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頂き物の小説
第三話  遺産を狩る者 ―レガシィ・ハウンド ―




















劣勢きわまる状況。
追い詰められるストライカー達。


行方の分からないエース達と、突如現れた謎の敵。


混迷極まる状況に、異端なる魔導師が宣戦布告する。









   とある魔導師と古き鉄の物語 異伝


 ――― とある魔導師と竜魔の忍の共闘 ―――


  第三話  遺産を狩る者 ―レガシィ・ハウンド ―






Side スバル





もうダメだ。そんな風に一瞬でも考えてしまった瞬間、光が散った。


それは、まるで流星の様で、とても綺麗だった。










目の前に立っているのは、ここに居ない筈のヤスフミ。

どうして、ここに?

「どうしてって、助けに来たに決まってるでしょ?」
《あなたに何かあったら、良太郎さんに何て言えばいいんですか?》

ちょ、どうしてそこで良太郎さんが出てくるの!?おかしいよね!?

―――――あぁ、この喋り方……本物のヤスフミだ。

いつの間にかあたしは、もう会えないような……そんな風に思っていたって、ここで気が付いた。

そんなあたしに、ヤスフミは呆れたような視線を向ける。

「もしかして、もう会えないとか、帰れないとか、なんてバカな事を考えてた?」
「え!?いや、そんな事……ないよ」
《「嘘だ!!」》
「ハモった!?」
ていうか、それってティアの台詞だよね!?え、違うの?元ネタ?中の人って……何?

「ま、KYなハチマキわんこは、ほっとくとして」
「それ、酷くない!?」
あたし、すっごく頑張ったんだよ!?ていうか、KYじゃないもん!!わんこじゃないもん!!

「どうどう……落ち着いて?」
フェイトさん、あたしは馬でもありません……。

あたしの倒れそうな体を、優しく支えてくれているフェイトさん。

背中に感じる温かさが、不安や疲れとかを解かしてくれているみたいで、凄く気持ち良い。





「お話は、終わりましたか?」
「まぁね。にしても随分と律儀だね?この間に逃げようとか、攻撃しようとか考えなかった訳?」
「ふむ……不意討ちは私の美学に反しますし、逃げるのも……あなたが背を向けた瞬間に攻撃をしてきそうでしたから」
「…………チッ」

小さく舌打ちした!?やる気だったの!?


《「まさか〜、そんな訳無いじゃないですか〜?」》

嘘くさッ!!

「おーけー、帰ったら本気で模擬戦してあげるよ。セブンソードとかクレイモアとか解禁で」
《いやー、それは楽しみですねー》
なんて言葉を、すっごく黒い笑顔で言わないで!?本気で怖いから!




………………………あれ?そういえばあたし、あの人にコテンパンにやられたのに、何でこんなに元気なんだろう?

なんか、体にも力が………あれ?


「もう、大丈夫かな?」
「えっ?」

スッと、フェイトさんが離れた。

「応急処置だけど……とりあえず、まともに動ける位には治したから」
「治したって……凄い!フェイトさん、回復魔法も………っ!?」
あたしはそこで気が付いた。

フェイトさんのバリアジャケットが、いつもと全然違う……ううん、違う、そうじゃない。

何となくだけど………違う。誰?



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



Side out






不審そうな感じの表情を受けるスバルに、アリシアはちょっと感心した。
感覚的なものだろうが、自分とフェイトの違いに気が付いたのだろうと思ったのだ。

「初めまして。フェイトの姉の、アリシア・T・辰守よ。体はどう?」
「あ……は、はい!大丈夫です!!」
まじまじと、アリシアの顔を見ていた事に気が付いて、スバルは慌てて謝った。


「ヤッちゃん、こっちはもう良いよ」
「了解。んじゃ、始めますか……」
恭文がアルトアイゼンを正眼に構える。

「その前に一つ、お尋ねしても宜しいですか?」
「何?」
「私の後ろで気配を消している方は………お知り合いですか?」
「――ッ!?」

クラークが親指で、後ろの瓦礫を指し示すと、恭文とアリシアの表情が変わる。



「―――ほう、俺に気が付くか」
「え…!?」
そのくぐもった声に、スバルが驚く。瓦礫が揺らめいて、そこに人が現れたからだ。
「連音さんの陽炎に気付いたって……マジか?」
《どうやら、かなりの実力者のようですね。スバルさんが勝てない訳です》
「え?どういう事…?」
恭文とアルトが深刻そうに言うが、スバルには何の事か全く分からず、首を傾げるばかり。

「恭文、アリシア。彼女を連れて先に行け。予定通り、俺が相手をする。後は頼む」
「……分かりました。スバル、行くよ?」
「え、ちょっと待って!?」
「はいはい、良いから行くわよ?」

何かを言いたそうなスバルを押して、二人はその場から離れる。





やがて瓦礫と化したショッピングモールから、三人の気配が消えた。


「さてと、もう宜しいですか?申し訳ありませんが、こちらも余り…時間が在りませんので」
「それはこちらも同じだ。出来るなら、早く終わらせたいものだ……」

クラークが拳を握り、構える。そして連音も琥光の柄に手を掛けた。










「ちょっと待って!待ってってば!!」
恭文に手を引かれ、アリシアに背中を押されていたスバルが、叫ぶように懇願する。
「何さ?こういう時ぐらいは、KYを発揮しないでくれる?」
「あたし、KYじゃないもん!!て、そうじゃなくて!!」
モールから充分離れたので恭文が手を離すと、すぐにスバルは引き返そうとした。
「こらこら、何処に行く気?」
すぐさまアリシアに止められる。
「あの人……クラークって人!凄く強いんです!!だから!!」
「戻ったって、邪魔になるだけよ?」
「う……で、でもあの人一人じゃ……!」
《残念ですが、あなた程度の腕では連音さんの助けにはなりませんよ?むしろ、足を引っ張るだけです》

「そ……そんな事、やってみないと!」
「やらなくても分かる。こっちが態々目立つ様に動いていたのに……アイツ、こっちの警戒しながら、後ろの連音さんに気が付きやがった。
万が一にもって打ち合わせといたけど……あれはちょっと、面倒な相手だ。うん」
《まぁ、不意討ちを仕掛けて失敗したら、連音さんが一人で相手をする。そういう段取りになっていたんですよ。
時間にも制限がありますから、気にしなくて良いですよ?》
「で、でも!じゃあ、あの人が危ないよ!?」
「でもじゃない。連音さんが『後を頼む』って言った。それだけで充分だ」
「そ、それでも!」
尚も食い下がろうとするスバルだったが、その頭にポン、と手が乗せられた。

「心配してくれるのは嬉しいけど…でも、それは後にして?あなたにはあなたの、するべき事が在る筈よ?」
「するべき事……?」
「あなたはどうして、独りで戦っていたの?その理由は?」
アリシアの言葉に、スバルは思い出した。
「そうだ……、ティア達が!あの人の仲間に追われてるんだッ!!」

―――ゴスッ!!!

