直々に呼んだ位だ。相当に腕が立つんだろうけど……とはいえ、流石に隊長達ほどじゃないだろうな。

つーか、あんなのがゴロゴロしてたら恐ろし過ぎるぞ?

「―――ッ!?」
いきなりストームレイダーが警報を鳴らす。
慌ててセンサーを見れば………なっ!?動体反応多数ッ!?
「なっ……何だ、ありゃあ!?」
甲板に白い虫みたいなのが二匹……三匹……十匹!?ドンドン増えてきやがる!!
俺はとにかく、急いでヘリを発進させる。

ストームレイダーを起動させると、ドアを開けて相棒を構える。
スコープを覗く必要は無い。でかい的に向けて引き金を引くだけだ。

「喰らえッ!!」
銃口から放たれた光弾が軽々と化け物を撃ち抜く。
何度も引き金を引き、次々に落としていく。

数は多いが、大した事ぁねえな。

あっさりと全滅させ、俺はカートリッジを入れ替える。と、また虫共が出てきやがった。

「………何だ?まだ出てき…………ッ!?」

おいおい……何だよこれはッ!!
さっきの比じゃねぇ!ドンドンと出てきやがる!もう、甲板が埋め尽くされてるじゃねぇか!!

しかも、それに雑じって何か骸骨っぽいのまで居やがるし!!


「クソッ!!もっと高度を上げろ!!」
俺の指示に、ストームレイダーが遠隔操作で高度を上げ始める。

「どわっ!?」
いきなり揺れやがった!?何が……なッ!?

あの虫共は口から糸を吐き出して、ヘリの足に貼り付けやがった!!

不味い!もしあれがローターに絡められたら……!!

「クソッたれ!!」
俺は糸を吐いてる奴ら目掛けて引き金を引く。次々に潰すが、その都度別の奴が糸を吐きやがる!!

このヘリはヒヨっ子どもを送るだけじゃない。今は俺の命綱でもある。
もし落とされれば、俺はすぐさまあいつらの餌だ。

「うおッ!?」
焦って隙が出来たか、ストームレイダーに奴らの糸が!!クッ……凄い力だ……ッ!!

更にヘリにはどんどん糸が…………クッソッたれがぁあああああああッ!!!



「クロスファイヤー、シュートッ!!」
「フリード、ブラスト・レイッ!!」
その時、オレンジの弾丸が虫をふっ飛ばし、火球が糸を焼き払った。

こいつは……無事だったか、ヒヨっ子ども!






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




Side Out





ヘリを攻撃していた虫に、ティアナとフリードの先制攻撃が命中。ヘリは一応の危機を脱した。
だが、今度は虫達の標的にティアナ達が加わる。半数ばかりが一斉に、ティアナ達に向いたのだ。
正直、気持ち悪い光景だ。

「キャロちゃんは、竜魂召喚!その後、ティアナちゃんと空中から遊撃!!
スバルちゃんは最短距離を強行突破!ヘリに真っ直ぐに向かって!フォローは私とリインちゃんがする!」
「「は、はい!!」」
アリシアの急な指示にキャロとティアナは驚きつつも返事をする。
スバルはといえば、「ハイッ!!」と力強く返事をし、既に攻撃を行っている。
リボルバーナックルのタービンが力強く回転し、繰り出された拳に烈風をプラスして撃ち放つ。

虫に骸骨に、烈風に巻き込まれて宙に舞い上がり、道が生まれる。
「マッハキャリバーッ!!」
《All Light》
ホイールが白煙を上げ、甲板を突っ走る。最短距離を一転突破、スバルの最も得意とするスタイルだ。

「どっけえええええええええッ!!!!」

スバルに襲い掛かる虫や骸骨。それらを纏めて殴り飛ばす。
「フォロー、要らないかしら?」
アリシアはその後を、駿猫と共に追った。

「ポイント確保!!」
スバルが盛大にブレーキを掛けてヘリの下に付く。拳をぶつけ、気合を込める。
アリシアとリイン、駿猫もすぐさま追いつき、ヘリのガードに回る。


上空からは、フリードとティアナによる対地攻撃が続く。
炎が敵を焼き、弾丸が敵を射抜く。
地上からはスバルの攻撃で、纏めて弾き飛ばされていく。


そして、瞬く間に敵は全滅した。


「敵勢力……確認できず。ティアは?」
「こっちからも見えないわ………ふぅ〜」
ティアナはとりあえず安堵し、キャロはフリードを甲板に下ろす。
「大丈夫でしたかー!ヴァイス陸曹ーっ!!」