そう叫んだ瞬間、恭文がスバルの頭を鞘で叩いた。
「いった〜いっ!?」
「バカじゃないの!?何でそれを早く言わない訳!?だからKYなんだよ!!」
「ちょっと、ヤッちゃん!女の子の頭をそんなので叩いちゃだめよ!!」
《安全な材質で出来ていますから、大丈夫ですよ?》
「うん、捻り潰すわよ?」
《申し訳ありませんでした。猛省させますのでお許しを》


「――で、ティアナ達は何処にいるのさ?」
「それが、分からないんだよね……一等客室の方に行ったのは見たんだけど」
スバルは申し訳無さそうに肩をすくめる。
「スバルちゃん?他のメンバーの状態は?怪我した人とかいる?」
「えっと、エリオとリイン曹長が……エリオはなんか毒みたいのにやられて、リイン曹長も気を失ったままで……」
「ッ!?リインが!?ちょっと、それどういう事!?」
「っ!?キャッ…!?ヤスフミ……!?」
大切なパートナーであるリインの事を聞き、恭文は思わずスバルの襟を掴んでいた。
突然の事にビックリするスバル。

感情を抑えられない恭文の手を、アリシアが解いた。
「少しは落ち着きなさい。それで、なのはちゃん達は一緒なの?」
「隊長達は、あたし達を逃がす為に……囮になって…………でも、大丈夫って……」
「……大丈夫、その為に私達が来たんだから。とにかく今は、ティアナちゃん達を探しましょう?」
アリシアは、弱々しくなるスバルの頭を優しく撫で、抱き締める。
その姿は、いつものおふざけな姿とは違い、慈愛に満ちた聖母の様であった。

「恭文も……良いね?」
「――はい」
恭文は素直に返事をした。
その返事を聞き、アリシアは満足そうに頷く。
「じゃあ、まずは一等客室に向かいましょう。怪我人がいて、追われている以上、すぐには離れられない筈だから」

普段はともかく、こういった時には、やはりアリシアがフェイトの姉であると、恭文は実感してしまう。

冷静に事態を把握し判断を下す。アリシアは捜査官としても、指揮官としても優秀であった。

《というか絶対に、はやてさんより向いてますよね?》
「うん…アルト、絶対に言ったらダメだからね?言ったら狸、辞表出すと思うから。そうなったら、4期とか言ってられないからね?」
《イエス、マスター》




モールを出て、客室に向かう。
入り口には数人の兵士が立ち、警戒をしている。
「さて、どうしたものかな……?」
《動きだけでも、練度が高いのが分かりますね……》
「いつもみたいに、ドーンとやったら?」

《「その瞬間、蜂の巣」です》

「スバルちゃん、もうちょっと考えようね〜?」
「はい、ごめんなさい……あれ?」
全員に駄目出しを喰らい、軽く凹むスバルだったが、直後に兵士が持ち場を離れたのに気が付いた。

「あ、あれ?どうして……?」
混乱するスバルをそのままに、恭文達は渋い顔をした。

ティアナ達を追っている状況で、入り口を見張っていた人員が動く。その理由は一つしかない。


つまり、発見されたという事だ。

「スバル行くよ!」
「えっ!?」
声を掛けるが早いか、恭文達は走り出していた。

ドアを潜りフロアに入るが、既に何処にも兵士の姿は無い。
「クソッ!なんて足の速さだ!」
「一等客室は三階まで。ヤッちゃんとスバルちゃんはこのまま一階から。私は三階から行くわ」
「待って下さい!一人は危ないですから、あたしが一緒に行きます!」
恭文の強さを知り、アリシアの実力が不明な以上、スバルの言葉は正しい。
だが、アリシアは首を振った。
「大丈夫。自分の身ぐらいは守れるから。それにね……」
スバルの耳にそっと唇を寄せる。その姿は何故か色っぽく、スバルも、それを見ている恭文も顔が熱くなってしまう。
(ここだけの話……十中八九、ヤッちゃんが当りを引くと思うの。あの子、悪運強いし……なら、戦力は多い方が良いでしょ?)
(……なるほど〜、納得です!!)
うんうんと頷くスバル。それを恭文は怪訝そうな顔で見ていた。

「スバル、帰ったら本気でやろうか……大丈夫、死ぬ気で来れば死なないと思うから」
「えぇ!?何で、そんな単色の目であたしを見てるの!?ていうか、矛盾してるよね!?」
「じゃ、私は先に行くね〜♪」
「あっさりと逃げたぁっ!?」

スバルを見捨てて、アリシアはさっさと階段を上って行ってしまった。
「じゃあ、こっちも行こうか?」
「うぅ〜、お願いだから目のハイライトを戻して〜!」

《「だが断る!!」》
「アルトアイゼンまで!?」















三人が一等客室に向かった同じ頃、ティアナは階段で身を隠していた。

そっと廊下を覗き込めば、先刻の隊員達がスリーマンセルで部屋を一つ一つ調べているのが見えた。
一人が廊下を警戒し、二人が室内に足を踏み入れて捜索する為、抜ける隙が無い。

(兵士が三人。他の階とモールに繋がるドアは、抑えられていると見るべきね……)

ティアナはどうやってここを切り抜けるか、思考する。
部屋の数は多い。キャロ達のいる所まで辿り着くには、時間が掛かる筈だ。

なら、この階の三人を一瞬で倒す。

「行くわよ、クロスミラージュ……!」
《Yes,Sir》
隊員二人が部屋に入ろうとした瞬間、カートリッジを発動させて階段から一気に走り出す。
見張りの隊員がすぐにティアナに気付くが、既に魔法は発動している。
互いに銃口を向け、引き金を引く。
「シュート!!」
クロスミラージュから、連続して魔力弾が発射され、兵士の銃口からも、鉛弾が発射される。

だが、不意討ちに狙いを澄ませられない向こうと違って、ティアナは狙いを完璧に付けていた。

シュートバレット。
射撃の基本魔法ではあるが,カートリッジで威力を上げ、連射する事で充分すぎる効果を生み出せる。

ティアナの脇を銃弾が過ぎるが、臆する事無く突っ込んだ。
「グフッ!?」
入ろうとした兵士も動くが、既に遅い。
ツーハンドの一丁をダガーモードに変え、通り過ぎざまに斬り捨てる。
「がはっ!?」
そして最後の一人に向けて、魔力弾を叩き込んだ。
「グアァアアッ!!」
短い悲鳴を上げて、武装隊員がバタバタと倒れ落ちる。
気絶したのを確認してからバインドで拘束すると、そのまま部屋に押し込む。
外からドアにバインドを掛け、このままモールの入り口にまで行こうとした。