「あぁ!お前らのお蔭でな!!」
ヘリが高度を下げ、甲板に再び降りる。

「……隊長達は?」
「まだ中よ。ツラネとヤッちゃんが救出に行ったけど……とりあえず私達だけで一度離脱するんで、発進をお願いするわ」
そうヴァイスに答えたアリシアに、スバルが驚きの声を上げた。
「えっ!?待たないんですか……!?」
「待ってたらまた、さっきみたいに囲まれるでしょう?それに残っているのは皆、空戦魔導師ばかりよ?ヘリが無くても脱出は出来るわ」
「そ、それは……そうかも知れないですけど……」
「大丈夫よ。別に隊舎まで戻るわけじゃ………ッ!!」
途端、アリシアの表情が変わる。一瞬遅れて、全員が気付く。

船窓を割り、水密ドアを破り、無数の虫が這い出してきたのだ。

その数は、さっきの比では無い。それこそ無数。

しかも、艦橋の所からは、羽音を響かせるヤツまで現れている。
今度は上空から一方的にとは行かない。


「これはヤバいわね……」
戦力は明らかに不利。一匹一匹は大した事はなくても、数はそれさえ押し返す。

「ここは私が抑えるから、あなた達はヘリに乗って急速離脱!」
アリシアは担いでいたバッグをスバルに投げ渡すと、行く手を遮るかのように立ち塞ぐ。
「アリシアさん!?」
「そんな!無茶です!!」
「あなた達を無事に帰す事が、私の役割………早くヘリに乗りなさい!!」
言うが早いか、アリシアは懐から金色の勾玉を取り出す。

「神氣招来――――神孤顕現!!フォーム・フォックス!!」
天に勾玉を掲げると、金色の凄まじい光がそれから発せられる。

あまりの眩しさにスバル達も目を覆い隠し、虫達も奇声を上げる。



「うっ………なっ!?」
その光が徐々に治まり、ティアナは白む視界に目を凝らす。そして、そこに見えたものに驚愕する。

ティアナだけではない。全員がそれに驚いていた。


アリシアの姿が、大きく変容していたからだ。


その装いは、大きく着崩した着物に変わり、豊満な胸元は無防備に晒され、腰帯でギリギリはだけるのが押さえられているだけといった感じ。
裾は大きく床に引き摺り、その切れ間から、艶かしく太腿が晒されている。

袖も長く、手の先が僅かに覗く程度。唇には、紅が細く引かれてもいる。


妹のソニックフォームが普通に見えるぐらい、とんでもない露出をしている。


しかし、それ以上に変化しているのはアリシア自身だった。


頭には金色の獣耳。臀部には柔らかそうな金色の尻尾が生えている。

そして、その身を包む金色の凄まじい魔力。

アリシアがスッと瞳を開く。

「さて……どうやって遊んであげようかしら?」
クスクスと笑う姿はとても妖艶で、それがさっきまでのアリシアと同一人物とはとても思えなかった。

「あ、アリシアさん……?」
「早く行きなさい………巻き込まれるわよ?」
あまりの事態に混乱しつつも、ティアナが声を掛けると、アリシアは僅かに首を傾け手答えた。
「っ……!?」
『巻き込まれる』といった時、アリシアは妖艶かつ、恐ろしい瞳をした事に気付いた。

――逃げなくても、構わずにやる――

そう、瞳は語っていた。


「皆、ヘリに!!ヴァイス陸曹、出して下さい!!」
「ちょ、ティア!?」
「ティアナさん!?」
「おいおい、如何したんだ!?」
「死にたくないなら、急いで!!」

ティアナはメンバーを強引にヘリに押し込む。ヴァイスも徒ならない気配に何かを感じたのか、ハッチを開けたままヘリを急速発進させる。
飛び立つそれを追い、虫が飛ぶが、ティアナとフリードはそれを迎撃する。