「一人、見〜つけた♪」
「――ッ!?」
突如、真後ろからした声にビクリし、反射的に飛び退く。
デバイスを構えて振り返れば、ハンドアクスを持った金髪の少女がいた。

「鬼ごっことかくれんぼは、もうお仕舞い?じゃ、ここからはアタシのターンね?」
そうにこやかに言うと、金髪の少女がニヤリと笑った。
まるで獰猛な獣が牙を向いたような笑顔に、ティアナは悪寒を覚えると同時に横に跳んでいた。

瞬間、ティアナの立っていた場所が粉砕されていた。飛び散る破片がティアナを戦慄させる。

「へぇ、今のを避けるなんて……う〜ん、楽しくなりそう……!」
今の音を聞きつけ、階段と廊下の向こうから隊員が現れる。
「クッ…!」
退路を完全に絶たれ、ティアナがギリ、と歯軋りする。

少女は床に減り込んだ斧を引き抜いて、後ろの部下に投げ渡す。
代わりに、右手中指にはめられた指輪が光を放った。
「アムピスバイナ、セットアップ!!」
《Okay lady,Setup!!》

デジタルな声と同時に、アッシュグレーの魔力光が輝いた。
「ハァッ!!」
気合と共に光が砕け散り、その中から姿を変えた少女が現れる。

スレンダーな体のラインに張り付いた青のインナーと、その上にショルダーガードの付いたジャケット。
そして下はショートパンツ、膝から下を覆うようなレッグガードが装備されている。
プレート付のグローブがはめられた手には、鈍く碧色の輝きを放つ斧が握られていた。

斧の柄には竜が象られ、翼が斧刃になっている。
その竜の目が光る。
《Lady,ご機嫌は如何かかな?》
「まぁ、悪くは無いわ……それより、面白いものを見つけたわ」
《? Ladyの気を惹くものが在るなんて、また珍しい……》
「アタシの攻撃を躱して見せたのよ。なかなか面白いでしょう?」
《なるほど、それは確かに……でも、それだけじゃないんでしょう?》
少女はニヤリと笑って、ティアナを指差した。
「……?」
ティアナは自然と、その指が指し示す所に目線を送った。
それは自分の手。そこに在る物―――クロスミラージュ。

「そのデバイス、性能はかなり高いようだけど………」
「…ッ、何…?」
「――― デザインがダサいわ」
「………………………………はぁ!?」
余りにも予想をぶっちぎった発言に、思わず素になってしまう。
「何なの、その美しさの欠片も無いデザインは!?あれ?シンプルなラインなら機能美が表現できるとか勘違いしてるの?
まったく……、だから管理局のデバイスマイスターは、センスが無くて嫌なのよね〜。美というものを全然、理解してないんだから」
(な、何なのコイツ……人の相棒を散々……!)
「ほら、あんたも何か言ってやりなさい?」

ティアナの前に、いきなり空間モニターが現れた。
「ッ…?」

【     (¬Δ¬) =3    】

このマスターにして、このデバイスあり。

「態々モニターまで出して……なんていやらしい性格なの……!?」
ティアナは人生で一、二を争うほどの怒りを覚えた。こんなくだらない相手に怒る自分にも怒りを覚える。
《………理解しました。これが“怒り”というものですね?》
クロスミラージュも珍しく、感情を露にしている。

「アンタ達は手を出さないで。そのまま隠れてる奴らの捜索に戻りなさい!」
「「「イェッサー!」」」
敬礼をし、隊員達が散らばっていく。
(ッ!不味い、キャロ達が……!!)
階段側の隊員に向けて引き金を引こうとするが、その瞬間、衝撃が襲った。

クロスミラージュのオートバリアに、少女の足が減り込んでいた。
「もうゴングは鳴ってるのに、他に気をとられるとか……バッカじゃないの!?」
《Lady,所詮は管理局の魔導師……戦場の心得ってものが欠けているのさ》
「なん……ですってぇ……ッ!!」
アムピスバイナの言葉に、ティアナが怒りを滲ませる。

ジェイル・スカリエッティの起こしたテロ事件の際、ティアナは戦闘機人三人に追い詰められながらも、勝利を勝ち取った。

ずっと平凡で、突出した技能も魔力も無く、努力しかないと思っていた自分が、自分が多くを学んだ上で掴み取ったもの。


それはティアナに、少なからず自信を与えていた。



「戦場なら……ッ!」
カートリッジを発動し、二十発以上の魔力弾が狭い空間を埋め尽くす。

「良く知ってるわよッ!!」
《Fire》
「――ッ!」
だからこそ、怒りを覚えたのだ。


ティアナの掛け声を受けて、一斉に少女に襲い掛かる。

瞬く間に閃光、爆発と続き、行き場の無い爆風が吹き荒れる。


その隙にワイヤーを射出し、一気に間合いを引き離す。
ミドルレンジ。自分の領域に敵を追い込む。
「ゴングが鳴ったのに、人をバカ呼ばわりするとか……バカじゃない?」
《Sir,所詮は何処の馬の骨とも分からないデバイス。仕方ありません》

「―――あんた、アルトアイゼンに影響されてきてない?」
《そんな事はありません。えぇ、全くです》
「そ、そう…………」
若干、自分のデバイスに疑問を持ってしまう。
任務を終えて帰ったら、ちゃんとメンテナンスをしてもらおう。そう心に決める。

AI系を特に重点的に。




「―――ッ!?」
ティアナの思考は一瞬で中断された。
念を入れて、いつでもシールドを発動出来るようにしておいたのが幸いした


目の前には、高速で回転し続ける斧刃があった。
「―――ふぅん、そう……そうなんだぁ」
白煙の向こうに、影が浮かぶ。


「……じゃあ、やろっか?」
腕を振るうと、更に斧刃がティアナに襲い掛かってきた。

煙の向こうから、少女が凶悪な笑みを見せる。
更に腕を振るい、斧刃が襲い掛かる。

今度は三つ。
既にシールドは限界。これ以上は持たない。
「チッ!」
シールドが砕かれると同時に横に跳び、シュートバレットで迎撃する。
撃ち落せなくても、軌道を変えさえすれば良い。

数発を纏めて当てて、軌道を僅かに逸らす。が、その際、ティアナの髪がバッサリと切り落とされる。
「……ッ!!」
床にパサリと音を立てて落ちる束。舞い散るオレンジ色の髪。

髪を切り落とされたショックも覚めやらぬまま、ティアナはある事実に戦慄する。


「解きなよ。非殺傷なんて免罪符……邪魔でしょ?ここからは――」


攻撃が全て、非殺傷解除。

当たれば、一瞬で命をもぎ取られるという事を。



「―――戦場の鉄の掟、生き延びた奴が勝者………本気の殺し合いだよ!!」


それすらも、少女は獣の笑みをもって向かい入れる。



「It’s!!」
《Shooooooow Time!!》
少女が吼えると同時に地を蹴って、真っ直ぐに駆け出す。
「クロスミラージュ!!」
《Load Cartridge》
クロスミラージュのカートリッジを発動させ、魔力弾を形成する。

今度は数ではなく質。一発一発に威力を込めた物だ。急所に当てれば意識を断ち切れる。
「シュートッ!!」
合計十発の魔力弾を、タイミングをずらして連続発射する。


最初の数発を、少女は難なく躱す。
そこに壁に沿うように更に数発と、正面から速度を落とした残りを。

最初の外したものも、すぐに追尾を掛けている。

魔力弾による包囲攻撃。通路のような細長い空間では、これを回避する事はほぼ不可能。

「―――ッ!?」
だが、少女はその笑みを崩さないまま走り続ける。まるでティアナ以外、目に入っていないかのように。

一転突破。ダメージを負う事に一切の躊躇が無い。

まずい。すぐさま一斉に仕掛け、次の行動に移る。


魔力弾が全弾爆発し、白煙が巻き起こる。
その中から、スピードを落とさずに少女が突き抜けてくる。
ダメージは受けているが、本人は更に闘争心を剥き出しにしている。


ダガーモードを両手に構えたティアナが、少女の前に踏み込んだ。

相手は視界を奪われていた上、こっちが接近戦を打って来るとは思わない。
だからこその不意討ち。



そして、その後ろに”ティアナ”は構えていた。シルエットを囮にして突撃させたのだ。


足を止めさせれば、分は此方にある。
構えるのは、威力を最大に高めたクロスファイヤーシュート。
幻影に足を止めた瞬間、それを撃ち込む。


「――ッ!!」
少女が強く踏み込み、ブレーキを掛ける。
同時に、アムピスバイナを後ろに引いた。


シルエットはそのまま、少女に向けてダガーを振り下ろす。
「アムピスバイナァッ!!」
《Load Cartridge》
竜の腕の中にある装飾が動き、カートリッジが排莢される。すると、斧刃に灰色の光が揺らめいた。
《Burst Wave》
「ブッ飛ばせ、バーストウェイブッ!!」
咆哮と共にアムピスバイナを床スレスレに振るうと、アッシュグレーの地走りが奔る。

それはシルエットを消し飛ばし、真っ直ぐにティアナに襲い掛かった。
「なっ!?」
慌ててクロスファイヤーをバーストウェーブにぶつける。巻き起こる爆発が視界を覆い隠す。
「ッ!ヤバッ!!」
ティアナは近くのドアを撃ち抜き、そこに飛び込む。
一歩遅れて、そこにバーストウェーブが到達し、壁と床を吹き飛ばす。
吹き込む破片と爆風に、ティアナは無意識に唾を呑み込んだ。

(不味いわね……向こうの方がこういった状況に慣れてる……!早くしないとキャロ達が危ないってのに!!)


ティアナは部屋の奥に走る。ミドルレンジの攻撃手段がある以上、迂闊に攻めに転じる事が出来ない。

「あーっ、もう!ヤスフミとの模擬戦でもそうだったけど、何てやり難いのよ!!」

クロスレンジで圧倒されて、ミドルレンジでは射撃と砲撃を隠し手で持つ。そんな相手がどれだけ厄介か、
ティアナは恭文との模擬戦で、嫌というほどに思い知らされていた。

「それにしても、あの魔法は厄介ね……クロスファイヤーでも相殺出来なかった……」
威力もそうだが、あのタイプの魔法を今まで見た事が無かった事がきつい。

なのはもフェイトもヴィータも、キャロもリインもヴァイスも恭文も。
射撃、砲撃を使えるものは威力や属性などは違っても、大抵は同じ。
空中を飛び、敵を撃つ。それが普通である。

だのに相手は、それを覆す地面を走る射撃魔法を使う。陸戦魔導師にとって、あれはかなり嫌な攻撃だ。

地に足が着く限り、攻撃の範囲に居る様なものだ。

しかも空間が狭くて、あれだけの威力なら連発できないだろうから、撃たせて撃つ。という戦術も使えない。

「でも、スピードはこっちが上だった……勝てない相手じゃない」

偶然だが、一等客室はおよそ船内の宿泊施設とは思えない程に広く、廊下で戦うよりも都合が良い。


シルエットを備え、オプティックハイドで姿を消す。


聊か卑怯だが、非殺傷解除が相手だ。使える状況は使わせてもらう。


ティアナはリビングルームのソファーにシルエットを隠し、敵を待ち受けた。



その最中、激震が走った。












《Lady,いきなり派手に行ったな。これ、どうするんだい?》
「良いじゃない。どうせ二時間後には、陸の連中が沈めるんだから」
《それはそうだ。しかしあの魔導師、まさか幻術使いとは……また渋いものを………》
「確かにね〜。でもまぁ…まだまだね。あれ位の使い手なら“裏”には結構いるものよ?」
《で、隠れられた訳だが……絶対に、待ち伏せを掛けているだろうな?》
「……入り口は一つだけ。でも態々、そこから入ってやる必要なんてないわよ」

少女――ローラ・ヴァリスは、壁を前にしてニヤリと笑った。
「行くわよ。フォーム・ハルバードッ!!」
《Halberd Form》
カートリッジが爆発し、アムピスバイナが変形する。
柄は一気に槍の様に伸び、斧刃も二周り大きくなり、刃の反対側にウォーピックが追加される。


巨大な重量兵器に変じたそれを、ゆっくりと後ろに引く。
「―――剛撃両断」
更にカートリッジを爆発させ、足元にベルカ式魔法陣を展開すると、巨大な魔力が烈風となって吹き上がる。
「サークル・ザッパァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
魔法陣の回転と逆方向に、ローラが斧ごと、その身を回転させる。


一瞬遅れて、壁や床に亀裂が走り、轟音と共にまとめて粉砕される。
飛び散る破片。巻き起こる粉塵。ローラの周りは既に崩壊し尽くされていた。

それだけではない。迸った衝撃波によって、この廊下そのものがボロボロに変わり果てていた。


ローラはゆっくりと『作り出した』入り口から、室内に足を踏み入れた。
バスルームだったであろうそこは、あちこちから水が噴出し、残骸だらけの床を隙間無く濡らしていく。


ジャリ、ジャリ、と、足音を鳴らして歩を進めれば、豪華であっただろう客室も、無残に粉砕されていた。
そして、その瓦礫の中から這い出した相手を見つけ、ローラはニヤリと笑みを浮かべるのだった。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




Side ティアナ


待ち構えるあたしを襲ったのは、凄まじいまでの衝撃だった。

まるで、嵐が直撃したのではないかと思うほどの、轟音と突風。
全てを薙ぎ払い、粉砕する……魔獣の爪。


壁が砕け、あたしは瓦礫ごと吹っ飛ばされていた。


壁ごとぶっ飛ばすとか、どんだけ無茶苦茶なのよ!!