そうしてヘリが離れた事を確認し、アリシアは口元を歪ませる。
「さて、一匹一匹潰すのも良いけど……時間も無いし、すっきり纏めて行く方が面白そうね?」
すっと、両手を広げるように伸ばすと、足元には竜魔の術方陣が生まれる。
「―――燃えよ、炎王」
アリシアの手に、小さな火が生まれる。
「―――轟け、雷帝」
もう片方の手にはバチバチと電撃が走る。
「神氣を以って、魔を薙ぎ払え!!」
アリシアの声に応じ、二つの力が爆発する。

「双蛇乱舞、サンダー・クリムゾンッ!!」
アリシアが腕を振るうや、炎の蛇と雷の蛇は踊り狂い、甲板の虫を喰らい始める。

「ハァッ!!」
腕を上に振るえば雷蛇が舞い上がり、中空の虫の尽くを焼き尽くす。

「――これでッ!」
腕を横に振るえば、炎蛇が虫を骸骨を瞬く間に炭に変えてしまう。

「―――フィニッシュッ!!」
両腕を勢い良く振り下ろすと、二つの蛇は絡まり合いながら上昇し、甲板に向かって急降下する。

その衝撃で爆風と炎が吹き荒れ、雷光がスパークした。





「何なのよあれ……無茶苦茶じゃない……!!」
「炎と電気と……一緒に使ってましたよね……?」
ヘリでその場を離れた一同は、呆気に取られていた。
炎、雷が蛇の姿を借り、無数の敵を一瞬で粉砕したのだ。閃光と爆発が消え去った後には、唯一人しか残っていなかった。



甲板はブスブスと焦げ、半ば炭と化していた。
「ふぅ……スッキリしたわ」
アリシアはおもむろに、その長いブロンドの髪を掻き揚げた。

「さて、私も行きましょうか………ッ!?」
そのままヘリに向かおうとしたアリシアに影が差した。
ハッとしてアリシアが見上げれば、船の最上部から巨大な影が真っ直ぐに飛び降りてきている。
「おっと……!!」
とっさにアリシアが飛び退くと、一瞬遅れで、そこに巨大な何かが墜落する。甲板を破壊し、船が大きく揺れ動く。

「あらあら………随分と、大きな坊やね?」
砕かれた甲板の板を引き剥がしながら立ち上がるのは、アリシアの優に3倍は在ろうかという人に似た白い巨体。
人で言う筋肉に当たる部分は、その一つ一つが丸太並みに太く、凶暴さを醸し出す。
肘や膝には獰猛な角が生え、顔は白目の無い、禍々しいまでの深紅の一つ目。

神話の怪物、サイクロプスと呼ぶに相応しい姿だった。




「な……何よ、あれはぁっ!?」
ティアナがあまりに非常識な光景にヒステリックに叫ぶ。
「ティア、不味いよ!?アリシアさんが!!」
「分かってるわよ!!」
分かってはいる。だが、あんな化け物に自分の魔法が通じるか、その自信が無い。
「ヴァイス陸曹!!ヘリを戻して下さいっ!!」
「バカヤロォ!無理言うなッ!!」
「ヴァイスさん!?」
「見ろッ!虫共がまた出て来てやがる!!ヘリが落とされたら、一巻の終わりだ!!」
スバル達が見れば、船から虫が何匹も飛び出してきている。

アリシアも気付いているが、サイクロプスと交戦中で手が出せないようだ。

「それに、ここに来た時に言われてるんだ……何かあったら直ぐに撤退をしろってな」
「そんな……」
「スバルッ!!迎撃しなさいッ!!」
「速いです!!追いつかれちゃいます!!」
ティアナは必死に引き金を引き、虫を撃ち落とす。キャロもフリードに炎を発射させて迎撃を行っている。

今は撤退以外に自分達が出来ない。
甲板で暴れるサイクロプスに、スバルはギュッと拳を固めるしかなかった。






繰り出される巨大な拳を躱し、アリシアが力を収束させる。
「集え風よ、我が前に――――ッ!!」
しかし、サイクロプスの動きはその大きさに反比例し、とても素早い。反撃を構える前にアリシアを追撃する。
とっさに障壁を展開するも、その圧倒的な腕力に大きく弾き飛ばされた。