受身も取れずに床に叩きつけられるが、カーペットなのが幸いし、ダメージはそれ程受けなかった。
でも、すぐに瓦礫やテーブルの破片やらが降り注ぐ。
慌ててプロテクションを展開し、身を守る。
「くぅ………ッ!!」




そして異常に長く感じられた数秒は終わりを迎えた。

乗っかった残骸から抜け出てみれば、そこには悪魔が居た。手にしていた斧はまるでフェイト隊長のバルディッシュのような形状に変わっている。
それを突き立てて、ニヤリと笑った。

「良かった……死んだかと思ったわ」
「お生憎様ね……あたしは、こんな所で死ぬ気はないのよ!!」
出来る限りの虚勢を張って、あたしはアイツを睨みつけてやる。

既にこっちは向こうの間合い。踏み込んでくる速さを考えれば、躱すのは困難。

しかも動きや行動から見ても、ナンバーズとは比べ物にならない程の経験値。


ダメージを覚悟で真っ直ぐに走ったのは、最小限のダメージで敵を倒す為。

力技で壁を薙ぎ払ったのは、死角に隠れたあたしを炙り出すのと同時に、確実な進攻ルートを確保する為。


一見、バカな行動に見えるそれは、実に理に適っていた。



(本気でヤバイ………コイツ、マジで強い……!!)

考えろ、この状況で打てる手の全てを!!

まともにぶつかれば、潰されるのは間違いなくこっち。
でも、あれだけの長さになった以上、その内側に潜り込めれば?

―――いや、それはダメだ。自分のデバイスの得手不得手ぐらい、熟知している筈だ。

それに、あれだけ慎重さと大胆さを持った相手が、懐に入ろうとする相手に何の警戒も対策も取っていない訳が無い。

幻術は?
ダメだ、シルエットの維持で動けない。姿を消してもさっきの攻撃で引きずり出される。

射撃は?
ダメだ、引き金を引いた瞬間に、突っ込んで来る。



そんなあたしの思考を読んだかのように、目の前のアイツは可笑しそうに笑った。
「フフフ……もう、打つ手無し?諦める?なら、楽にしてあげるわよ?」
「――ッ!誰が……!!」
「射撃型、幻術付のオールラウンダーといっても、その程度じゃ……精々、器用貧乏がいいところね」
「クッ……!」
悔しいけど、言い返せない。今の自分は……無力すぎる。

そしてコイツは、一転して興味を失くした様に表情を消した。
「――じゃ、バイバイ」

でも、だからって……やられっぱなしじゃないのよ!!

「ダガーエッジ!!」
あたしは右をダガーモードに変え、左をガンモードのまま。
「――!?」
奴の表情が変わった。今だッ!!
あたしは左を大きく振るった。
クロスミラージュの先には不安定なダガーエッジ。

バカな無茶をした時に作ったそれを、もう一度あたしは作り出した。


ヤスフミとの模擬戦の後、色々と考えていた。
正直に戦う事の限界。なのはさんの様な魔力がある訳でも、ヤスフミみたいに武器を扱える訳でない。

だから、自分の手札を増やす事を考えた。

そのうちの一つ、これが――!
「ダガーショット!!」
《Dagger Shot》
振り抜かれたクロスミラージュの先端から、切り離されたダガーエッジが飛ぶ。

モード2では安定しているダガーだけど、不安定なモード1だからこそ使える魔法。
ヤスフミが色々投げるのを参考にして作った、あたしの隠し手。


「ぐぁ…っ!?」
不意を突いたそれは、狙い通り奴の右腕に突き刺さった。


どれだけデバイスや魔法の威力が高くても、片腕を、利き手を潰されれば今までのようには行かない!!

あたしはモード2から1に切り替え、狙いを定める。

急所に撃ち込めば、決まる。あたしは迷わず連射した。
「シュートッ!!」
「チッ!!」
巨大な斧を左手一本で振るう。だが、その大きさゆえに体が振り回されている。

それで良い。バランスを崩した今、本命を撃ち込む。

連射の中に紛れ込ませた本命をコントロール。真後ろから迫るそれは必中必倒の一撃。おまから動いても遅い――――――その筈だった。




「ぬぅううううん!!」
連射の中、魔力を込めてダガーを強引に砕いたと思った瞬間、

《Twin Blade》

その右手に”最初と同じ姿のデバイス”が出現し――――

「ハァアアアアアッ!!」

――――――――――――――本命を、真っ二つに切り裂いていた。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



Side Out




切り裂かれ爆散する魔力弾。
舞い上がる白煙の中、ローラは二丁の斧を携えていた。
ハルバードに変わっていた方も、ハンドアクスに変形する。

その一連の出来事を、呆然としたままティアナは見ていた。

「さっきの言葉は取り消すわ。貴方、結構面白かったわ……でも、本当にこれで終わりね?切り札を切った以上、チェックは掛けたも同然……」
「トゥーハンド(両利き)……!?」
「まさか、自分以外にいるとは思わなかった?しかもそれが、銃で無く斧を使うだなんて……」
《だから言っただろう?所詮、管理局の魔導師なんて、戦場の心得が欠けてるって》
「戦場で絶望したら………そこで最後なのよ?」

ローラは軽く笑って、斧を振り上げた。


「どりゃぁアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
瞬間、壁が砕け飛び、青い烈風が駆け抜けた。
駆動するギア、白煙を上げるホイール。ハチマキをなびかせて、スバル・ナカジマが突貫する。
繰り出された拳を、ローラは斧を交差してガードするが、その勢いは止め切れない。僅かに拮抗した後、吹き飛ばされてしまった。

「く…!ぁああああああああッ!?」
向かいの壁をぶち破り、隣の部屋まで弾き飛ばされた。


「大丈夫、ティア!?」
「す、スバル……!?あんた、何で…!?」
突如現れたスバルに、ティアナは困惑した。モールで戦っていた筈なのに、どうして此処にいるのか。
「あぁ!?ティアの髪が無くなってる!!」
「そんな事どうでも良いわよ!!あんた、あのでかいマッチョはどうしたのよ!?」