船首ギリギリで止まったアリシアが、深々と溜め息を吐く。
「―――まったく。女性にそんながっついていたら……もてないわよ?」
そう言いながら、アリシアは胸の谷間に指を差し込む。そこから指を抜くと、そこには銀色の勾玉が挟まれていた。
「ま、強引に迫られるのも…………嫌いじゃないけどね?」
アリシアは銀の勾玉を天に掲げた。すると、先程と同じように眩い光が放たれる。

「神氣招来―――真神顕現!!フォーム・ウルフッ!!」
閃光の中、アリシアの姿が再び変わる。

紅の袴と白の着物。その上から手足の指先だけを残して布が巻かれる。その上から朱色の手甲、足甲が装備され、そして注連縄の様な力襷が袖を縛り上げる。
ブロンドの髪はシルバーブロンドに変わり、尾と獣耳も銀色の狼のそれに変わった。

光が消え去り、変身を遂げたアリシアがサイクロプスを睨む。
「この姿はあんまり好きじゃないんだけど………ま、遊んであげるから、掛かって来なさい?」
手の甲を向けてゆっくりと差し出すと、指先でチョイチョイと挑発する。
「――ただし、180秒までよ?」

『グガァアアアアアッ!!』
サイクロプスが吼え猛り、アリシアに飛び掛かる。
『グォオオオオオオオオッ!!』
巨木の様な足が容赦無く振り抜かれると、ブォン、という巨大かつ不気味な音が響き渡った。
それが当たれば、人間の体などバラバラにされてしまうに違いなかった――――当たりさえすれば。


『グッ……?』
既にそこにアリシアの姿は無く、何処を見回しても影も形も無い。

「何処を見てるの?」
『――――ッ!?』
声は真上から。サイクロプスが頭上に視線を上げる。
「遅いッ!!」
その鼻っ柱目掛けて、垂直に拳が突き刺さる。破裂音に似た音が響き、拳が減り込む。

『グォォ……!?』
「ハァッ!!」
拳を引き抜くや、グラリと崩れるサイクロプスの横っ面を気合一閃、蹴り飛ばした。

再び破裂音が響き、巨体が緩やかに宙を舞った。


アリシアが甲板に着地すると同時に、サイクロプスも甲板に倒れ伏した。
重低音が響き、船が大きく揺れ動く。
「ほらほら、まだおねんねの時間じゃないわよ?さっさと立ちなさい」
アリシアが肩を竦めて挑発すると、激昂したのか、サイクロプスが轟音を響かせて甲板を叩き立ち上がる。
『ガォオオオオァァアアアアアアアアッ!!』
粉塵を上げ、巨体が突進を駆けて来る。拳を固め、大きく振り上げる。
「フフッ……」
しかしアリシアは動かず、不敵に微笑む。逆にスタンスを広げ、拳を固めて引く。

『アアアアアアアアアアアアッ!!』
「シフト・ストレングス……ッ!!」
アリシアの足元に銀色の術方陣が輝き、魔力が腕に集中していく。

『アアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』
「―――― マキシマム・シュートッ!!」

二つの拳が真正面から激突した。
衝撃は凄まじく、甲板がついに崩壊し、崩れ落ちていく。
『グォオオオオオオ……ッ!』
その中でサイクロプスが苦痛の声を上げる。拳から緑色の血が飛び散る。
「悪いけど………銀狼となった私のパワーは、並じゃないのよ?」
落下しながら、アリシアがゴキゴキと指を鳴らす。

ドォオオオオオオン!と、派手な音を立てて下の階層に落ちる。


『ガァアアアアアアアアアアッ!!』
粉塵が上がり視界が隠される中、サイクロプスは立ち上がると、もう片方の拳を前方に向けて繰り出した。

『グゥッ!?』
白煙を打ち抜かんとした一撃だったが、拳が消えた辺りで強固な何かにぶつかり、ビクともしなくなった。

「悪いけど……そろそろクライマックス、決めさせて貰うわよ!!」
粉塵の向こうからアリシアが現れる。パンチを受け止めた両手は、銀色の体毛と凶悪な爪、そして隆起する筋肉によって、二倍以上の大きさに変化していた。
そしてアリシアの口にも、凶暴な牙が生まれていた。
「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
指を強引に掴むと、狼の咆哮と共に全身を使ってサイクロプスを豪快に背負い投げる。
床に叩きつけるや、更に反対方向に投げ、再び床に叩きつける。その度に船が揺れ、床に亀裂が走っていく。
「ォオオオオリャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
アリシアは気合と共に、サイクロプスの巨体を海目掛けて思いっきり投げ飛ばした。
そしてすぐさま、アリシアもそれを追って跳躍する。

転落防止用の柵に降り立つと同時に、サイクロプスが海面に叩きつけられた。
アリシアの体が銀色に光ると元の姿へと戻り、懐に勾玉を仕舞い込む。
「我、アリシア・テスタロッサの名に於いて命じるもの也」
海上に巨大な術方陣が展開され、海に沈んでいく。
「水流の化身、数多の海を跨ぐ者―――契約の下、私の声に応えよ!」

海から水竜巻が何本も立ち昇り、海面は荒れ狂う。
「命育む地を汚す者に、裁きを下せ!来たれ―――水蛇王【キング・サーペント】!!」
アリシアの言葉を引き金に、水竜巻は水の蛇と化し、サイクロプスに襲い掛かる。
『グォォオアアアアアアアアッ!!?』
無数の水蛇に飛び掛かられ、サイクロプスは必死に暴れる。バシャバシャと海面が派手に波打つが、無残にも海中に引きずり込まれる。


数秒後、ド派手な水飛沫を上げて、巨大な水蛇が海面に跳ね上がった。その口にはわずかに巨人の指先が見える。


『――――――――――――!!』


海上全てに響き渡る雄叫びを上げ、水蛇王は再び水飛沫を上げて海中に戻った。


「―――海を汚すものには、神罰覿面……ってね」
アリシアは軽く息を吐きつつ、後ろ髪を手で撫で上げた。

そしてヘリの方角を見遣る。どうやら向こうも虫を撃墜したようだ。
「じゃ、行きましょうかね」
とん、とアリシアは軽くジャンプすると、そのまま全身に風を纏い、ヘリに向かって飛翔した。



「あなた達、まだこんな所にいたの?」
ヘリには直ぐに追いつく事が出来た。どうやら、アリシアの事が心配で待っていたようだった。
「だって、心配だったから……大丈夫だったんですか?なんか、凄い音とか、声みたいのとかしてましたけど……?」
スバルがそう言うので、ヘリに乗り込むとその頭をポンポンと叩いてやる。
「大丈夫よ。ちょっと派手に暴れたせいで……甲板とかが、少〜〜〜〜〜しだけ、壊れちゃっただけだから」
「……何でそこまで『少し』を強調するんですか?」
「ティアナちゃん、良い女は細か過ぎる追及はしないものよ?」


『アリシアさん、この後は如何するんですか?一度隊舎まで戻るんですか?』
「いえ、ここから隊舎まで戻ると往復に時間が掛かり過ぎます。とりあえず霧の領域を出て下さい。はやてちゃんが待っている筈ですから」
『……部隊長が、ですかい?』
「えぇ」
ヴァイスはアリシアの言葉に首を傾げつつも、ヘリを飛ばした。

『もうすぐ、霧を抜けますぜ』
窓を滑る霧が徐々に濃さを落としていく。そして十数秒後、ついに霧が消えた。

窓には白に代わって蒼が映り、太陽が眩しく輝く。


『ッ!?あ、ありゃあ……まさかっ!?』
ヴァイスは霧を抜けた先にあった物に気付き、驚きの声を上げた。

「ヴァイス陸曹、如何したんだろ?」
「………ッ!?スバル、あれ!!」
「え………えぇッ!?」
窓から外を見たスバルとティアナが、同じように驚嘆した。


彼女達の目に映るのは、六課の隊舎が丸々収まる程の巨大な船。

最新鋭のヘリが何機も並び、甲板には何十人もの作業員、魔導師がせわしなく動いている。


そして艦首にはアインヘリヤルにも負けない、巨大な砲塔が備えられている。

「あれってもしかして……?」
「そう。あれがミッド地上本部の誇る……海洋空母R級一番艦【グランダートV】よ」
「グランダートV……ミッド海上保安部の誇る最新鋭艦船……」
「それの一番艦って事は………もしかして?」
スバルの言葉にティアナが小さく頷く。