「このっ……クソガキがぁ!!あたしの自慢の髪が汚れたじゃない!!」
瓦礫を蹴り飛ばし、壁に出来た穴からローラが怒りの面持ちで出てくる。
「クソガキって……そっちの方が年下じゃない!!」
「はぁ?あたしは18だ!!」
「「うっそ!?」」
《Lady,少し冷静になった方が良い。どうしてMr. クラークが相手をしていたGirlがここにいるんだ?》
アムピスバイナの言葉に、ローラはハッとした。
「まさか、あのゴリマッチョ親父!!逃げられたの!!?」
《万が一そうなら、まず追いかけてくるだろう?つまり――》


「スバルッ!!」
真後ろからした声に反応し、スバルはティアナを抱えて横に跳んだ。
「―――ッ!?」

《Icicle Cannon》
その刹那、スバルの現れた場所から閃光が放たれた。


氷結の閃光が迸り、ローラは再び壁の向こうに吹き飛ばされた。


「今のって……まさか!?」
唖然とするティアナに、スバルはニッと笑う。
開けられた穴から出てきたのは、砲撃の余波で掌から白煙を昇らせた恭文だった。

「やったねヤスフミ!!」
「やったねじゃない!作戦通りやってくれない!?」
「でも、直撃だよ?結果オーライって事で……」
《あなた、バカですか?どこが直撃なんですか?》

「―――え?」

スバルが振り返るよりも早く、恭文が踏み込みを掛ける。アルトを抜き放ち、それに叩き付けた。
飛び散る火花。擦れる金属音。すぐさま弾くように、斬撃が飛び交う。

「くぅ!?」
二丁の斧が繰り出す連撃に、恭文は押し込まれ始める。

低く飛び退き、同時に飛針を投擲する。
ローラがそれを一撃で叩き落し、恭文に向かって再び迫ろうとする。

しかしすぐにその足を止める。恭文の指に、光が集っていたからだ。
《Stinger Ray》
奔る閃光。
《C・S Protection》
それを、曲面を描いたシールドで後ろに弾く。そして、駆け出す。

生半可な射撃は通用しないと判断し、恭文はアルトを構え直して、逆に迎え撃つべく走り出す。

ローラもシールドを解くと同時に、更に踏み込みを掛けた。
間合いは、既に互いの命に手が届く所。

翻る刀身が、ローラの髪を散らす。
返す刀を斧で打ち伏せ、その凶刃が真っ直ぐに振り下ろされる。僅かにズボンを掠め、床を砕き割った。

「くそっ!なんつー馬鹿力だ!?」
その攻撃を受け止めるだけで、アルトを握る手が痺れる。
『スバル、ティアナを連れて、先にアリシアさんと合流しててくれる?』
『大丈夫?』
『ま、何とかなるでしょ』
いつもの調子で言ってやると、スバルの方も
『分かった。すぐに追いついてよね?』
と、返した。


「ティア、行くよ!!」
「うわぁあ!?」
ティアナを脇に抱え、スバルが走り出す。
部屋を駆け抜け、そのまま走り去る。

「……追おうともしなかったね?」
「あんたの方が面白そうだからね……名前、聞いておいてあげる」
「はぁ、何それ?そんな聞き方で誰が教えるかって」
《真・主人公のアルトアイゼンです。で、これがうちのマスターです》
「何、お前も答えてるの!?ていうか、真主人公言うな!!それと【これ】扱いするな!!」
《なんですか?ツッコミの切れが悪いですよ?あぁ、クロス物ですから、書き手の技量が》
「アウトだから!!それすっごくアウトだからね!?」

いつもの調子の漫才だが、ローラはそれよりも気になる事があった。
「アルトアイゼン……?てことは、アンタ……もしかして、ヤスフミ・アオナギ?」
「…あれ?僕の事知ってるの?」
《あなた、今度は何処でフラグ立てたんですか?》
「お前は人の事を何だと?」
《フラグ建築士一級保持者ですが何か?》
「そんな技能資格は無い!!で、どうして僕の事を知ってるのさ?」
恭文はアルトの切っ先をローラに向ける。

ローラはクスリと笑って答えた。
「一度会ってみたかったのよ、あなたと。あのいけ好かない御貴族様……あなた、ぶっ潰したでしょう?」
「っ……」
いけ好かない御貴族様。それだけで誰の事を言っているのか、恭文には分かった。
ジェイル・スカリエッティの起こした事件の裏で、殺戮の風を起こした男。


恭文と同じ瞬間詠唱の力を持った凶人。命を嘲笑う者、フォン・レイメイの事だ。


「お前……アイツの仲間なの?」
空気が一瞬で凍りつく。
「冗談。むしろ、潰してくれて清々したぐらいよ。尤も、この手で殺してやりたかったのが本音だけど……」
緊張に満ちる中、ローラは笑う。まるで、そんなものを全く感じていないかのように。

「あいつ、うちの顧客を何人も殺してくれてさ……ほんと、軽くない損失だったわよ」
《Ladyの給料、30%もカットされたしな》
「アム〜、黙りなさい」
《了解》
「とにかく、アイツを仕留めたって事で……裏の世界じゃ結構有名人なのよ?」
「嬉しくないなぁ……全然」
うんざりした様な表情の恭文と違い、ローラは嬉々とした表情を浮かべていた。
「アタシはローラ・ヴァリス。【レガシィ・ハウンド】の小隊長よ!」
《そして俺は、竜翼の剛斧 アムピスバイナ》
ローラが双斧を掲げ、大きく構える。

「時空管理局嘱託魔導師、蒼凪恭文」
《古き鉄アルトアイゼンです》
恭文がアルトを正眼に構える。

「もう一つ聞いておくわ。クラークの足止めをしているのは誰?」
「名前言っても分からないでしょ?」
「まぁね〜。でも可哀想に……そいつ、絶対にボコボコにされているわよ?」
「――うん、それはありえないから。むしろ、あのアームス○ロング家の人の方がボコボコでしょ?」
《間違いなく、そうでしょうね》
「それこそ在り得ないわ。管理局の魔導師や聖王教会の騎士程度じゃ、歯が立たないもの」
「あっそ。あの人もそれ位……つ〜か、もっと強いしね!もう、相手なんてガキンチョみたいなもんだよ」
「ゴメ〜ン間違えたわ。あのおっさんの前じゃ、エースとかストライカーとか、それこそハナクソみたいなもんだし」



「「…………ふっ」」





「誰がガキンチョみたいなスタイルだってええええええええええええッ!?」「誰がハナクソみたいな身長だぁああああああああああああッ!?」


一気に沸騰し、斬撃が連続してぶつかり合った。



《Lady,被害妄想だ!誰もLadyの事は言ってないぞ!?》
《似た者同士でしたか。いや、体型的に共通しているとは思いましたが……》
《結構、苦労しているのかい?》
《えぇ、うちのマスターは世話が焼けますので……》



「「マスターをほっといて交流するな、デバイスッ!!」」
















響き渡る轟音と、振動。

キャロ・ル・ルシエは不安な思いに必死に耐えていた。

リインは敵の攻撃で意識を失い、エリオも毒に犯されて動けない。

今、二人を守れるのは自分しかいないのだ。
「クキュ〜?」
不安そうなキャロを慰めようと、彼女の竜フリードリヒが擦り寄る。
「大丈夫だよ、フリード……ありがとう」

触れて伝わるぬくもりが、不安な心を少しだけ解かしてくれる。


ドンッ!!