「海上保安部……101部隊の移動隊舎よ」


海上保安部とは海における任務を行う専門部隊であり、水中用装備等を含め、特別に質量兵器の所持を許可されている特殊部隊である。

海を使った密輸犯罪の取り締まり、海上における事故による救助部隊の支援などが主だった任務である。
その特殊性ゆえ、隊舎が船と一つになっている隊が幾つか存在するのだ。

その中でも、この101部隊というのは、海上運行における危険要素の排除を多く取り扱っている。


「ヴァイスさん、あそこに着艦して下さい」
『「「えぇっ!?」」』
アリシアの唐突な言葉に、三人が驚きの声を上げた。ちなみにキャロとリインは訳が分からず首を傾げている。

『ちょっと待ってくれ!!あれは海部の隊舎なんですぜ!?着艦なんて,緊急時以外では出来ませんって!!』
「大丈夫………ほら、あそこ。甲板に見えるでしょう?」
『甲板って……………あれは!』


ヴァイスがモニターで甲板を確認する。拡大されたそこに映っていたのは―――

「はぁ〜あ。無事に帰ってきてくれたか〜〜〜ッ!」
「はやてちゃん……その言い方、親父臭いですよ?」

―――八神はやてと、シャマルの姿だった。
































後書きという名の三次創作










アリシア「はい。という事で第5話の方、如何でしたでしょうか?アリシア・テスタロッサです」

古鉄《何というアリシア無双。古き鉄、アルトアイゼンです》

連音「俺の戦闘はおまけの方で。辰守連音です」


(三人、今回はとても普通に入る。そこに感じるのは嵐の予感)


アリシア「さて、早速ですが今回のゲストを―――」

???「ちょっと待ったああああああああああっ!!」


(おーっと、ちょっと待ったコールだぁッ!!)


古鉄《あぁ、すみませんが部外者の方の立ち入りは禁止されていますので》

???「誰が部外者だぁっ!!僕は主役だ!!」


(謎の乱入者、大声で叫ぶ。一体何者?)


???「何者じゃないよ!?この作品のタイトルを言ってみなよ!!」

アリシア「え……?影とまとでしょ?」

???「略さないで!!」

古鉄《とある魔導師と竜魔の忍の共闘、ですが……それが何か?》

???「つまりこれは、僕と連音さんでダブル主人公なの!!なのに何で後書きにアルトがいるんだぁああああッ!!」


(謎の乱入者、叫ぶ。しかし青いウサギは首をかしげる)


古鉄《何を言ってるんですか?私は真・主人公ですよ?》

???「だから真・主人公とか言うな!!」

古鉄《良いじゃないですか。本編じゃ主人公みたいな活躍するって台本に》

???「みたいなじゃなくて、主人公なのッ!!」

アリシア「まぁまぁ。確かに今まで後書きに出てこなかったし……怒るのも仕方ないよね?」

???「なら、この名前の『???』を取って欲しいんですけど……」

アリシア「まぁまぁ。そんなヤッちゃんに、私から謝罪の意を込めた贈り物があるのよ?」

???「……なんですか?」


(金色の女神、凄く楽しそうに笑う。静観していた竜魔の忍、深々と溜め息)


アリシア「JS事件の時、ヤッちゃんの大事な『あれ』……壊れちゃったんでしょ?」

???「………大事な『あれ』?」


(謎の乱入者、首をかしげる)


アリシア「ヒントは3つ。ブロンド、義姉、DVD」

???「!?!?!?」


(その瞬間、MGS的なSEが流れた)


アリシア「では正解を―――」

???「分かりましたもう分かりましたからそれ以上何も言うなぁああああああああッ!!」

アリシア「え〜?」

???「え〜?じゃないですからッ!!てーか、何で知ってるんですか!?」

アリシア「サリエルって人が教えてくれたわよ?マジ泣きしたって」

???「あの人マジで何やってんだぁああああああああああッ!?」


(同時刻、どこかで身震いする最強の兄弟子がいたとか)