「――ッ!?」
突然、ドアから音が響いた。

ドアノブが音を何度も鳴らす。

とっさに動き、ソファーに寝かせていたエリオの所に行く。
「エリオ君、こっちに!」
「キャロ……?」
「フリードはリイン曹長を!」
「キューッ!」
フリードがリインを銜え、キャロの後ろを飛ぶ。

エリオを支えながら、キャロはクローゼットの所に急ぐ。ドアを開け、中にエリオとリインを入れて閉じる。
「キャロ、待って……!」
「ここに入って……絶対に、出て来ちゃダメだからね?」
「キャロ……!」
「リイン曹長とエリオ君は………わたし達が守るから……!」


クローゼットを背に、キャロが両手を突き出す。
「いくよケリュケイオン、フリード……頑張ろう!!」
「キューッ!」
その言葉に答えるように、手の甲の宝玉が光を放った。



そして、ドアが吹き飛ばされた。
「……来たッ!!」
少しの間を置いて、複数の武装した兵士が室内に駆け込んできた。
一斉に銃をキャロとフリードに突きつける。
「死にたくなければ抵抗をせず、武装を解除しろ」
「あなた達は誰なんですか!?どうして――」

瞬間、桃色の障壁に弾丸が撃ち込まれた。
「質問は許されていない。投降か、死か……それだけだ」
「他のメンバーはどうする?」
「放って置いて良いだろう。一人は毒にやられていたようだし、融合型デバイスの方も起動していなかった。連れて行くのは一人で充分だろう」

兵士達は改めて銃を構える。
「これが最後だ。投降か死か………答えてもらおう」
「っ…!」

ケリュケイオンを構え、キャロは覚悟する。
エリオを、リインを守る為には、戦わなければならない。

相手の持っている物は質量兵器。

ガジェットのような物とは戦ったが、実際に人が構えるそれと対峙した事は無い。

非殺傷などある筈も無い。殺す為だけの存在。

(怖い……!こんな怖い事と、やすふみさんは何度も戦っているの……!?)


足が竦みそうになる。殺意が、敵意がむき出しで突き刺さる。
だけど、逃げる事は出来ない。自分の背中には守りたいものが在るから。


「それが、答えか……」
沈黙してキッと睨みつけるキャロに、兵士は狙いを定める。
「グキャーー!!」
フリードが威嚇の声を上げて飛び掛かる。
「っ!フリード!ダメ!!」
「邪魔だ」
「キュウッ!?」
銃身を振るい、フリードを叩き落す。
そしてそのままフリードに銃口を向ける。
「フリード!!」
フリードを守ろうと、その身を覆い被せるキャロに――――





引き金が引かれた。


























「…………?」
鳴り響く筈だった銃声は響かず、キャロは顔を上げた。

そこに見えたのは、兵士達の背中。


まるで、その向こうに誰かがいるかのように銃を向けている。
「幾らそれが、そっちの仕事とはいえね……」
――声が、聞こえた。
「ちょっとばかり、おいたが過ぎたわね……」
―――――怒りを孕んだその声は、キャロのとても良く知る人の声。
「う、撃てッ!!」

その声と同時に衝撃波が走り―――――兵士達は全員、壁に叩きつけられていた。


「―――反応遅すぎ。出直して来なさい!」



流れるような金色の髪を靡かせて、彼女はそこにいた。
その姿を見て、キャロの心が緊張から解き放たれる。
「ふ……ふぇ……いっく……!」
涙が溢れる。声が零れる。不安と恐怖から解き放たれ、抑えられない。

そんなキャロを、優しい眼差しで彼女は抱き締めた。
「大丈夫、もう……大丈夫だからね」
「〜〜〜っ!」
何度も、その腕の中で頷く。
強く抱き締められる苦しさが、逆にとても心地良く、キャロは大声を上げて泣いた。


「キャロ無事!?」
そこに駆け込んできたのはティアナとスバル。

が、ティアナはそこにいる人物に驚愕し、目を見開いた。
「フェ、フェイト隊長!?どうして!?無事だったんですか!?」





「う〜ん、一々説明するの面倒臭くなって来たわね……」
そう、アリシアは零すのだった。




















後書き。という名の三次創作









アリシア「君は小宇宙を感じた事はあるか!?アリシア・テスタロッサで〜す!」

古鉄《私の心に鎧が走る!古き鉄、アルトアイゼンです》

連音「辰守連音です。古いな、そのフレーズ」


(どっちも80年代のアニメネタです。当時のコ○ケカタログは、凄かったそうです)


アリシア「分かる人にだけ分かれば良いの。さて、第三話、如何でしたでしょうか?文章量がほぼ、本編と同じになってきました……」

連音「しかも、5話で終わる気だったのに……これは増えるな、話数」

アリシア「しかも、まだ突入したばっかだし……フェイト達、無事かしら?」

古鉄《前回の後書きで呼んでたでしょうが》

アリシア「昔の事は忘れたわ」



連音「で、今回は機動六課VSレガシィ・ハウンドの構図のまま、話が進んでいたな?」

アリシア「ティアナちゃんに代わって戦う恭文と、キャロちゃんを無事助けた私。で、ツラネは?」

連音「それも次回だな。ただ、どっちも強敵という事は言っておく」

古鉄《あの、一つ宜しいでしょうか?》

アリシア「なに?」

古鉄《マスターが無駄にカッコ良く書かれているのは作品上、大問題なのですが……?》

連音「そこまでなのか!?」

古鉄《そこまでなんです!!》




アリシア「そういえばさ…前に、『どうやって恭文は仁村姉妹にフラグ立てたんだ?』って聞かれたのよ?コルタタさんに」

連音「あぁ、そういえばそんなメールを貰ったな」

アリシア「ぶっちゃけた話、幕間で結構フラグの種、撒いてるよね……さざなみ寮に」


(金色の女神、スゴイ事を言いやがった。誰も突っ込めないじゃないか!)