アリシア「で、あまりに可哀想だから……同じヤツ探してあげたのよ」

???「なんだろう……素直に喜べないよ……」

アリシア「……でもね、DVDはここには無いの」

???「は?」

アリシア「さっき、バイク便で出しちゃった♪」

???「はぁっ!?」

古鉄《しかも、マスターの家では不在で受け取れないと思い、気を利かせて機動六課宛で》

???「はぁっ!?!?」

アリシア「多分、今から急げば……誰にも知られずに受け取れると思うわよ?」


(金色の女神、にこやかに笑う。謎の乱入者、全てを理解した)


???「は、ハメられたぁあああああああッ!!!!」


(謎の乱入者、スタジオを飛び出す。デンバードのエンジン音が響き、遠ざかっていく)


アリシア「では、今回のゲストの登場で〜す!」

連音「今までのを無かった事にしやがったな」


(竜魔の忍、ジト目で金色の女神を見る。が、そんな事は気にもしない。流石は女神である)



アリシア「今回のゲストは、この二人!!」


(紹介されて出て来たのは、お子様二人)


キャロ「機動六課ライトニング分隊、キャロ・ル・ルシエです」

エリオ「同じく……ライトニング分隊の………えっと、エリオ・モンディアルです……」


(若き槍騎士、何故か顔を赤くして俯いている。桃色の召喚士は何故か不機嫌)


アリシア「どうしたの?キャロちゃん、随分とご機嫌斜めみたいだけど……?」

キャロ「何でもありません!!」

アリシア「エリオ君は……大丈夫?熱でもあるのかしら?」

エリオ「っ!?な、何でもありませんッ!!」


(金色の女神が額に触れようと手を伸ばすが、若き槍騎士、慌てて後退る)


アリシア「あれ……?もしかして、私……嫌われてる?」

古鉄《いや、普通に恥ずかしがっているのと、焼きもちを妬いているだけですから》

キャロ「妬いてませんッ!!」


(桃色の召喚士、顔を真っ赤にして叫ぶ。しかし、進行は恙無く進んでいく)


アリシア「まぁ、良いけど…………さて、今回はついに!私の!!大活躍でしたぁああああああッ!!」

連音「今回アリシアが使った力、その辺りを解説していく」


(スタジオが暗くなり、モニターに映し出されるのは、三つの姿の金色の女神)


アリシア「これが、私のフォーム。それぞれ美貌、お色気、健康美を司っているの」

連音「嘘を吐くな。アリシアが纏うのは神の衣と書いて神衣(かむい)。まぁ、優れたBJと思ってくれれば良い。そして、通常の姿から勾玉を使い変身するのが残る二つだ」

キャロ「この二つは、どう違うんですか?」

連音「この二つはフォーム・フォックス、フォーム・ウルフという名称が付いている。フォックスは玉蘭様の、ウルフは吠姫様の力を借りて変身した姿だ」

キャロ「えっと……誰ですか?」

アリシア「そうねぇ〜、私にとっては大大大先輩で、先生でもある神様よ」

キャロ「神様……?」


(ちびっ子二人、首をかしげる)


古鉄《つまりあれです。どちらも、真竜ヴォルテールみたいな方だと考えて下さい》

キャロ「えぇ!?それって色々と凄くないですか!?」


(そう、もの凄い。具体的には、作品バランスをぶっ壊すほどに)


連音「フォックスは強力な術を自在に操る事が出来るが、反面フィジカルが弱くなる。
ウルフはその逆で、フィジカルが圧倒的に強化されるが、術が殆ど使えなくなる」

アリシア「その上、180秒しか維持できないのよ。それを越えると2時間使用不能になるし、
しかも、私がコントロールし切れてない力に引っ張られて、性格まで変わっちゃうのよね〜」

キャロ「だから、あんな風になったんですね?」

古鉄《それはそうと……全然参加してない人がいますが?》


(青いウサギ、ビームライフルをその人物に向ける)


エリオ「ちょっ!そんなの向けないでよ!?」

古鉄《ではさっさと参加して下さい。撃ちますよ?具体的に言うと、この引き金を引きます。そしてビームを出してぶつけますよ?》

エリオ「具体的に言う意味が分からないよ!?」

連音「……何かあったのか?」

古鉄《あれですか?アリシアさんに、口移しで薬を飲まされた事を気にしてるんですか?》

エリオ「っ!?」


(途端に若き槍騎士顔を真っ赤にする。桃色の召喚士、また不機嫌)