連音「もうあれだな。あいつの足跡からはフラグが芽を出して、花を咲かすんだ。もうそれ以外に考えられない」

古鉄《きっとそうです。そして、種を飛ばして見知らぬ土地でフラグが繁殖するんですよ、きっと》







アリシア「―――ではここで、拍手のお返事と行きたいと思います」

連音「感想を頂きました事、作者に代わりまして心よりお礼申し上げます」




犬吉様宛です。 『とある魔導師と竜魔の忍の共闘』オモロー!!です! 『生まれたての風』のシャドウシリーズも楽しく読ませてもらっています。
クロスとシャドウブレイカー両方頑張ってください! p.s 仮面ライダー剣の『take it a try』って曲、連音さんにピッタリだと勝手に思っちゃっています。 by 名無




アリシア「お読み下さって有難うございます。本編共々、これからもよろしくお願いします」

連音「仮面ライダー剣の曲か……ふむ、聞いてみよう」


(竜魔の忍、試聴中)


連音「――中々、良い曲だ。歌詞の所々に心当たる事が多いな、俺には……」

アリシア「具体的にどの辺り?」

連音「特に二番かな?『心を止めて 戦い続けよう』とか……昔の俺もそんな風だったし」

アリシア「……でも、今は違うよ。自分の思いで、自分の心で、立ち向かっているもの……自分の望む姿の為に」

連音「―――大丈夫さ。あの時みたいに……自分の中の闇に負けたりしないよ」

アリシア「そんな事……心配なんてしてないわよ」



古鉄《な……なんですか、この空気は!?》






犬吉さんへ 第二話読ませて頂きました。 どう考えても恭文がカッコよすぎる件について。
………これが、これが主人公の力か!(首領パッ○的な意味で)
ラストシーンに連音さんがいないのは、うっかり死亡フラグを立てたツンデレガンナーのためとか予想してみる。
そして成立する連×ティアですねわかります。 相手のマッチョはアームストロングて……そりゃ勝てないだろ常考。
そんなわけで、主人公的登場の恭文との激突に期待! そしてあとがき拍手返信について―――辰守さんちのアリシアさんはなぁ!
アイドルとか、女神とか!そんなちゃちなもんじゃねぇ! もっと萌えで、ラヴな、言葉で言い表せないほどの何かなんだよ! ………活躍期待してます!

というかアリシアさんへP.S……元ネタ見てきたけど……公式自重www そしてアリシアさん凄すぐるって事を改めて把握www………勝てない………! by 志之司 琳





連音「これは……主人公の力なのか?鼻毛的に」

古鉄《むしろ真・主人公である私のおかげです。バビロン的に》

アリシア「どっちも違うでしょ!?まぁ、作品補正って事で。そして、前回のラストにツラネがいなかったのは、不意打ちする為でした〜!」

古鉄《早々、マスターをカッコ良くする訳には行きませんので……て、なってしまいましたが……無念》

連音「時間が限られているから一撃必殺を狙ったんだが……見抜かれたのは久しぶりだ」


(竜魔の忍、そう言いつつも少し楽しそうに笑う)


アリシア「そして見事に期待を裏切って、ティアナちゃんVSローラちゃん!そしてそのまま、ヤッちゃんVSローラちゃんに!!」

古鉄《ちなみにプロット段階では、ローラさんVS連音さんだったのですが……うちのマスターに変更されました》

連音「また如何して?」

古鉄《連音さんがティアナさんフラグを立てるより、マスターが二人にフラグ立てた方が絶対に面白いと気付いたからです。
それに、クラークさんと戦ったら、またカッコ良過ぎるって言われるじゃないですか》


(青いウサギ、ハッキリと言い放つ。竜魔の忍は苦笑い)


アリシア「しっかしあれよね〜。ローラって子、ヤッちゃんとノリがそっくりって……凄い子だったわね。
床砕くは、壁ぶっ飛ばすは、斧投げるはで……友達いるのかしら?」


(金色の女神、心配そうに言う。気になるのは其処なのだろうか?)


古鉄《ノリとテンションで戦闘力が上がる、性格もマスターと似たタイプでしたし、苦戦しましたね》

連音「これは恭文も、いつもの様に行かないかもな」

古鉄《その通りです。史上初の激戦となりました》

アリシア「そうやって、作者にプレッシャーを掛けないようにね?」

古鉄《しかし、アリシアさんも相当ですね?アイドルや女神以上ってなんですか?》

アリシア「う〜ん、今度ベル○ンディーさんに聞いてこようかな?」

古鉄《知り合いなんですか!?ていうか、実在したんですか!?》

アリシア「電王が実在するんだもの。ベルダ○ディーさんだって、いるに決まってるじゃない」

連音「ばん○いくん……いい加減、俺を敵として認識しないで欲しいんだがなぁ……」

古鉄《あんたもですか!!》










アリシア「さて、後書きもEDとなりました」

連音「ここで、とても残念なお知らせがあります」


(突如暗くなり、二人の上からスポットライトが。しん、と静まり返るスタジオ)


アリシア「第一話の後書きで、IFエンドリストが上げられましたが…………この度、『高町なのは』の名前が消去される事になりました!!」


(神妙な面持ちで言う金色の女神。すると、突然の乱入者が)



???「ちょっと待ってください、アリシアさん!!何でそうなるんですか!?」

アリシア「残念だけれど……彼女は負けてしまったのよ……もう、ヒロインじゃないのよ」

???「本人を目の前にして、何で遠くを見てるんですか!!」

連音「そりゃあ、名前が『???』のままだからな」

???「―――あぁ!?」


アリシア「という事で、お相手はアリシア・テスタロッサと」

古鉄《アルトアイゼンと》

連音「辰守連音でした」

???「わ、わたしは【ボールは友達。怖くない!】です!あぁ、伏せられてる!?」



三人《「「ばいば〜い!」」》



(そして、無常にも後書きは終了する。ED曲は東○魔人学園剣風帳より写楽天。なのはの声の人がやったキャラのテーマ曲です)






おまけ

後書き収録後



???「うぅ……名前すら出せなかった……」

連音「大丈夫。お前こっちの本編でも出番殆ど無いし」

???「はうっ!?」

アリシア「シャドウダンサーなんて、ほぼ絡み無かったものね〜?」

???「はうぅっ!?!?」




古鉄《やれやれ……Sだらけの後書きに乱入とか、どんだけドMなんですか、あなた?》

???「私、ドMじゃないもん!!毎回そう言ってるよね!?」


(???涙を浮かべながら訴える。でも、そんな事は関係ない)


アリシア「大丈夫よ、心配要らないわ?」

???「アリシアさん……っ!?」

アリシア「大丈夫……私が苛められちゃうの、大好きにしてあげるから……クスッ」


(金色の女神、そう言いつつ???の顎を指でなぞる。つーか、色気が半端ではない)


???「ヒィイッ!?え、遠慮しますーーーーーーッ!!」


(???本気で逃走。金色の女神、コロコロと笑う)


アリシア「あ〜あ、あんなに必死に逃げちゃって……か〜わいい〜♪」






古鉄《さすがは年長者………余裕があり過ぎ》

連音「アイツの性格上、いい玩具扱いだな……」






おしまい



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