連音「何だ、そんな事か」

エリオ「そ、そんな事って……」

キャロ「そんな事じゃありません!!エリオ君の意識が朦朧としている間に、ファーストキス奪われちゃったんですよ!?汚されたんですよ!?」

アリシア「………ねぇ、流石にこれは怒っても良いわよね?」

連音「気持ちは分かるが、落ち着け。とりあえず、お前も言い過ぎだな」


(竜魔の忍、鋭い視線を桃色の召喚士に向ける)


キャロ「で、でも……大体、連音さんは良いんですか!?」

連音「何が?」

キャロ「だ、だから……あ、アリシアさんが他の人とああいう事をして、平気なんですかッ!?」

連音「緊急時に気にする方がおかしい」

キャロ「うぅ……っ」

連音「そもそも、応急処置は早ければ早いほど良い。助かる確率も上がるし、予後の経過も良くなる。そんな時に拘るべき事じゃない」

アリシア「ツラネだって、した事在るよね………クロノ君に」

エリオ キャロ「「!?!?」」


(突然の暴露にちびっ子二人驚き、どん引き)


連音「あの時は人工呼吸だったがな……あいつの任務に同行して……まぁ、内容は言えないが、海に落ちて、あいつの呼吸が止まった時があってな……」


(竜魔の忍、思い出しながら語る。色々と大変な事件だったらしい)


古鉄《それはもしかして、クロノさんが入院した時の事件ですか?》

アリシア「そうそう。艦長就任の少し前のヤツ」

連音「あいつ、息を吹き返してすぐに戦おうとしたから、もう一度気絶させたりして……大変だったな。
まぁ、そういう訳だ。大した事じゃない……人の命に比べればな?」

キャロ「………はい」


(桃色の召喚士、一応は納得したようだ)


アリシア「大体、私とキスして良いのは………世界に唯一人だけなのよ?」


(金色の女神、ウインクと共に唇に触れて、竜魔の忍を見る)


古鉄《出ましたね、のろけが……あれですか?テスタロッサの血筋なんですか?》

エリオ「やっぱりお二人はそういう関係なんですか……?」

連音「全然違う」

アリシア「即行で否定された!?」

連音「――――そういう言葉では、形容する事は出来ない」

アリシア「あ、あう………」

古鉄《さらりと言う辺り、流石ですね……》


(真っ赤になってしまった金色の女神をそのままに、EDの曲が流れる)





連音「さて、今回はここまでとなる訳だが……とまと本編と比べてどうだった?」

キャロ「えっと……ヤスフミさんがカッコイイのはおかしいので、是非訂正して欲しいです」

エリオ「僕の出番って、あれだけですか?」

古鉄《そこはデフォルトなので、OKです》

エリオ「そうなのッ!?」

連音「では、丁度時間となったところで……今回のお相手は、辰守連音と」

古鉄《古き鉄、アルトアイゼンと》

エリオ「エリオ・モンディアルと」

キャロ「キャロ・ル・ルシエでした」

アリシア「―――ハッ!?ア、アリシアでしたーーーーーーーッ!!」


(全員が手を振って、暗転。金色の女神、失態に苦笑い)


















おまけ

連音VSクラーク


「ハァッ!!」
「ぬぅんっ!!」
「つぇあっ!!」
「グフッ!?」
「――ッ!?」
「せぇい!!」
「初伝技 龍旋!!」
「フラッシュ・ナックル!!」
「龍旋・追之太刀!!」
「バルカン・ストライクッ!!」
「ハァアアアアアアッ!!!」
「ウォオオオオオオオオオッ!!」


「………申し訳ありませんが、ここまでのようです」
「何だと………うッ!?」










古鉄《……何ですか、これ?》

連音「戦闘シーンから、ト書きを抜いたやつだ。ちなみにト書きを入れると、4ページ位いくらしい」

古鉄《……ト書きを抜いたというより、手を抜いたんでは?》

連音「―――よし、座布団一枚やろう」

古鉄《やった〜!》



キャロ「リイン曹長の言ってた事って、あれの事なのかな……?」

エリオ「多分、違うと思うよ……」







おしまい。





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